最終話(NERV編)「新たなる道」

…NERVで第16使徒戦が行なわれているその頃、渚カオルは交通手段が麻痺していたため、途中でタクシーを降り、歩いてNERV本部まで移動していた。

「ああ、ついてないなぁ〜。もう5分くらいでNERVについたのに」

生身で強力なATフィールドが使える彼にとって爆弾が飛んでこようが、ビルが崩れ落ちようが、N2爆弾が落ちてこようが関係ない。…目指すはセントラルマグマ、…第2使徒リリスがいるはずの部屋であった。

…その頃、NERV本部。碇司令と冬月副司令を殺した信長についての身の上はリツコの意見により、とりあえず使徒戦が終わってから処分を決める事に決定した。

…使徒は零号機に攻撃を仕掛けた。まるで零号機を侵すように肉体融合を図ろうとしている。なんとか逃げようとするレイであったが使徒はしっかり抱きついて離れない。

「使徒のパターンが青からオレンジへと周期的に変化しています」

「どういうことだ?わかるかリツコ」

「さぁ…私にもわからないわ。」

シンジとアスカが零号機を救出しようとするが、使徒によって展開されている強力なA.Tフィールドにより、そばに近づけない。…それどころか地上10Mの高さまで大きく弾き飛ばされる。

零号機は両手で使徒を引き抜き侵入を防ごうとする。…だがその腕すら指の先端から徐々に融合されて行ってしまう。使徒は初号機に一時的な接触を試みようとしている。

「くっそ〜〜〜〜」

弐号機はなんとか零号機を救出しようと、武器庫から受け取ったバレットガンを無茶苦茶に撃ちまくる。だが、これも使徒のA.Tフィールドにさえぎられ、まったく効き目がない。

使徒は零号機の体内に侵入して行く。零号機の生体部品が犯されて行く。…レイのプラグスーツにもひびが入る。苦痛と快感が同時にレイを襲う。…逃げる事はできない。ついに零号機と使徒の融合率が5%を超えた。

「A.Tフィールドが反転。零号機のエネルギーが逆流。コアがつぶれます」

「レイ!機体は捨てて、逃げて」

…だがレイは、もう使徒を倒すためには自爆をするしかないと決意を固めた。…歴史を知るシンジはそれを素早く察した。

「これじゃあ、あの時と同じだ。…よし、いちかばちかだ」

シンジがもっていたプログナイフを野球の投手のように使徒に向かって思いっきり投げる。…ナイフは螺旋状の使徒の体につきささりA.Tフィールドが消え去る。

「綾波、自爆するのは待って」

…先ほど信長が通信機を切ったため、その声はレイに届いていなかった。だが、シンジはEVAを零号機の後方に向かって猛然とダッシュをする。…そして、レイが乗っているエントリープラグを引き抜くとさらにダッシュ。…第8脱出口からNERV本部へと逃げる。

「マヤ、零号機を本部から自爆させられるか?」

「可能です」

「よし、やれ」

マヤが3つの特殊レバーを引いてから、零号機の自爆スイッチを押す。…モニターに凄まじい閃光が移る。…灼熱地獄の世界で大地に生き残ったのは弐号機とそのパイロットのみだった。

「目標を無事殲滅しました。」

発令所から歓声はあがらない。…使徒が無事殲滅されたため、次ぎは碇司令と副司令を殺した信長を処分するところ…だったのだが、なんとNERVに少年の侵入者が入ったとの連絡が来たため、それは一時中断となる。侵入者はセキュリティーをゲート強引に突破しているとの情報も入ってきた。

NERV司令室の入り口のドアが開いた。…諜報部が侵入者だと騒いでいる。…拳銃を発砲しているがまったく効いていない。信長にはその少年の正体はすぐに見当がついた。

「諜報部やめておけ、いくら撃っても効き目はない。…俺の予想が正しければ、その少年は第17使徒…ダブリスだからな」

「はじめまして、信長さん。そうです、僕が渚カオルです。…第16使徒は無事に殲滅したようですね、お見事です」

信長と渚カオルの唐突な会話についていけないNERV職員。…そこにいる少年は間違い無く人間のように見える…だが、確かに使徒でもなければ拳銃の弾を生身で跳ね返す事などできない。

「シンジだ。シンジを呼んでくれ、濃。…話しはそれからだ」

「わかったわ、貴方」

発令所にやって来たシンジ。アスカと綾波レイもその隣にいた。…ゲンドウと冬月の遺体が転がっているのに驚きのあまり声が出ない3人。シンジは渚カオルがいることに、部屋に入ってからしばらく立ってやっと気付いた。

「君が、碇シンジ君だね。渚カオルです、よろしく」

「えっ、うん。よろしく」

「…シンジ、あそこに転がっている二人は俺が独断で殺った。人類補完計画を防ぐためには仕方ないと判断した」

「そうですか…」

シンジはそう言うのがやっとであった。…確かに信長が父を殺さないと人類補完計画は止められないかもしれない。…碇ゲンドウは自分を10年間放っておいて、己の欲望のために人類滅亡をさせようとしたとんでもない父だった。

…だが、父は父だ。まだ14歳のシンジにとって簡単にその死を割り切る事などできるはずもない。

「シンジ、こんな時に悪いがお前の前の世界の事を話してくれないか?…この後、俺はどうなるかわからんし、もう渚カオルがここにいる。…今こそ、お前の真実を話すべきところだと思う」

「そうですね。じゃあ、まず始めに………………………」

シンジは自分が未来から来た人間である事を告白し、綾波レイの秘密に関係する事以外はすべて話した。…使徒である渚カオルにも、これからは人間として生きて欲しいと説得する。

「…シンジ君。滅びの時を免れ、未来を与えられる生命体は1つしか選ばれないんだ」

「第17使徒渚カオル…お前もとことん頭が悪い奴だな。シンジは未来から来たんだからお前の考え方ぐらい分かってるぜ。…シンジはどうせお前が死んでも人類も死んだんだから、ここでお前に死なれても意味は無いから、生きてくれってことだ。

「そうだよカオル君。…お願い死ぬなんていわないで」

「シンジ君…」

「…まぁ、俺はゼーレとあの二人がいない今、もう人類滅亡は防げたはずだからお前の命なんか興味ありはしないがな」

結局、渚カオルはシンジの説得に応じ、人間として暮らす事になった。次ぎは碇司令と副司令を殺した信長の今後の処置だ。信長は『好きにしろ』とだけ言った。

信長の処置を決める緊急会議では、NERV本部からはその罪に対して『上司二人を殺すなど…死刑にすべき』と言う意見や『人類滅亡を防ぐためなのでやむを得なかった行為のため無罪にすべき』等など、幅広い意見が出た。

難航を極めた会議は結局、ゲンドウと冬月に次ぐリツコにより

「信長作戦部長…あなたはとりあえずA級の独房に入ってもらい、判決は国連の軍事裁判に掛け、そこで決定するものとします。」

と言う事になった。独房に入れられる信長。…その後、NERVは国連を通して正式に発表。…碇司令の人類補完計画の事もNERVの事が大々的に世界で報道されたため、隠す事はできなかった。

最後の使徒来週から2週間後…。リツコが信長の独房に現れた。もっていた鍵で柵を空けるリツコ。…信長は囚人服を着て、ひげもぼうぼうに伸びていた。

「おう、リツコ。なんだ、もう俺の裁判の日が決まったのか?」

「それは10日後になったわ。今日はそれとは関係ないわ。ちょっとあなたに相談があるのよ」

(今ごろいったい俺になんの用だ?)

リツコは信長をNERVの一番地下深くにある人口進化第3研究所に連れて行く。途中のエレベーターにはシンジと加持と綾波レイが待っていた。

「お久しぶりですね、信長さん。ちょっと、やせたみたいですね」

「まったくあの不衛生な環境にはまいるよ…。俺はきれい好きだってのによ」

…これは事実だ。信長の清潔好きは戦国の頃からのもので、シャワーも無く、トイレも水洗じゃ無く、服も同じ物を何日も着せられると言う独房には、ほとほと困り果てていた。

エレベーターの秘密のボタンを押し、目的地に到着する4人。…ドアを空けたそこには細長い大きな試験管がある。リツコがその近くにあったスイッチをONにする。

「これが、ダミープラグの元になったものよ!」

その試験管の中には大量の綾波レイがいた。…ダミーの人間。すべての綾波レイはにこやかに笑っている。…その顔に今まで、世界的にも有数な大虐殺を行なってきた信長ですら目が点になった。

「…リツコ、お前達がダミーを作ってるんじゃないかとは薄々感づいてはいたが、実際にこうして見ると非常に恐ろしい。そして、まさかレイが…」

「僕も2度目だと言うのに…綾波には悪いけど、正直恐ろしくて仕方がありません」

信長が近くにあった、巨大試験管の破壊スイッチを迷わず押す。…大量の綾波レイはすべてが赤く液体に溶けて崩れていく。…信長は強くその高い声を張り上げる。

「これは、なにもかも灰にして、きれいさっぱり処分して置け。世にでたら大変な事になる」

…信長はその部屋にあった書類をすべてかき集めると加持にライターを借り、すべて焼いた。…リツコはその日の夜に、他の部屋にあったクローンに関係する書類やコンピューター関連のデータなどを完全に処分するのであった。

10日後、信長は国連の裁判にかけられたが、人類補完計画を防ぐための殺人はやむを得ないとの判決で無罪となった。…この判決は戦略自衛隊の長井の根回しによるものだった。…彼がPR会社をうまく使い信長の良さを世界に向け徹底的にアピールしたのだった。

この信長の裁判の後、NERVは民間の情報収集機関会社として再出発する事になった。リツコが社長になり大急ぎの毎日を送る事になった。…マヤが福社長である。

加持とミサトは結婚。…ミサトは濃に家事を徹底的に叩きこまれたそうで、なんとかあの伝説のカレーは人間がなんとか食えるものになったようだ。

…チルドレンの3人のうち、アスカはドイツへ帰国。義母の家で新たな生活を始めた。レイは適当な戸籍を作り、渚カオルやシンジとマナと共に第三東京中学校の3年生として学校に通っている。

…シンジは父親が、人類を滅亡させる計画、人類補完計画を立てた極悪人と世間からみなされたため、息子である自分も毎日マスメディアで叩かれ、すっかり落ち込んでいた。

それを救ったのは恋人の霧島マナだった。…彼女は信長の勧めでシンジとの共同執筆で、1冊の自伝本を出した。その本は前半は霧島マナ、後半は碇シンジが書いた。

まず、本の始め…前半で霧島マナは始めはスパイの任務として恋人となり情報を聞き出そうとしたのが、いつの間にか本当にシンジが好きにっていたと告白した。

そして、本の後半を書いたシンジは、自分のエヴァに対する戦いと父親に対する複雑な思いを激白。…この本には世界中の多くの人が感動して、シンジ=極悪人と言う見方は、かなり薄くなった。

そして信長は、戦略自衛隊から、ぜひもう一度来て欲しいとの話しが来た。

「信長さん、やっぱり戦自に戻るんですか?」

「いや、加持。もう軍事組織からは離れるつもりだ」

「何故?これから世界征服でも目指すのかと思いましたが…」

「つまらねぇんだよ、この時代の戦争は…。いくら軍事増強しても敵に核兵器があったらまったく意味がねぇ」

「なるほど。それでどうするつもりですか?」

「こいつに出てみようと思う。どうだ、メンバーが足りないところだ。おまえも一緒に出場しないか?」

信長は昨日、自宅のポストに入っていた一通の手紙をポケットから取り出した。

「”実況パワプルプロ野球開催”裏日本選手権?…なんですかこれは?」

「よくわかんねぇんだが、どうも日本野球界の隠れた実力者を発掘する戦いらしい。今日俺宛てに手紙が届いてた」

「…それで、もうすっかり、やる気何ですね?…やめときますよ、仕事が忙しいんで」

「そうか…ああ、このままじゃ人数足りねぇ、試合にならないぞ」

裏日本選手権に信長が出場するのは、それから1週間後であった。


−「新たなる道」− 裏日本選手権編へは…多分進まない


作者の後書き

今回で「新たなる道」は終了です。(*裏日本選手権編へ進む可能性あり)ここまでご愛読頂いた等と言う数少ない皆さん、真にありがとうございました。…織田信長(佐藤信長)が主人公と言うエヴァ小説はこれが最初で最後かと。

いや、第1話書き終わった時、マジで歴史短編にしようかと迷ったんです。…なにせエヴァの匂いすらありませでしたからね。…プロットなにも立てずにやるからだよ、まったく。

最後に感想メール(もちろん批判メールも)を送ってくれるなんて、人がいたらぜひ。…次回連載の栄養剤になります。


 

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