信長と濃は、早朝出勤だったため、夜6時と早い時間に帰宅すると帰って来た。…その二人にも気付かなかったほど激しく、シンジとアスカがもめていた。
「霧島マナ…あの子、絶対スパイよ!…シンジなんかが、もてるわけないでしょ!」
「そんなの嘘だよ!・・・どうしてそんな事言うのアスカは?」
(…ほう、さすがにアスカは鋭いな。なんの情報網もないのに勘だけでスパイだと見抜くとは。)
濃は二人の様子を見て苦笑しながら、よこから口をはさんだ。
「仕方ないわねアスカは。…許してあげてねシンちゃん。…アスカったらシンジ君の事が好きだからやいてるのよ」
その声でやっと二人の存在に気付いたアスカ。…反論の返事を返す。
「ち、ちがいますよ濃さん!…どうして私がバカシンジなんかを好きにならなきゃいけないんですか」
…濃はマナがスパイだと言う事はまだ知らない。…これでシンジを賭けた壮絶な二人の女の戦いが始まるわよと、大変マナの登場を歓迎しているのである。
「いいシンジ。これはあんたのために言ってあげてるのよ。しっかり聞きなさい。…1人で寂しく日常を過ごすシンジに『私を貴方の女にしてぇ』とか言って接触。エヴァ初号機パイロットであるシンジにエヴァの情報を聞き出そうとしているのよ」
(当たってるぞ。…アスカ、あいつ本当に鋭いんだな。…しかし、こんな子供にまで諜報活動が見ぬかれてるとは戦略自衛隊は一体?)
「ちがう!…そんなことあるわけないよ!」
…二人の会話にまたもや濃が首を突っ込む。
「ふふふ、面白いわ。今度その子、家に連れてきなさい!」
濃が不気味に笑っている。…こういう時の彼女には逆らわないほうが無難だと悟るアスカと濃。…もし、逆らえばアスカには鉄拳が、信長は夜の生活拒否が待っているのだから。
…その次ぎの日の放課後、学校の図書館。マナとシンジが屋上でデートの話しをしていた。…シンジは織田信長の本を持っていた。
「ねぇ、シンジ君。今度のデート。芦の湖なんてどう?」
「そうだね。ここから20分くらいだし。…わかった、僕がお弁当作ってくるよ!…料理だけは自信があるから」
「あ、私がシンジの分も作るからいいのよ」
「いや、僕が…どうしてもやりたいんだマ・・・霧島さん」
「……じゃあこうしましょう。二人で弁当つくって交換するの♪」
「うん。そうだね、そうしよう。じゃあ、今度の日曜日…バスの時間とかは僕が調べといて電話するから」
…こうしてゼーレの予言書によると最初で最後になるシンジとマナのデートが始まる事になった。…シンジとマナの会話を加持はしっかり盗聴していた。
…デートの約束をした二日後の金曜日、訓練が終わった後、第3新東京市、新歌舞伎町通りでシンジは歩いていた。加持はまたもや尾行している。
シンジはその夜,濃とミサトが帰ってくるのが遅くなるとわかっていたため、外に食べに行くようにしたようだ。…エヴァのパイロットとしての報酬で金は余るほどある。
Aファミリーレストラン店内に入ろうとした直前、またもや加持と信長が偶然を装ってシンジに顔を出す。そしてこれは本当に偶然だがその隣にリツコいた。
加持が『何処に行くのか?」と質問すると『ここで1人で夕食食べる』と言うので、加持は自分も腹が減ったところだといいシンジと同じデーブルで夕食を取る事にする。
「ははは、そうか。よかったなシンジ君。日曜日はマナちゃんと芦ノ湖でデートか」
「はい加持さん…。コースも、もう決めています。…でも霧島さん本当に喜んでくれるかな?」
「ははは。それは大丈夫だろう。…シンジ君、デートをOKしてくれた彼女の気持ち大切にしてあげるんだな」
「はい!」
シンジは力強く加持に返事をした。それを内心呆れ顔で横で見る信長。
(やれやれ…。EVAに乗って使徒と戦っているときは俺を抜いてネルフNO1の切れ味を見せても女になると、恋人スパイにころっとだまされてやがる。)
…日曜日、シンジとマナのデートの日がやって来た。…マナにとって上司の『命令』のデート。…彼女はセカンドインパクトの影響で幼い頃に両親を無くし、戦略自衛隊に命を救われ、その代償として兵士になるための地獄の訓練が与えられた。
当然、学校になど通えない。…外出すら許されず、休日すらなく毎日訓練漬け。…それは人殺しのための訓練だ。…生来、優しい性格の彼女にはあまりにも酷だった。…もちろんおしゃれなど夢のまた夢であった。
…それが、今回の任務で一転。…なぜなら碇シンジに恋人スパイを送ろうとしていて、その候補を探している時、適任だったのが霧島マナだったからだ。
霧島マナはまさに”シンジ殺しの女”と言えた。…使徒戦で日々恐怖におびえるシンジを和ませるかわいさ。…母親を事故でなくしたシンジを優しく包み込む母性…。
マナが恋人スパイに決まった日から彼女の訓練は一気に変わった。人殺しの訓練からシンジを100%惚れさせる訓練に変わったのである。そのためにはありとあらゆる男の好みを覚えさせられた。
その訓練の中でマナが何より嫌だったのがセックスの訓練だった。…マナの処女は無残にも戦略自衛隊の教官によって奪われたのだ。それだけでない。ここで書くのはやめるが、さらに酷い事もされたのだ。…もはやレイプ同然の訓練だったが、一兵卒である彼女は教官に従う他なかった。
バス停でマナを待つシンジ。なんと約束の2時間も前からシンジはそこにいた。…マナは『シンジ君より先に来るため』に40分前に来たのにとシンジが自分とのデートをいかに楽しみにしたいか実感し、かなり罪悪感を覚えた。
バスで目的地に着くと、まずは海賊船に乗る二人。…その次ぎはロープウェイに乗って駒ケ岳山頂へ。…セカンドインパクト前は学校の野外学習でここで来る人も多かった。そのロープウェイからみる景色は天気がいいと絶景らしい…。
「ほんと、いい景色ねぇ。このロープウェイから見える町って」
「うん、そうだね。天気悪いとこの窓ガラスがくもって何も見えなくなるらしいんだ。…今日は晴れでラッキーだったよ」
12時ごろ…湖が見える駒ケ岳頂上に着いた二人。マナとシンジがテーブルに向かい合い、その机の上にはシンジとマナが作ったお弁当が並んでいた。
「霧島さんが作ったお弁当…おいしそうだね」
「ねぇ、マナって読んでよ」
「な、なんか恥ずかしいよ…」
「じゃあ、このお弁当はお預けね」
「わ、わかったよ。…マナそのお弁当を食べさせてくれない?」
「…好きよ、シンジ」
マナがシンジにキスをする。…無邪気な自分の正体も知らないはずの同じ年の男の子へのキス。…それはマナにとって男を喜ばせる訓練のために強制的に教官にされたキスよりも何倍もマシだった。…このキスも上の強制と言えば強制になるのだが…。
その後、箱根湯本温泉街に向かう二人。…周りの店を見て渡るだけの約束だったのだが、マナは温泉に入りたいと言い出した。…混浴風呂…もちろんマナがシンジを誘惑させるのを狙ってのものだ。
「マナ…ちょっと、ここ混浴だよ!…他の所にしよう」
「いいじゃない。…私じゃダメ?…シンジ」
そう言うと、マナはシンジの腕に手を回し、背中に胸を意識的にくっつける。…シンジはなんとか断ろうと必死だったが結局マナがバスタオルをつけると言う条件で混浴に入る事になった。
「シンジ君。…ちょっと熱いね、ここ」
「まあ、こういう場所の温泉って何処行っても、たいてい熱めにしてあるよ」
「そっか。…ねぇ、シンジ君、見たいんでしょ。…バスタオルとろっか?」
その後、混浴風呂で二人は…ここでは書けない事をした…とだけ言っておこう。…こうしてシンジとマナのデートは終わるのであった。さて、場所は変わってNERV本部の作戦部長室。
「おう、加持戻ってきたか。…で、あいつらのデートはどうだった?」
「一気に肉体関係にまで進んでしまいましたよ。…シンジ君はもうメロメロですね」
「ほう。…結構やるな霧島って女は。…ところで加持、お前の事だからもう知っていると思うが前に戦闘機民間人爆撃事件の騒ぎになった犯人が捕まった。」
「…その犯人が驚いた事に、シンジ君と同じ14歳の少年だそうです。…この資料を見てください」
加持がそう言ってメモ書きを渡す。…そこにはEVAに対抗して作られたトライデントと言うロボットの資料が乗っており、その操縦者が今回の犯人であることが示されていた。信長がそのメモの感想を口にする。
「ほう、EVAに対抗して作られたトライデントか。…なに、パイロット選出候補の名前に霧島マナもあるぜ」
「ええ。…でも、トライデントに訓練に乗っているとき、激しい振動で内臓をやられたらしくて。…それは彼女だけでなくパイロット候補に選出された子供は30人の中で2人を除き、全員同じような目にあっています。その2人の中の1人が今回の移動物体事件を引き起こした犯人が浅利ケイタです。」
「なるほど…。それでこの戦闘機民間人爆撃事件を起こした戦略自衛隊の動機はなんだ?」
「トライデントに乗っていたパイロット浅利ケイタを逃亡したのを止めようとしたのが原因ですよ」
「んで、結局今日まで捕まえられなかったのか?まったく情けない連中だな。さて、俺はその犯人・浅利ケイタを見に行くとするか」
信長は逃亡のさいに重傷を負い、命すら危ないため現在戦略自衛隊病院の集中治療室にいる浅利ケイタを見に行く事にした。関係者以外立ち入り禁止のその集中治療室にはリツコの姿があった。
「おうリツコ。…で、こいつの状態はどうだ?」
「まぁ、助かるでしょうけど、…その後は命令違反のため裏で暗殺ね。…子供を表だって死刑にするわけにはいかないから」
「…ピストルならましだが、拷問にかけられて死ぬかもしれん。こいつにとって今、死んだほうが楽なのかもな」