第四話「自信」

エヴァ初号機の停止用プラグが引き抜かれ、入れ替わりにエヴァ本体に接続されるエントリープラグ。そのエントリープラグは硬く閉じられる。その中に乗っているシンジ。このエントリープラグとはEVAの操縦室のようなものだ。

「エントリープラグ、注水。」

オペレーター、マヤの声とともに、エントリープラグの中に、水が入りこんでいく。はじめは足元だけだったが、ついにシンジの頭の上まで水が入ってくる。あわてて、必死にもがくシンジ。

「大丈夫。すぐになれるわ。LCLが肺に直接酸素を取りこんでくれるから。」

しかし、シンジはそんなこと聞いちゃいないようだった。さらに慌てて必死にもがき、軽い気絶状態になってしまう。しかし、気絶したとたん、酸素が供給されたため、すぐに意識を取り戻した。

管制室のモニターには、恐怖でおびえたシンジの様子が映し出されている。慣れないLCLのせいで、気分もあまり良くないようだ。全四人のオペレータによって、EVAのチェック事項がつぎつぎと読み上げられる。

当然、素人にはわけのわからない用語ばかりだ。そのオペレータの一人には、戦国時代からタイムスリップしてきた濃の姿も会った。

濃は、ついに厳しい競争を乗り切り、実力で実戦でのオペレータの役を獲得したのだ。実は、NERV本部には使徒との実戦に配置されず、別の仕事に回されたオペレーターも約10人ほどいたのだ。

「A10神経異常なし。初期コンタクトもすべて異常なし。双方向回戦開きます。シンクロ率41.3%で起動。」

驚きと喜びにわくスタッフ達。エヴァをたった1回乗っただけで起動できたのはシンジが始めてである。エヴァを取り囲んでいた鉄鋼状の拘束具が外れていく

。すると、今まで隠れていた初号機の顔が現れる。シンジの顔は動揺とあせりの文字が見える。

初号機は固定台ごと移動し、発進口に送られる。巨大な昇降機にセットされる初号機。これで、地上への出撃準備は完了した。ついに戦いの幕がおろされる。

「EVA初号機発進。」

信長の命令と同時に初号機が昇降機によって、すごい勢いで地上に昇って行く。地上には第三使徒がビルの影から姿を現す。ゆっくりしたスピードで初号機に近づいていくと、初号機と10メートル程の距離で停止する。ミサトはシンジに歩くことを考えるよう命じる。

「歩く・・・歩く・・・」

シンジがぶつぶつ、つぶやいている声がモニターを通して聞こえる。初号機はミサトの命令から、10秒ほど止まっていたが、ついに右足が動いた。

NERVのスタッフは歓喜の声を上げる。だが喜びもつかの間、EVAは一向に止まらず、使徒に無防備なまま向かって行く。

ミサトが止まるように命じ、シンジも必死に止まろうとしているようだったが、まったく止まらなかった。シンジはやけくそになって、走り始めてしまった。

とうぜんドーンと使徒にぶつかってしまい、使徒のATフィールドの影響もあって、受け身もままならず、豪快に初号機は転んだ。

「シンジ君、起きあがって。」

ミサトの声にシンジはまったく反応しない。スーパーコンピューターMAGIの報告によると、脈はあるようだが・・・、きっと意識を失ってしまったのだろう。

その後の使徒の攻撃により左腕が消失。あまりの痛さに、シンジは意識を取り戻す。右手で左肩を抑える。どうも、自分の左腕も失ってしまったと思ったようだ。

そう、EVAは直接パイロットとシンクロしている為、初号機のダメージは、ある程度軽減されてだが、自分のダメージになってしまうのである。

ミサトはシンジに落ち着くように言うが、シンジの耳にその言葉は入ってこないようだ。完全にパニックに陥っていた。そして、使徒の右ストレートにより、再びシンジはピクリとも動かなくなった。

NERV本部に沈黙が訪れる。もはや人類はこれまでなのだろうか・・・。しかし、その次の瞬間、初号機は急にたちあがり、プログナイフを取り出す。シンジは完全に意識を失っている・・・はずだ。

その時、信長は、総司令ゲンドウが何やら小さくつぶやいて微笑するのを見た。冬月もこれは当然の事・・・と言わんばかりの顔をしている。信長にはわかった。これは彼らが仕組んだ事なのだと。

使徒の速射砲の攻撃を受ける初号機。だが、まったく初号機には効いていない。気にもかけず、そのまま使徒に向かっていく。近づき、いきなり強烈なキックとパンチを浴びせる初号機。

ビルにぶつかり倒れる使徒。ぶつかったビルはぼろぼろに壊れている。まるで先ほど出撃した、零号機と使徒の戦いの立場が入れ替わったようだ。リツコが驚き口に出す。

「まさか、暴走。」

エヴァのその後も続く、猛攻撃に使徒はなすすべなし。もはや使徒の全身はひびだらけである。初号機は使徒の上位をとり、マウンテングスタイルになると後にコアと呼ばれる、いわば使徒の心臓のようなところにナイフを突き刺す。

使徒のコアは赤く充血していく。やがて、プログナイフは使徒のコアの最奥部にまで達する。すると使徒のコアがピカッと光る。使徒が自爆したのだ。周囲のビルが使徒の爆発により一斉に融解する。

しかしNERV本部には猛烈な光と煙によってまったく状況が確認できなくなっていた。シンジの無事を祈るNERVスタッフたち。その思いは・・・届いた。

「電波回復、初号機発見。初号機パイロット・・・脈は正常、意識もかろうじて回復した様子。」

シンジはうつろに、うっすらと細目を開けていた。顔には喜びの色はなく、ただ疲労だけが見える。それとは対称的にNERVスタッフは誰しもが大騒ぎで、全員とびっきりの笑顔を見せる。

しかし信長だけは上の二人を見て複雑な表情をしていた。

シンジは幸い怪我はなかったものの激しく疲労していたすぐさま病院に運ばれ、今は薬で眠っている。どうも使徒戦での恐怖で激しく疲労していたにも関わらず、ぜんぜん眠れなかったようだ。

信長はその夜、NERVのパソコンなどで、碇シンジ、碇ゲンドウ、冬月コウゾウのデータを調べまくっていた。あの使徒戦に対するあの二人の絶対的な自信・・・絶対におかしい。それは確信だった。

しかしその自信を持てた理由は結局わからずじまいだった。彼が検索できた情報を要約すれば・・・、

1.碇シンジは人付き合いが下手で、真の友人が一人もいない。母親の死後、親戚の家に預けられ、父親とはめったに合わなかった。学力は普通で、体力は平均より少し劣る。

2.碇ゲンドウ、2003年に36歳の若さでNERV総司令となる。その前後からEVA運用に関わる。

3.冬月コウゾウ、セカンドインパクト前はR大学の助教授だったが、サードインパクト後、医者になる。2003年にNERV副司令に任命された。

以上である。はっきり言ってこれでは、何も情報をつかんでいないのと同じだ。昼間の二人、特にゲンドウの絶対的自信の根拠を探れる情報など一切存在しない。しかし、コンピュータもかろうじて使える程度の信長個人の諜報能力ではこれ以上調べようがない。

・・・そもそもなぜ、運動神経の良くない碇シンジがパイロットになったのかわからん。技術部長赤木リツコの奴はEVAは今のところ三人しか乗れないと言っていたが・・・。

ならば、なぜあいつらしか乗れないんだ?いや、それ以前になぜあいつらしか乗れない平気なんかつくたんだ?

もっと運動神経抜群の抜群の男に乗せられるように設計すればいいのに・・・。結局信長に謎は何一つ解けず、それどころか、さらに深まるばかりであった。

翌日、シンジが目を覚ましたと連絡が入る。もう元気に歩いているとの事で、今日にも退院するそうだ。濃が様子を見に言った時には先にミサトがシンジの前にいた。

これからもEVAのパイロット・・・サードチルドレンになってくれるとの事だ。ただ、済むところが問題だった。父親である碇ゲントウは忙しく、あっちこっち世界を移動しているし、シンジとは仲も悪いので同居はできない。

NERVの独身寮で暮らす事になりかけたが・・・濃とミサトはこれに反対。結局、濃のマンションに同居する事になった。ちなみにミサトの住んでるマンションも濃と同じマンションで、すぐお隣に暮らしていたりする。

さっそく濃はシンジを連れて家に帰る。今日は夫の信長も休みであった。濃はミサトと正反対の恐ろしいほどの安全運転である。シンジはあまりの遅さにいらいらしているようだった。

「お邪魔します。」

濃の家に入ったときのシンジの第一声だ。そのシンジに対して、濃は無理やり・・・

「ただ今。」

と言わせる事を強制する。夫の信長はすでに家にいた。軽くあいさつするシンジ。データ通りの人物だなと言うのが信長の感想だ。実は濃がシンジを引き取ったのは、信長がそれを希望したからだ。

ゲンドウが対使徒戦で絶対の信頼していた息子・・・。その信頼の理由を探りたかったのだ。

そのするどい信長の目におびえた目をするシンジ。

「NERV作戦部長で、こいつの夫の佐藤信長だ。これからは当然俺とも生活する事になる。よろしくな。」

シンジは小さくうなずくだけだった。どうも緊張していると思った濃はとりあえず手作り料理をご馳走する事にした。その匂いにつられたのか隣のミサトも訪ねてきた。

「ミサト、お前も相変わらず強いな。」

酒豪のミサトと信長。二人合わせて、もう缶ビールを12本も飲んでいる。ただ、呆れて見つめるばかりのシンジと濃。今度は日本酒にまで手をつけ始めている。

シンジの歓迎会のつもりだったのが、いつのまにか酒会になっていた。


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