Inosent Sistyblation
‘記憶’とは、常に断続しているものではない。
それは、欠落しているところもあればそうでない所もある。
真実など誰にも判らないのだろうが、事実‘記憶’は欠落している。
これは、そんなことを思わせる‘日記’である―――。
4月5日
私は今、自分以外の人間の家にいる。
レンガ造りの、この家で眠っている。
私は、湖岸に倒れていたのを娘に発見され、この家に運び込まれ介抱された。
だが、この‘記憶’は娘が書きこんだ‘記憶’。娘の言葉が、この‘記憶’を作り上げたのだ。
−私は、夕刻ごろに目覚めた。
そんな私に、娘は暖かいスープをご馳走してくれた。
そして語る。 私を見つけてからの事のいきさつを、この家が周囲のどの村からも隔離されたように
森の中にたった一軒だけあるということを、私を見つけたときの感情・そしてわたしをどのように
してここまで運んだか。ということを…。
スープの入っていた木製の食器が空になっていることに気づき、木製のスプーンを食器に戻す。
すれば、彼女はそれらを私の手から取り、ベッドひとつと小さな本棚が場所のほとんどを占めている
この部屋から出ていった。
と思うと、ドアを半開きにし『あなたが背負っていた大きな鞄は、ベッドの横においてあるから。
……今日はもう、寝た方がいいと思う。』
そう言い、ドアを閉める。 と、“カチャカチャ”という音がした。
―――鍵を、かけたのだろう。
私はベッドの横の大きな鞄―――‘ザック’という……の中身を確認した。
湖岸で倒れる前の‘記憶’はあった。 違和感などはなかった。
どうやら、彼女は中を見なかったらしい。
しかし、私は不信感を抱いた。 私の‘記憶’が、そうさせたのだ。
が、それを深く追求することなどできそうにもない。
――倦怠感と疲労――
それらが私を支配していた。
とにかく、それらをこらえ荷物をザックに戻し、今は…とにかく眠ろう。
彼女に尋ねたいことは2、3あった。 この不信感も晴らしたかった。
しかし仮に今動けたとしても、どうせ鍵がかけられている。しかも事実、私は動けそうにもない。
眠りに就きはじめ、薄れゆく今日の‘記憶’のなかで、私はまとめた。
『明日できることは、明日にすればいい』 と。