ゲンドウと冬月が無意味なほどに広い司令室で対応に困っていた。…突然、ゼーレの連中と連絡が取れなくなってしまったのである。…ゼーレとは始めから裏切る予定ではあったがシナリオには無かった事だ。
「どうするつもりだ碇。…まさか老人達と連絡がつかなくなるとは」
「さぁな…。だが、むしろ我々にとって好都合かもしれん」
すでにアメリカはアフガニスタンに攻撃を仕掛け始めた。…そんな状況下でアフガニスタンの地下に潜伏していたゼーレは盗聴の危険性から安易に連絡を取れなくなってしまったのだ。
「やれやれ。…第2次アフガニスタンの大規模テロによる戦争か。まったく想定外だったな」
14年前に逃したウサマ・ビン・ラディンを今度こそ捕まえるべくアメリカは必死であった。…国会では臨時軍事予算費を大量に放出する事を決定。兵士も通常の1.5倍に増員した。
皮肉にもこの兵士増員は失業アレルギーだったアメリカの失業率を一気に低下させた。…さらに戦争による兵器関連の注文などにより経済も復興の兆しも見せ始めていた。…世の中、矛盾極まるものである。
14年前はセカンドインパクトの直後のため、アメリカに支援するどころではなかった国々も今回は自分達もテロの被害を受けた事で次々とアメリカに協力して参戦していった。
さらにアメリカ政府は一連のテロにイスラム教徒も大量に巻き込まれた事を強調。…これによりイスラムの国々もアメリカに協力はしないまでも、アフガニスタン側に味方する国は一つもなかった。
…所変わって信長の家。シンジと信長がアスカが親友の家に遊びにいったので第15使徒戦について話し会っていた。
「ほう、使徒の攻撃でアスカに精神汚染が…。それでそのまま精神病になっちまったと。確かにあいつは精神的にひ弱だしな」
「…僕は2度とあんなアスカを見たくありません」
「よし、じゃあお前が前線に立って精神攻撃を受けてみろシンジ」
「僕がですか…。そうですね…わかりました」
…今や信長にとってシンジは自分がテロ事件を起こした事に気付かれる可能性がある危険な存在だった。…いかにサードインパクトを防ぐためとは言え、このような大量虐殺はさすがにシンジは反対だ。
…そしてシンジは信長が事件の首謀者であることを世間にバラすだろう。…今、信長が事件を起こした事がバレてしまえば、アフガニスタンへの攻撃が止まってしまう。…サードインパクトを起こす力を失いかけているゼーレに元の権力が戻ってしまう。
だからできればシンジには死んで欲しかった。…シンジが死んでしまえば余計な心配をする必要はなくなる。…今まで多少なりともかわいがっていた子供に死んで欲しいと言うのは残酷だと信長は自分でも思うが…。
しかし、この残酷さがなければ信長は戦国の世を生きく事はできなかったであろう。
(…だが、まさか俺の立場上積極的に殺るわけにはいかん…。次の使徒戦で死んでくれれば楽だが。…残りの使徒を倒す自信はあるしな)
…アメリカがウサマ・ビン・ラディンに敵対するアフガニスタン国内の勢力、北部同盟を味方につけると、もはやアメリカの勝ちは間違いないところになった。
14年前、アメリカによるアフガニスタンの攻撃を支持はしなかった、国連の常任理事国の1つである中国も自国も攻撃を受けたことから、このアメリカの攻撃を正式に承認。…国連でもこの武力制裁は正当化されたのだ。…第15使徒戦直後のNERV作戦部長室。
「…アメリカの勝ちは間違いないな、加持。アフガニスタンの核保有疑惑が少し気になるが…」
「私は恐らく持っていないとは思うんですが…、証拠がありませんからね」
「それで、かんじんのゼーレの方はどうなった?」
「やりましたよ!トマホーク(地下室を壊すための特殊爆弾)が、ゼーレ本部に直撃しました。どうもアメリカ空軍がウサマ・ビン・ラディンの組織の拠点の一つだと思ったようですね」
「…そうか、やったか!…それでゼーレのメンバーのやつらの命は?」
「…残念ながらそっちはまったくわかりませんね。…今のアフガニスタンでは死体の確認など不可能ですから」
「そうか…。死体を確認しないと、いまいち不安なんだが」
シンジの情報で、もうすぐ使徒が来るのがわかっていたので発令所に向かう信長。…発令所で30分ほど待っていると警報が鳴った。…第15使徒である。
シンジの前の世界では、この時極端にシンクロ率が下降して言ったアスカだが、信長のネオヤシマ作戦によりシンジの強さを見せつけられていない分、それほどシンクロ率は落ちていない。
だが、信長にとってもはや、アスカのシンクロ率はどうでもよくなっていた。…シンジの未来の話しで零号機のみで残りの使徒を倒せるのは確信していたからである。
作戦会議では信長のネオヤシマ作戦が3戦連続で採用されるものと思われていたが、信長本人が軌道衛星上にいる今回の敵は距離がありすぎると言う口実でこれに反対した。
信長は作戦など一切無しと言いきり、威力偵察のためとりあえず、初号機だけを出陣させる事にさせた。リツコもミサトもなぜ3体出差ないのか?と猛反対した。
だが、結局、信長が使徒の攻撃方法がわからないまま3体が一度に倒されてしまっては困るといい、強引に押しきられそうになったのだが、碇司令の鶴の一声が事態を変えた。
「それは許可できんな信長君。零号機と弐号機が出撃。レイ、ポジトロンライフルを持て。ネオヤシマ作戦で行く」
「そんな、父さん」
「よせシンジ。上司命令だ」
(初号機を失わないためか…。確かにここで初号機を失ってはあの人類補完計画ができなくなるからな)
さすがに信長も立場上、碇司令には逆らえず、零号機と弐号機が出撃した。すぐに使徒は弐号機に精神攻撃を仕掛けてきた。…アスカに過去のトラウマが蘇る。
…こうなる事がわかっていたのに止められなかった。シンジから苦痛の叫び声があがる。
「ア、アスカ!」
(やれやれ…。ありゃアスカはダメだな。司令があの槍を出すまで待つしかないか)
信長はアスカの援護のため、ライフルを発射するが、予想通り衛星軌道上にいる敵にはまったく効果がない。アスカは、精神攻撃にやられ縮こまっている。
「このままじゃ、アスカがやられるわ」
「ううう、私の過去を見ないで・・」
ミサトの悲痛な叫び…。アスカの恐怖…。だが、弐号機のシンクロ率低下は40%でなんとか止まった。信長の指示でもう一度、ポジトロンライフルを撃つが、まったく効果無し。…そこでようやく碇司令はロンギヌスの槍を使うように指示。…第15使徒は殲滅された。
その頃、戦略自衛隊、総帥室。信長の策にはまり、壊滅直前のゼーレ(表向きは国連)から、国連に反乱を起こしたとして、3ヶ月後にNERVを攻撃せよとの命令がゼーレ代表の男から長井の元に届けられた。その男の隣には第17使徒のダブリス(渚カオル)がいた。
「長井総帥、NERVが国連に反乱を起こした証拠はこの書類に詳しく書いてあります。これは国連命令です。もし従わないと、どうなるかはお分かりのはずです」
その男から長井にNERV反乱の証拠の書類が渡されるなり、長井はその紙を真っ二つに割った。
「笑わせてくれるなゼーレも。…もう、あんた達に昔の力がない事ぐらいわかってるんだよ」
「な、なぜお前ら戦略自衛隊ごときが我々(ゼーレ)の事を知っている?」
驚きのあまり、その男は言らない言葉まで口走ってしまった。…長井に加持の情報通り、100%ゼーレが壊滅寸前状態である事を確信させてしまったのだ。
長井はふところにしまってあったピストルを出すと、その男と隣の少年(第17使徒ダブリス)に向かって発砲した。…使者を殺し戦略自衛隊がゼーレに従う意思がない事を明確にするためである。
長井も信長の力に助けられたとは言え、派閥など関係無く、実力でここまでの地位に昇りつめた男だ。この至近距離で弾を外すわけはなく、男は即死。…だが、もう一人の少年(第17使徒ダブリス)には不思議な光で弾を弾き返された。
あまりに現実離れしたその光景に、驚きのあまり固まってしまう長井。なにかその少年に話そうと口をあけるのだが、言葉が出ない。…その少年はそんな長井を見てにこりと笑った。
「始めまして、長井司令。僕はゼーレから送りこまれた第17使徒で渚カオルと言います」
「そうか、君が。…ある男(加持)から第17使徒は人間の姿をしていると聞いた。…私の命もここまでかな」
「僕は、あなたを殺す気はありませんので心配しなくいいですよ。…それにしても、戦略自衛隊が僕の事まで知っているとは思わなかったよ。ゼーレも案外マヌケだったのかな」
実際には、渚カオルの事やゼーレと言う組織の存在は長井個人だけが知っている情報であり、戦略自衛隊としてはまったくキャッチしていない情報であった。
「一体、どうしてここ(戦略自衛隊)に来た?」
「僕はNERV本部に行く前に、そこで死体になってる男のボディガードを代役でゼーレに頼まれただけですよ。…なにせ、今のゼーレは壊滅寸前で人材がいないんですよ。じゃあ、僕はこのへんで」
そう言うと、渚カオルは総帥室を去って行った。長井はこの事を信長に報告する。ゼーレの人類補完計画はほぼ完全に失敗した。残るはNERVの人類補完計画だ。…できれば碇司令と冬月副司令を暗殺してしまいたいところだが。
…NERV本部。第15使徒戦の精神攻撃の影響でアスカが入院した。…ただし、本人は思ったよりは元気な様子で、シンジによると以前の世界よりはかなり良好な状態だと言う事だった。アスカの見舞いの帰り道…。
「アスカ、たいしたことなさそうねシンジ君」
「そうだね、マナ。…でも、まだ第16使徒が…」
…信長の予想に反して使徒戦の精神攻撃の影響が少なかったアスカ。…人類補完計画にはほとんど関係ない彼女の容態にはそれほど興味はない。まぁ同居しているから元気だったらそれに越した事はないと言う程度だ。
第16使徒襲来の知らせが届いたのは、それから5分後の事であった。