Angel Sweeter 〜天使の吐息〜
SCREEN006 【ミスティア】
前のお話。
記憶の断片を取り戻したミルフィーユ。
遂に、リィフィースとの決着がつく。(と思いますけど)
ディンバリー遺跡 最深部。
風に包まれたセリスは、剣を握りなおした。
それに呼応するかのように、リィフィースも剣を握る。
次の瞬間。
「何か」にはじかれたかのごとくに、二人は駆け出していた。
そして、すぐに。
――がきいぃぃぃいん――
また、金属と金属とがこすれ合う音。
しばらく二人は、このままの状態でにらみ合いを続けていた。
力、互角。
身長、同じくらい。
体重、同じくらい。
―その中でひとつ。 「努力」…だけは、セリスが上回っていた。
そのひとつと、「風」が決め手だった。
宙であぶっていた剣と剣は、そのふたつによりリィフィース側に押された。
リィフィース『!?……な、なんだと!?人間が…ここまで!?……分が悪いな……やはり、天翼法陣が予想以上に“フォース”を減少させていたのか……くそ…!!』
ぼやきながら、リィフィースは剣を握っていた力を“ふっと”ぬいた。
――その時――。
セリスの心の奥。
老人【いかん!!「ディア」め……“憑依”しておったのか!?】
血相を変え、叫ぶ。
ミルフィーユ《…“憑依”……って、どういう意味ですかぁ?》
意味がわからないのか、ミルフィーユが問う。
老人【つまり…あそこで戦っておるのはリィフィースではなく、まったくの別人。リィフィースは「魂のみ」天翼法陣に捕らえられておったんじゃ……つまり…】
ミルフィーユ《……つまり…、なんなんですかぁ?》
老人は、重苦しい息を吐きながら言う。
【あれを殺すこと、すなわち…まったくの別人を殺すことになる】 と。
その老人の言葉を合図に‘セリス’の意識が目覚めた。
セリス『……!? なんで…? でも、フィーを!!』
その状況下で、フィーを思ったゆえにか。
剣を止めることを、彼はしなかった。そして、‘リィフィース’の体の力が完全にぬけた。
そして、彼の剣が‘彼女’の喉元に突き立てられようかと言う瞬間に。
彼の動きが「ぴたっ」と止まった。
それは、彼の中にいた‘少女’だった。 彼女が‘中’から彼を止めたのである。
セリス『……なにするんだよ!ミルフィーユ!!……せっかく…!!』
すべてを言い尽くす前に、ミルフィーユは彼の‘心’にこう告げた。
《……勝負あり。…ですよぉ、セリスさん。………お疲れ様ですぅ♪》 と。
ティンナリー街 夕焼亭(ゆうやけてい)。
遺跡を右に、約5km歩いたところに街がある。
そこには、セリスとフィーが行きつけている食堂「夕焼亭」がある。
そこは夕方ということもあってか、かなりの賑わいだった。
酒を飲んでいる人、歌を歌っている人、黙々と食を進めている人……まさに多種多様の有り様だった。 そんな所に。
――バタン!!――
まさに扉をけやぶるようにして、誰かが入ってきた。
それは‘人格天挿’により意識を失っていたフィーと、‘リィフィースの体’をかついでいる
セリスだった。(ミルフィーユはセリスの中にいる)
一同はその姿を確認するまで沈黙だったが、二人を確認するとまた笑い、飲み、食べ始めた。
男『なんだなんだ!またかよ、セリス!!』
男『どうでもいいけど、フィーちゃんかわいい!!』
ヤジ(愛想だが)を飛ばしまくる男たち、彼らに目で「ごめん」と合図し、セリスたちは一番奥の指定席に座った。
すると、カウンターのほうから一人の女性が歩いてきた。
『……その様子じゃ、今度はなんか見つけたみたいだね。セリスにフィー??』
気さくな感じで話し掛ける女性。それに、セリスは「聞いてくれ」といわんばかりに話し出す。
セリス『そうなんですけど……聞いてくださいよ、セシリアさ〜〜ん(泣)』
セシリアと呼ばれた女性は、笑いながら「はいはい」といい、セリスの向かいの席に座った。
セリスはセシリアに語った。
いつものように、遺跡に向かったことを。
そこでミルフィーユと言う、天使と出会ったことを。
そして天翼法陣によって封印されていた、リィフィースと言う名の天使との戦いを。
その天使がフィーを人格天挿によって、その意識を乗っ取ろうとした事を。
そしてリィフィースと言う天使が人間の体を自らの魂で操っていたことを……。
セシリア『……ふぅん…、大変だったんだねぇ。……ところで、ミルフィーユ…ちゃん?』
セシリアはセリスの中の少女に語り掛けた。
ミルフィーユ《はい〜〜?? なんでしょうかぁ〜♪》
セシリア『いやね、そんな所にいないで出てきたらどうかな〜と思って』
ミルフィーユ《え、でもぉ〜〜…私が出たら皆さん、迷惑じゃぁないですかぁ??》
セシリア『何言ってんの。迷惑どころか大歓迎よ!…もし文句言う奴がいたら、私がぶん殴ってでも歓迎させてやるから……ね?』 優しく、されども強く言う。
ミルフィーユ《……じゃぁ、お言葉に甘えて…ですぅ♪》
その言葉と同時に、少女がセリスの中から姿を見せた。
白くおおらかな翼。 女神を覚えさせる笑顔。
そんな彼女を、夕焼亭の男たちが非難するはずもなく。ところどころで歓喜がおきた。
が、セシリアの一喝で何もなかったかのように、また元の騒ぎに戻ったのは言うまでもなく。
セシリア『なんだ…こんなかわいいコなら歓迎されるに決まってるのに』
ミルフィーユ『でもぉ……私、羽があるし…ドジだし……』
セシリア『はぁ……いい? ここの連中はそんな細かいとこ見ちゃいないの。見るのはいつも「顔」「胸」「脚」の三拍子なんだから…ミルフィーユちゃんはぜんぜん合格なワケね。』
ミルフィーユ『え?え?え?……そっそっそそそんな!! 私なんかぁ!!』
赤面して混乱するという芸当を見せつけてくれているミルフィーユ。
ふと、‘リィフィース’の「体」だった少女が目を覚ました。
少女『………う、うん…………ここは…?』
セリス『気がついた?? ここは、夕焼亭っていう酒場だよ。』
フィー『あなたの名前は??』
詰め寄る二人を背に、セシリアは言う。
セシリア『こらこら。そんなにいっぺんに聞いても答えられないでしょ?…とりあえず何か持ってくるから……何がいい??』
セリス『…じゃぁ、夕焼Cランチ』
フィー『…じゃあ、夕焼Dランチ』
少女『……なんでも、いいです』
ミルフィーユ『じゃぁ〜〜。「りんご」と「ハチミツ」ありますかぁ〜〜??』
その言葉を聞き、少女は言った。
『……バー〇ンドカレー……ですか?』と。
一同『???????????』 沈黙だったが。
少し経って。
セシリアが5人分の食事を持って来た。 席に並べられてゆく皿の山。
メニューの紹介をひとつ。
夕焼Cランチは、「リャウルー(鶏の一種)の香草焼き・ボズー(カレイの一種)のビネガー・スレイン樹(桃みたいなもの)の実・ヴァリナーの果汁(グレープフルーツみたいなジュース)」で、それに対して夕焼Dランチは、ボズーのビネガーが「リティネ(肉まんみたいなもの)の蒸し焼き」に、ヴァリナーの果汁が「ギーネの果汁(りんごジュースみたいなもの)」に変わっただけである。 ついでにこのランチセットにA、Bはない。 セシリアの気分で「最初がAじゃ芸がない」との事らしい。まあ、味がよいので誰も気にしないが。
セシリア『…さて、本題にもどろっか? あなたの名前は?』
少女『…あ、失礼致しました。私は、國府津憐夏(こうづれんか)と申します。……失礼ですが、あなた方のお名前は…?』
セシリア『ああ、悪いね。 私はこの夕焼亭の女主人、セシリア=ファーネ』
セリス『僕は、セリス=ジャント』
フィー『私は、フィー=グランディー。よろしくね、憐夏さん。』
ミルフィーユ『ミルフィーユですぅ♪ 気がついて、よかったですねぇ♪』
紹介が一通り終わった後、セシリアは憐夏の手を見、ひとつ気がついた。
セシリア『憐夏ちゃん……あなた、何か武器でも使うの?左指にちょっとあざみたいな
ものがあるけど…』
制服に包まれた中から、ちらりと見えたものにセシリアが問うた。
憐夏『あ、これですか? 私こう見えても弓道をたしなめているんですよ。これは、弦を引くときのあざなんです。』
セシリア『それはよかった…けれど憐夏ちゃん、あなたこの世界の住人じゃないね?…少なくとも私はそう思うけど…』
憐夏『…言って信じてもらえるか存じませんが、私は「地球」と呼ばれる星の「京都」という場所から‘急に’この星へと飛ばされて、気がついたらリィフィースと名乗る天使に体を乗っ取られていたんです…』
真剣な表情で言う憐夏。 誰もが彼女を見れば「嘘ではない」と思えるであろう。
セシリア『私が言いたいのは、嘘じゃない本当とかじゃなくて「この世界の住人じゃないの?」ってことだったの。なるほどね…本当に‘彼女’の言った通り、弓を使えるかわいい女のコだったわね…。憐夏ちゃん、ちょっと待ってて。…ついでにミルフィーユちゃん、喜びなさい?』
言い、席を立つセシリア。
その間に「バー〇ンドカレー」は地球の「カレー」という料理を作るための材料だということ。
その宣伝のうたい文句が「りんごとはちみつ」だったことをセリスたちに説明した。
無論、ミルフィーユはすねたが。 憐夏が必死で謝って、機嫌を直してくれたときに。
セシリア『憐夏ちゃん、お待たせ。 これを…』
と言い、ひとなりの弓をテーブルに置いた。 ただ、矢が見当たらなかったが。
憐夏『…これを、私に……? そんな、あつかましい…!!』
セシリア『あつかましくなんかないさ。 これは、憐夏ちゃんじゃないとただの「弓」になっちゃうんだから。憐夏ちゃんが使って始めて、「弓矢」になるんだよ。』
憐夏・セリス・フィー『それって……どういう……?』
ミルフィーユ『……♪♪まさか…ですぅ♪』
セシリア『そうなんだよ、ミルフィーユちゃん♪ ……とにかく、憐夏ちゃん。これを手に
執ってみな。』
その語に従い、弓を手に執る憐夏。
――突如――
「弓」が輝きを放った。
その光は眩しく、目をあけていられなくなるような。
……だが、酒場の連中は自分らの騒ぎに精一杯であるらしく見向きもしない。
その輝きがおさまったころ、憐夏たちの前に、翼を携えた女性がいた。
女性『んっ…ん〜〜!!(伸び) あ〜、しんどかった…。』
女性は伸びた後、あたりをきょろきょろと。
すると、一人の少女を見つけ歓声をあげた。
女性『…まさか……やっぱそうや!! 久しいな〜、ミルフィー!!』
女性はミルフィーユめがけて一直線に飛んできて、すぐに彼女に抱きついた。
ミルフィーユ『やっぱりですぅ♪ お久しぶりですぅ、ミスティアさん♪』
ミスティア『う〜〜。 ミスティアやのうて、ミスティー呼んでゆうたやん?』
ミルフィーユ『あ、すいませんですぅ。 じゃぁ、ミスティーさん♪』
ミスティア『う〜〜ん♪ やっぱ、ミルフィーはええ娘や〜』
自分の頬を、ミルフィーユの頬とこすりながらいうミスティア。
……当然、周りは取り残されているに決まっている。
周囲(4人)の白い視線に気がつき、そちらを向く。
ミスティア『こほん……セシリアはん、おおきにな。 長い間、「アクアスペンダー」
任せといて。』
セシリア『何言ってるのよ。 困ってたんだから、それ位いいわよ。』
セリス・フィー・憐夏『アクア……スペンダー………?』
ミスティア『…憐夏…はん? 姉さんが持ってはる、その弓のこっちゃ。 わてはその、アクアスペンダーに身を隠しとった「水のフォースエンジェル」ミスティアや。よろしゅうな。』
にこっと笑いながら、饒舌な関西弁で喋る天使ミスティアは言った。
(会話の内容が)一変して。
ミスティア『…ほな…なんや? ミルフィーは、「自分の家族のことが思いだせん」っちゅ〜んやな?』
ミルフィーユ『そうなんですぅ……。でも、「思い出せない」よりは「覚えていない」の方がピンと来ると思ですぅ……』
セリス『……………………』
フィー『やっぱり、‘天翼法陣’の影響で……?』
ミスティア『そらないはずや。‘天翼法陣’っつ〜のは、天聖力を使うだけのもんやからな。強いて言うと、それ以外のとこはな〜んも影響あらへん。』
憐夏『じゃあ、なにか物理的なショックによって記憶を失っているとかは?』
セリス『………………よし』
ミスティア『それはあらへん。 もし、ほないなもんでいちいち記憶を失のうとったら、ミルフィーはなんべん記憶失うとるかわからへん。』
その言葉の後、間髪を入れずセリスが言った。
セリス『ミルフィーユの「記憶」を、探すんだ!!』と。
フィー『ちょ、ちょっと。セリス!? 何を………』
ミスティア『…セリスはん! あんたに問うとく。 それは、今んとこある選択肢の中で「最も果てなく、最もあてのない」道やで。 ほんまに……ええんやな?』
はっぱをかけるようにして問う。 だが、セリスは落ち着いていった。
セリス『わかってる。でも、ミルフィーユをほっとけないし、それに、旅には目的がないとね。つまり「ミルフィーユを助けるついでに、世界中を旅する」んだよ。』
ミスティア『……気に入ったで!セリスはん!! ほかならぬミルフィーと兄さんのためや、わても行くわ!』
憐夏『…私も、ミルフィーユさんの記憶と自分の為に、一緒に行きます!』
フィー『セリス?あんた一人でいい思いさせないからね? 私も行くわ!』
次々に名乗りをあげる彼らを見、ミルフィーユの頬に熱いモノが流れていた。
ミルフィーユ『…皆さん…ありがとうございます、ですぅ…』
言葉の後、彼女の瞳から流れた大粒の涙は…………
「天使の雫」と言われ、夕焼亭に繁栄と幸せを与え続けたという…。
次回。
ミスティア・憐夏を加えたセリスたちは、「光の遺跡」と呼ばれる場所へ向かう。
そこで、フィーに謎が?? 実はまだ何も考えてません。 次回に引きます!