第12使徒戦から2週間…。アスカが学校に転校生がくると言うニュースをキャッチした。登校中,シンジにその話題をするアスカ。
「シンジ、今日から学校に転校生が来るんですって。こんな、物騒な所に引っ越して来るなんて物好きねぇ」
「……」
「何よ、さっきまであんなにしゃべってたくせに急に黙っちゃって。あっ、人が来るのが恐いのね!…あんた友達つくるの下手だから」
「……」
「なんか返事くらいしなさいよね!まったくこれだからバカシンジなんて言われるのよね」
シンジはその後もなぜか元気が無かった。その後、学校に着くとクラスは転校生の話題で持ちきりだった。男か女か美形なのかブスなのかと言った話しがあちらこちらで聞こえてくる。
朝の8時30分…学校のチャイム音が鳴り、いつも通り担任の老教師が学校に入ってくる。その横には話題の転校生がいた。…かなりの美少女である。先生が自己紹介をするように言う。
「き、きりしま…マナ…です。よろしくお願いします」
「では、みなさん仲良くしてあげてくださいね。霧島さんの席は…碇君の横に座ってください」
マナは席に座るとシンジの方を見る。にっこり笑うマナ。シンジがポッと赤くなる。
「碇君ねっ」
「う、うん」
「かわいい♪よろしくね、碇君」
この二人の会話を聞いてもちろんクラスは完全にひやかしモード。碇と霧島はもうできていると言うヤジも聞こえてくる。…アスカは一人むっとした顔を浮べていた。
…4時間目が終わり、昼休みの弁当タイム。いつもは一人で孤独に弁当を食べつづけるシンジだが、今日は隣のマナが積極的に話し掛けてきた。
「担任の先生が優しそうな人で私、安心しちゃった。ねぇ、よかったら碇君の下の名前教えてくれる?」
「シンジ…碇シンジだよ。マナ……霧島さん」
「シンジ君ね♪よろしく。…ねぇ、この学校って屋上出られるの…」
「…うん。そうだけど…」
「私、シンジ君と一緒に眺めたいなぁ。行きましょ、シンジ君」
「…う、うん」
…霧島マナは必死でシンジを誘っていた。そう…自分は初号機パイロットのスパイ。シンジの恋人になってEVAの情報を聞き出すと言う任務を果たさねばいけないのだから。
…シンジとマナは屋上で第3新東京市を眺めている。マナはペンダントを差し出した。マナがにっこりするとシンジはまた、顔が少し赤くなる。
「いい眺めねぇ」
「そうだね…。まだまだ自然も残ってるね。…使徒が攻めてくるのは困ったもんだけどね」
「シンジ君…エヴァのパイロットだもんね。…私ね、自分が生き残った人間なのに何もできないのが悔しい。うらやましいのよ…シンジ君が」
そう、マナは何もできなかった…。マナも元々は、EVAと同様使徒戦を想定して作られたロボットのパイロットだったのだが…、(*ただし、マナは6年後の戦争を想定したものだと聞かされていた。)…激しい振動で体を壊してしまったのだ。
…マナは今回の任務を長官に言い渡され、シンジの写真を見せられたとき、非常にびっくりした。EVAの噂は前から聞いており、そんな戦績をおさめるくらいだから、さぞ凄い肉体の人に違いないと思っていたからだ。
だが、実際にはどう見てもひ弱そうな、ごく普通の少年…。あのN2爆弾ですら倒せなかったと言う使徒を倒したEVAのパイロットにはとても見えない。
マナが突然、シンジに持っていたペンダントをつけ始めた。…シンジはじっとしていた。マナはなにも慌てないのを不思議に思いながら…つけ終わった。
「これ、シンジくんにプレゼントよ♪」
「…あ、ありがとう」
…昼放課が終わり,シンジとアスカはEVAシンクロ率の訓練のため早退した。…シンジがちょうどNERVに向かい始めたその時刻、加持がある情報をつかんで信長に報告していた。
「シンジ君に戦略自衛隊のスパイがついたようです」
「ほう」
「名前は霧島マナ。学校に転校生として現れました。…さっそくシンジ君に積極的にアプローチしてます。…いかがします信長さん?」
「ほう、と言う事はシンジと同年代のスパイか?」
「ええ。まったくシンジ君と同じ年齢ですよ。彼女の事は詳しく調査しましたが…まあ、たしかに14歳としては有能かもしれませんが…しょせん、まだ子供と言った感じです」
「長井のやつはなんか言ってたか?」
「石川派閥にNERVのスパイをするようにごり押しされて、理由も無く反対するわけにもいかなかったので仕方なく送りこんだと言う事です」
「今回のスパイの件はとりあえず無視する。…むしろ、俺にとって碇シンジを探るいい機会だ」
信長と加持は霧島マナがスパイだと言う事を確信しながら、人類補完計画を止めるためにはゲンドウの敵を少しでも作りたいと言う事もあり、あえて無視する事に決めた。
…その日のシンジのシンクロ実験は何故かいつもより20%ほども低かった。…ちなみに、霧島マナの登場はアスカに恋の嫉妬心を抱かせているのは間違いなかった。
その3日後…加持はNERVの休憩室で赤いペンダントを一人みつめているシンジの姿を見つけた。…サードチルドレン碇シンジと言う人間を探る良い機会だと思い話しかけてみる。
「アスカから噂は聞いてるよ。彼女からもらったペンダントだろ?」
「ええ、そうです。…今はまだ、彼女って決まったわけじゃないけど。…僕はマナ…霧島さんとどうすればいいのかな?加持さん。」
「…シンジ君。その子と一緒になりたいのなら、まず彼女が何を望んでいるのかよく見るんだな。あと自分から行動しないと」
「よく考える…自分から行動ですか…」
…加持の言葉を聞き翌日、さっそくシンジは自分から行動を始めた。…とりあえず霧島マナと一緒に途中まで帰る事にしたのだ。…マナはシンジの恋人になるのが第一の任務。当然,話しは盛り上がる。
マナはシンジと恋人になるためには、できるだけ多く会話をしなければいけないと考え、コンビニによって行くと言い,シンジも一緒に店内に入らせた。
「霧島さん、なんの料理が一番好きなの?」
「そうね…。やっぱりカレーかな。…あれを食べてる時が一番気分がいいもの…。」
…元々,シンジは料理上手だ。カレーなど簡単に作れる。…だが、シンジは彼女の為にさらなるカレーの研究をする事に決めた。
「ねぇ、霧島さん。…今度、ぼ、僕とデートしない…」
「う、嬉しい〜。へへ、もう嘘だって言っても手遅れだからねシンジ君。」
そう言うとマナは胸を意識的にシンジの背中にくっつける。色気でますますシンジを誘惑させようと言う気だ。
「き、霧島さん。そ、その僕は嬉しいんだけど、む、胸が。」
「へへ、いいじゃない別に。うれしくないの?…私、女としてそんなに魅力がないのかな?」
「そ、そんなことはないよ。…霧島さん。」
慌てて否定するシンジの様子をみてマナは自分の任務がうまく行っている事を確信した。…シンジからEVAの情報を聞きだせれば、つらい強制的な兵舎生活からも別れを告げられるかも知れない…。
マナとシンジが仲良くコンビニから出てくると加持に偶然出会った。…厳密には二人を尾行した加持が偶然を装っていたのであるが。
「お、シンジ君。…あれ、隣の子は?…そうか、その子が例の子か」
「あ、霧島さん。…この人はNERVで働いている加持さん。」
「霧島マナです。…こんにちわ。」
「おお、噂は聞いてるよマナちゃん。…シンジ君とはうまくやっていけそうかい?」
「あ、は、はい。…そ、そうですね。」
「ははは、そりゃ良かったなシンジ君。…じゃあ、俺はこのへんで」
…このマナが現在おこなっている、恋人スパイと言うのは旧ソ連が盛んに行っていた諜報活動だ。…ターゲットになる男の性格や経歴などを徹底的に調べあげる。
そして、ターゲットの理想の恋人になり仕事の話し(*諜報している側が聞き出したい情報)の相談にどんどん乗り、ありとあらゆる適確なサポートをしてあげるのだ。
こうして、ターゲットはますます恋人の事を信用して、他人には絶対に話さない重要な情報まで恋人に告げるようになる…。その情報を恋人は自分が所属している機関の上層部に回すのである。
…加持はシンジがその諜報活動に見事に引っかかっている可能性が高いと思った。