携帯電話でマナを家に来るように誘ったシンジ。…これは濃の提案である。…アスカはシンジがマナが家に来る約束をしたと聞いて途端に不自然となった。明らかに焼きもちしている。
マナが約束通り信長の自宅にやって来た。…普段はこの時間仕事の信長も、少し体調が悪いと言う理由をつけ、無理を言って早めに帰宅させてもらっていた。濃は定休日である。
「さて、今日のメインディッシュよ、みんなとんどん食べてね。」
いつも通りガツガツ食べまくる信長。…お客の霧島マナに対する遠慮などまったく無いようだ。…あまりの早食いに普段見なれていないマナは呆然としている。
「あの、スゴイですね信長さんって…」
「…いつもこうなんだよマナ、信長さんは。…早食いは体に悪いから、少しはゆっくり食べろって言ってるんだけどね」
信長はそんな二人の会話などまったく無視。…隣にスパイがいると知っているにも関わらず。…さすがに図太い。早くもおかわりをよそりに台所に移動している。
「そうそう、霧島さんはシンジ君、なんかのどこが気に入ったのかな?」
「…目…かな」
「ところで、霧島さん。あんたの本当の目的は何?」
「アスカ!なんでそう言う事言うの」
「アスカさん。私は、私はシンジ君の事を愛しています」
…信長が椅子に戻ったとき呼び出しのチャイム音がした。
「はい、どうぞ」
シンジがドアを空けると入ってくるのは忙しいはずの加持だ。…なにせ3重…いや4重スパイをしている男である。信長がすぐその疑問を口に出す。
「どうしたんだ?加持…お前仕事は?」
「シンジ君に電話でどうしても来てくれと頼まれましてね」
「…どういう事だシンジ?」
「これでやっと皆さんそろいましたね。アスカはいない方がかえっていいかもしれません。…まず始めに…加持さん、ここ盗聴されてませんか?」
「どうしたんだシンジ君?そんな事聞いて。まぁこの部屋までは諜報部も盗聴してないが」
「…加持さんお願いです。マナを…マナを助けてください。このままだと確実に死んでしまうんです」
シンジはぼろぼろ泣きながら加持に訴えた。…さすがに驚いた加持。
「ふう〜。男のくせに大泣きしやがって。…シンジこれはどういう事なんだ」
信長の言葉であった。シンジの行動は誰が見たとしてもあまりにも不可解で仕方がない。
「…もう皆さん知ってるかもしれませんがマナはスパイです。」
「…ちょっと。シンジ君まで酷いよ。」
前はアスカに『マナはスパイではない』とあれほど反論していたのに…と驚く信長と濃。…信長は疑問に思った事をすぐ口にした。
「下手な芝居は止めろ霧島マナ。お前の事はとっくに調べがついてある。…シンジ、こいつがスパイだと見破ってて、どうしておまえは彼女とデートなんかしたんだ?」
ショックのあまり沈黙してしまうマナ。…スパイだとバレた自分はこれからどうなってしまうのか…。よくて監獄、悪ければ死刑…。
「…それは、僕がマナの事を好きだからだよ。…佐藤…いえ……織田、織田信長さん…」
…さすがの信長もこのシンジの言葉には極度の動揺を示した。…間違いない、シンジは信長の正体を知っている。
(なぜ、なぜわかったんだ…。いくら下の名前が”信長”で、シンジは同居しているから俺の性格もよく知っているとは言え…。俺は400年以上前の人間だぞ。…せいぜい昔、本で読んだ”織田信長”と似ているなと思う程度だ。)
「どうしてわかったのシンジ君?…そうよこの人の本当の名前は織田信長。…それで私は濃姫。…この人の正妻よ」
「ちと、濃さん…。冗談がすぎますよ?」
…あまりに非科学的な事を言う事に割り込んで入った加持であった。…しかし濃は無視。
「やはりそうでしたか…僕は信長さんとは逆で未来から来たんです…だからもしかしたらと前々から思ってたんですよ」
…加持は思い出した。…あの第10使徒戦と第12使徒戦でのシンジのおかしな行動。落下してくる使徒にスタートダッシュをせずに1人大幅に遅れたはずなのに、どんぴしゃりのタイミングで使徒をキャッチ。
…その上、使徒を受け止めている時には、シンクロ率が不安定な戦闘中とはいえ、今まで見た事もないあまりにも強力なA.Tフィールドを展開していた。そして未来から来たのが本当ならば…
「シンジ君。…君は今までNERVに楽に倒せる使徒をわざと苦戦しているように見せかけたんだな」
「はい。シンクロ率も意識的に低くしてます」
「…シンクロ率まで抑えてたのか。…それでシンジ君未来の事について話し手くれるね?」
「お願いです。例え何があってもマナだけは助けてくれると約束してください。…そうじゃないと僕は話しません」
「シンジ君…どうしてそこまで私の事を…私はスパイなのよ!…あなたを騙してたのよ!」
「いいんだよ、そんな事はマナ」
「…わかった。それくらいの条件なら喜んで応じよう」
シンジが覚えている限りの事を信長達に話す。残念なからシンジは人類補完計画についてはほとんど知らなかったようだ…。しかしシンジの話した未来の情報は非常に貴重なものだった。…これから来るすべての使徒の攻撃方法や人類滅亡の日がわかったのである。
ただ、レイがクローン人間で半分使徒である秘密はさすがに話さなかったが。…信長以外は、皆、半信半疑だったが特にマナはわけがわからずきょとんとする話しだった。
「なるほど…。シンジが前にいた世界に俺と濃はいなかったのか」
「はい。作戦部長は信長さんでなくミサトさんでした。…僕とアスカが同居していたのもミサトさんの家です」
…信長がいなかったとなると、当然、戦略自衛隊の長井もその世界では2015年になる前に死んでいたはずだ。…彼は信長に何度も命を救われ、あそこまで出世したのだ。
「もう一度聞こう。…スパイだとわかっててもこの霧島マナを助けたいのか?」
「はい。…そうです信長さん」
「わかった。俺がなんとかしよう。」
「ありがとうございます…。シンジ君、信長さん」
次ぎの日。…信長は速くもこのシンジの話しでゼーレ側の人類補完計画をつぶす策を立てた。…それは一般人には理解できないあまりにも恐ろしい作戦であった。昼の仕事の休憩時間加持との電話。
「加持、お前以前にゼーレの老人達がアフガニスタンの地下に潜伏していると言ってたが100%間違いないな」
「俺はまだあなたの正体が織田信長だと言う事がいまいち信じられませんが。…さて、移動している可能性もありますので、100%とは言いきれませんが10中8、9は」
「よし。…第2支部が消滅したら、それはウサマ・ビン・ラディンの工作による結果だと言う情報を流せ」
「ウサマ・ビン・ラディンですか…、2001年9月…セカンドインパクトの約一年後にニューヨークの貿易センタービル事件を起こした」
「そうだ。…セカンドインパクトで力が弱っていたアメリカはアフガニスタンを報復攻撃したが、結局ウサマ・ビン・ラディンを捕まえる事まではできなかった…ビン・ラディンが今も生きてるかどうかはわからん…。だが、生きている事に仕立てあげてしまうんだ」
「…わかりました。その程度の事ならやってみせます。しかし何故そんな事を?」
「ちょっとした前工作さ。…例えどんな残酷な手を使っても俺は2つの人類補完計画をつぶして見せる。あの比叡山の焼き討ちを超える事をしてでもな。お前も覚悟しときな!…この計画が終われば俺が織田信長と言う事が確信できるだろ。…その残酷さからな」
「…恐ろしいですね」
1571年…800年の伝統誇る比叡山の延暦寺を焼き打ちし…寺どころか山一つを丸焼きにし、男も女も子供も区別など一切せず、殺しに殺しまくり、日本人の宗教感を根底から覆した戦である。
…この時の、死人は、信長本人もおおよその把握すら指定ないほどだ。…現代では一説に3000人余と伝えられている。おまけに女や子供は無理やり、寺に連れてこられた者も少なくなかったにもかかわらずだ…。日本人の現代の無宗教の原因の大きな要素になった戦でもある…。
加持ほどの男が信長の言葉には震えが止まらなかった…。信長は加持との電話が終わった後、シンジと霧島マナを司令室に連れて行くそこには部屋の主であるゲンドウと冬月の姿があった。信長がすぐに用件を言う。
「単刀直入に言いましょう。…1億払いましょう。その代り、ここにいるスパイの霧島マナの事は見逃して俺の保護下に入れて欲しい」
「何故、そんな事をする信長君?」
「冬月福司令…シンジは霧島マナの事が好きです。…私がスパイだと言う事をばらしても、それでも好きだと譲りませんでした…。EVAのシンクロ率には心が影響します。…霧島マナを失えばその心に大きな傷がつきます。…それだけは俺は避けたい…、彼女を雇っている戦略自衛隊の方は俺がなんとかしてみせます」
「使徒の殲滅を確実にするためなら、別にいいだろう。1億払う必要はない。なぁ、碇?」
「ああ」
「感謝します。碇司令、冬月福司令」
シンジの前の世界でミサトにはできなかった…、信長の実力があったからこそできる駆け引きだった。…歴史は確実に変わっている。
作者より
シンジが逆行していたと言う設定は最初から考えてました。いや、本当なんですってば。そんな、疑いの目で見ないで。徐々に、シンジが未来を知っているとしか思えない行動をさせてきたつもりなんですが…皆さん、どの辺でシンジが逆行しているって気がつきました?解答・感想メールお願いします。