第16使徒の侵攻…初号機は碇司令の命令により凍結中のため、出撃できない。…これは初号機を失っては碇司令の人類補完計画が達成できなくなるためである。
この命令にはおとなしく従った信長。…シンジ抜きでも敵を倒せるように策をあらかじめ練っていたからだ。…今回の作戦について説明をする信長。
「いいな、今回の作戦名はヤシマ2段だ。…まず、アスカ!」
「は、はい」
「始めにおまえに出撃してもらう。新開発して充電ができるようになった、ポジトロンライフルを持ってな。…ただし、出撃したら絶対にその場から動くな!…使徒をひきつけるんだ」
「…はぁ、おとりなんて好きじゃないけど、分かったわ」
「次ぎはマヤ。使徒が弐号機に攻撃を仕掛ける寸前で、弐号機をEVA出撃用のエレベーターで地下に降ろせ。…同時に2個目のポジトロンライフルを持った零号機を出撃させる」
「零号機は始めから出撃させないんですか?」
「ああ、そうだ。…レイ、出撃したら、使徒が弐号機の退却に気を取られているうちにポジトロンライフルを撃つんだ」
「はい」
「そして、レイの攻撃で身動きできなくなっているうちに、アスカが地上から、ポジトロンライフルを発射するんだ。…これで、少なくともヤシマ作戦の時の2倍のエネルギーを使徒にあてられる、勝てるはずだ」
作戦会議が終わり、使徒戦へ移る。敵の形はDNA型。…まずは作戦通り、弐号機だけを出撃させる。…その場で待機するアスカだが、なかなか使徒が動いてこない。
「けん制攻撃だ!バレットガンを」
すぐ近くの武器庫からバレットガンを取り出すアスカ。…あくまでも使徒を弾きつけるための射撃だ。軽く数発弾を撃ち使徒の気を弐号機に使徒の注意を引かせる。
…その様子を見守るNERV職員。レイはいつでもポジトロンライフルを撃てるように精神をひたすら集中させている。…シンジは状況次第では命令違反で独断で出撃する覚悟だ。
(のってこい!この挑発にのってこい!)
使徒は弐号機に襲い掛かってきた。伸びる触手。…使徒の攻撃があたる直前、間一髪でなんとか攻撃をかわし、かろうじてEVA専用のエレベーターで地下へ一時退却する。
危ないところだったと、ほっとするシンジ。…ひとたび使徒が攻撃を開始したら弐号機と融合されてしまい、使徒に乗っ取られた弐号機をまさかEVA本部に退却させるわけには行かず、信長の策は間違いなく失敗したとこだったろう。
それは信長本人にも分かっていた。…あらかじめ使徒の攻撃方法がわかっていたんので、もっと簡単に勝てるだろうと踏んでいた信長は背中に冷や汗が出ていた。
「よし、レイ今だ。撃てぇ〜〜〜〜」
準備万端だったレイは信長の指示でポジトロンライフルを発射!…突然、弐号機が地下に退却したため驚いて、そっちに気を取られていたため、この攻撃をかわすことができなかった。
(よし、俺のねらい通りだ)
信長の策がうまく行きそうでほっとするNERV職員。アスカが今だとばかりにトドメの攻撃を開始する。
「いけぇぇぇぇ〜〜〜〜」
シンジが前にいた時のアスカと違い、精神的ショックを受けていたいため、今のアスカはシンクロ率はさほど落ちてはいない。…これで、もはや使徒は倒したと、シンジと信長も含め、誰もが思った。
…しかし、この超電気エネルギーによる攻撃でなすすべもなく、この世から、全てが消えて行くだろうと思われた使徒が、モニターから姿を消さない。
「使徒、ポジトロンライフルによるダメージ微弱!…まだまだ戦闘可能です」
あ然とNERV本部は静まり返る。…あらかじめ充電してあったため、あのポジトロンライフル2発分のエネルギーは日本全体で使う3日分の電気エネルギーの威力があったのだ。
「な、なんであれが効かないの!」
ポジトロンライフル2発がほぼ同時にお命中すれば95%MAGIの予測もあり、信長の策でかならず勝てると確信していたリツコが驚きの声を上げる。
(そ、そんなバカな!……シンジの世界では零号機が自爆して勝ったらしいが、本当にそれで勝てるのか?…初号機を出すしかないな。…この状況だ、さすがに上層部の二人…・冬月とゲンドウも承諾するはずだ)
「やむを得ん…。シンジ、出撃しろ!」
「待て、信長君。それは許可できん」
…この状況でシンジが出撃しないと言うのは信長から見れば自ら負けを認めているのも同然だ。ここまで司令には使徒に必ず勝てる秘策があったようだが、零号機を自爆させて倒した事とのシンジの情報や初号機を出撃させないのでは、今回もあてになるとは限らない。
「司令!ここで初号機を出さなければ、勝てん!…あんたもそれくらいわかってるはずだ!」
信長から敬語が消えている…。信長はゲンドウは、いざという時は零号機を自爆させて勝つつもりだと予想していた。…信長も戦闘前、ポジトロンライフルが外れた場合はそれでも構わないと内心思っていたが…。
外れたのではなくポジトロンライフル2発分のエネルギーを耐えきった事から、本当に零号機を自爆させただけで勝てるのか?と、不安を持ち始めていたのだ。
「ダメだ。なんと言われても許可できん」
…司令の一言。軍組織なら通常は信長がどういう意見を持とうと最高責任者のゲンドウの意見には従わねばならなかった…。だが、信長は…。
(くそっ…ここで、もし零号機を自爆させてダメだったら、戦えるのはシンジとアスカだけになってしまう…。シンジの歴史にはなかった戦いだ。…勝てる保証はどこにもない)
(ベストなのはここでシンジ・アスカ・レイが3人とも出撃して一気に殲滅してしまうことだ。…仮に零号機を自爆させるにしても、シンジを出撃させて使徒にダメージを与えてからなら…勝てる可能性も高まる)
(だが司令の命令には従わないわけには………待てよ?これはチャンスだ。ここで司令と副司令を殺るんだ。…『息子の保身のため、初号機を出撃させず人、類を滅亡させそうになったためやむを得ず殺した』…と、でも口実をつければいい)
(人類補完計画を防ぐためにはいずれにしても殺さなければいけない二人だ。…考えてみれば諜報部も使徒戦に気をとられて、今ならガードも薄い……決まりだ!)
(だが、その前にシンジを強引に出撃させておくか。…いくらなんでも父親が俺を死んだシーンは見せたら、動揺して使徒戦どころではなくなるからな)
「シンジ、出撃しろ!…責任は俺が取る!」
「は、はい」
「待て、信長君勝手に…」
2人目のレイを失わないために、零号機をなにがなんでも自爆させたくなかったシンジはNERV本部の協力を得られないまま、独断で出撃した。
「濃!…エヴァ全機の通信回線を切れ!」
エヴァパイロット…特にシンジに父親の死を見せないための手段だった…。突然の夫の言葉に、意図がまったく見えない濃であったが、とりあえず言われた通り、エヴァ全機の通信回線を切った。
突然の信長の命令違反の連続に呆然となり固まるNERV本部。…ゲンドウも珍しく動揺し、怒りの言葉が広い空間の全体に盛大にこだました。
「信長!…貴様、勝手になんて事を!」
…返答はせず、信長がふところにしまってあった銃をすばやく取り出す。…そしてすぐに司令と副司令を撃った。…NERV本部内に銃声が鳴り響き、大きな物音が響く。
「の、信長さん…」
拳銃を撃った、上司の信長をみて、あ然となる日向マコト。撃たれた二人の近くにいたNERVの機械整備職員が碇司令の脈を確認するが、反応がない。
「…ダメです、もう亡くなられてます」
その言葉を聞いて、整備職員が焦って間違えたのではないかと思い、リツコも脈を確認する…。だが、脈は無かった…。落ち着いて見ると見事に心臓を撃ちぬかれていた。時計を見て、わずかに口を開く。
「…3月24日、16:33分。碇司令の死亡を確認」
静まり返るNERV本部。…諜報部が急いで信長を取り押さえようとするが、信長は一喝する。
「今回の俺の行動の正当だと言う事を見せてやる。…加持、裏死海文書、持ってるだろ」
「ええ、もちろん」
加持がポケットから無造作に裏死海文書を取り出す。…これこそ、人類補完計画の基礎となった未来の詳細が書かれた本であった。…ゼーレしか持っていないはずのその本を見て驚くリツコ。
「か、加持君、どこからそれを」
「ただのコピーですよ。…それよりも俺がスパイやってたらとんでもない事がわかってね。碇司令が人類を滅亡させる気だったんですよ。奥さんに会うためにね」
「加持さん。そんな事あるわけ…」
マヤがそう抗議すると、それをリツコがジェッシャーで制する。
「…やはり知っていたのね、加持君。人類補完計画のすべての真相を!…そして、自分たちが神になるために人類滅亡を狙ったのはNERVの裏の上位組織であるゼーレも同じ」
…信長が、肝心の部分を口にする。
「碇司令は人類補完計画を起こすために、この戦い初号機を出撃させると言う確実に戦い方をしなかった。まけたら人類滅亡だと言うのに。…だから、殺ったんだ。俺は人類補完計画を防ぐため、人類滅亡を防ぐため碇ゲンドウをこの手で殺ったんだ!」
「いったい、どこにそんな証拠があんのよ!今すぐ諜報部に逮捕してもらって独房送りに」
「ミサト、待ちなさい。…それは、この戦い終わってからでもできるわ。信長作戦部長抜きでこの戦い、勝てるとは限らないでしょ?」
…それは事実だった。信長が発案したネオヤシマ作戦のおかげで第13使徒と第14使徒戦に勝ったのだし、第15使徒戦ではそのネオヤシマ作戦が通用しない事を主張し、その予想は見事に的中した。
「そういう事だ。…ミサト、おまえは使徒から父親の敵を取ろうとして焦っている。…そんな事では俺の代役はつとまらんぞ」
…ミサトは返す言葉がなかった。