MasohKishin
〜the Lord of Elemental〜
+NOVEL+
   ラウラの詩 〜序〜






 お前ってさ、何でそんなにいっつもしかめっ面なんだよ?

「これが地顔だ」

 一緒にいるこっちが肩こるんだよなぁ。あ! そうだ!

「却下だ」

 まだ何にも言ってねぇだろ?

「お前のことだ。 どうせまた、ろくでもないことを思いついたんだろう」

 バカにすんなっての。今回のは名案なんだからさ! な! ヤンロン。お前もっと笑えよ!

「必要もないのに何故笑わねばならん?」

 それを言っちゃ、身も蓋もねぇってか・・・。

「そもそも男児たる者は、泰然自若たるべし。 常に落ち着いていてこそ、その価値が現れるのだ」

 うげ・・・ヤバイ流れ・・・。

「そこへいくと、マサキ、お前は些か喧騒が過ぎる。 もう少し一言一句の重みを意識した方がいいだろう」

 あ〜、もう、こんな時まで説教することねぇだろ!

「待て! どこへ行く気だ、マサキ!」

 どこだっていいから、ヤンロンの説教が聞こえねぇとこ!

「・・・・・・・・・・・・・・!! いかん!  こっちへ来るんだ、マサキ!」

 いててててッ! そんなに力一杯引っ張らな・・・・・・。














 あれ? 






 今一瞬、目の前が光ったと思ったのに、すぐに真っ暗になった。

 何でだろ?

 って、ヤンロン、何お前がしがみついてんだよ!  お前が馬鹿力で押さえるから、何にも見えなかったんじゃねぇか!

マサキ!! 無事か!? 怪我は!?! マサキ!

 ・・・・・・ヤンロン? あれ? 何? お前、何言ってるか聞こえねぇぜ?

教えてくれ、お前は無事なのか?! 見えないんだ! マサキ!

 ヤンロン? お前・・・、怪我してる?

 何? 何だよ? 何があったんだよ?!

 今の光? 今の光のせいなのか? お前・・・、俺のこと庇ったのかよ?!









「マサキ、どうかしたのか?」

 え? アレ?
 ヤンロン?

「何だ? 鬼魂(幽霊)でも見るような顔をして」

 だって・・・、お前、怪我して、それで目が見えなくなって・・・!

「怪我? 目が見えなくなった・・・?  ふむ、あの爆発の時の後遺症がまだ残っているようだな。 お前は鼓膜をやられたせいで、心身共に均衡を失っていたからな。 まだ記憶が混乱しているんだろう」

 え? じゃぁ、ヤンロン、お前、身体は? 何ともないの?

「見て確かめればいい。どうせ、お互い裸なんだからな」

 は・・・はだかぁ?!!
 うわわわわっ! 何で俺、何も着てねぇんだよ!

「・・・色気のない奴だとは思っていたが、まさかここまでとはな」

 ちょ・・・ッ! ヤンロン! 呆れてねぇで、状況を説明しろっ!

「説明も何も、僕たちは今、性交中だ」

 ええええーっ!!

「途中で眠りこけた上に、すっかり忘れてくれるとはな。 さすがの僕も傷つくぞ」

 イヤそんなこと言われても、覚えてないモンは仕方がねぇっつーか・・・。

「そうだな、お前に水を差されてしまったことだし、 今夜はもうやめておこう」

 へ?

「何だ?」

 え・・・、あ・・・、いや、俺は別にいいんだけどさ。 ヤンロンはそれで良いのかなぁ・・・って・・・。

「良いように見えるか?」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 あの・・・、ヤンロン・・・。

「・・・続ける・・・ぞ。いいか?」

 ・・・ん、・・・うん。









 優しく上から、腕の中に包まれて。

 脚を開かされて。

 腰を抱き上げられて。

 ゆっくりと熱いものを入れられて。

 俺はそれを根元まで全部受け入れて。

 初めは優しかったのが、だんだん激しくなって。

 掻き回されて。

 探し当てられちまった場所を、何度も責められて。

 そして突然、電気が頭のテッペンから背筋へ抜けた。

 その後全身から力が抜けた。
 横になってるのに、自分の手脚が重たく感じる。
 だるい気分のまま目を開けた。









 一番最初に目に入ったのは、紫色・・・?









 ・・・あれ?









「は・・・ぁ・・・、・・・う・・・ッ?」

 息が、慌てて飛び出したみたいに、変なふうに肺から抜けた。
 ひんやりするものが顔に触ってきて、それが人の手だと気が付いたのと同時に、話しかけられた。

「ようやく悦んで下さいましたね、マサキ?」
「・・・え・・・?」

 シュウの声・・・?

 なにが・・・どうなって・・・?

 ここ、どこなんだよ・・・?

 ヤンロン・・・?









 あ・・・。

 俺・・・。

 ずっと・・・ここで・・・、シュウに・・・。









 イヤだ・・・。

 目なんか覚ましたくなかった。




 あれから・・・どのくらい経ったかなんて、もう分からない。

 どんなにいやだって叫んでも、どんなに必死で抵抗しても、逃げられなくて・・・。
 ヤンロンの目を治して欲しかったら、言う通りにしろって、脅されて・・・。

 優しさの欠片もない、冷たいシュウが怖くて怖くて、胸が潰れそうだった。

 だるくて辛くて、意識なんてほとんど無いくらいなのに、乱暴に扱われて・・・。
 身体中が痛くて苦しくて、まともに眠ることさえ出来なかった。

 だんだん指先から冷たくなってきて、全身がひどい寒気に襲われた。
 その後、やっと何もかもが麻痺してきて、意識が飛んで・・・。



「・・・あ・・・、そんな・・・俺・・・ッ」



 俺、無理矢理、犯られてたのに・・・。
 あんなにメチャクチャにされてたってのに・・・。



 シュウとヤンロンを間違えて、イッちまうなんて・・・。



「あ・・・、う・・・ッ、うぅ・・・・・・ッ」



 シュウが何か言ってたけど、そんなの聞こえなかった。

 嗚咽が込み上げてきて、それが胸につかえて苦しかった。









 違うんだ、ヤンロン。
 俺、一度だってお前に抱かれたいなんて、思ったこと無い。

 お前はいつも口うるさくて、鬱陶しいなって思うことはたくさんあったけど、 でも、どんなに無茶しても、どんなバカやっても、 お前は俺のこと、放り出したり見捨てたりしなかった。だから・・・。

 だから、大好きだった。

 お前は何にも言わないから、怒鳴りつけられたりすると、やっぱり嫌われてるのかなって、 いつも不安になったけど。

 でも、お前に嫌われてたとしても、お前ほど俺のこと構ってくれる人っていなかったから。




 ・・・・・・いたけど、もう・・・、死んじまったから。




 だから、怒ったり注意したり説教されたりすると、嬉しかった。
 「こいつ、今、俺のためだけに怒ってるんだな」って思うと、すごく嬉しかった。




 ホントに、それだけ。

 だって、お前は俺にとって、「大人」だから。
 親みたいで、先生みたいで。当たり前みたいに無条件で、側にいてくれる人だから。




 なのに、俺・・・こんな身体になっちまって、お前とあんなコトする夢まで見ちまって。

 汚い。

 俺・・・、汚いよ・・・。

 最悪。

 何で、俺、こんな最低なこと考えてるんだよ?
 いやだよ、俺・・・。俺がこんなふうになっちまったなんて、いやだ・・・。

 ヤンロン・・・・・・。

 ヤンロン・・・・・・!

 俺、元に戻りたい・・・!














 頭の中が真っ白になって、一瞬意識がどこかへ飛んだ様な気がした。




 気が付いたら、口の中が血の味でいっぱいになってた。
 舌が痺れてる。
 重たい感じのする液体が、喉の奥に流れ込んできて、息が詰まった。

 あぁ、でも、このままでいれば、俺・・・。
 ゆっくり眠れそう。

 ほら、最近俺、全然寝てなかったし。
 もうそろそろ、いい加減熟睡したいんだよな。









 やっと楽になれる。









 そう思ったのに・・・。









 なのにまた、すぐ目が覚めた。









 シュウがものすごく冷たい目をしていて、このまま殺されると思った。
 本当に殺されたりはしなかったけど。









 その代わり、俺は全てを取り上げられた。














 勝手にサイバスターを降りるなんて、どれほど無責任かってことは分かってる。
 ここにずっと閉じこめられて、誰にも会えなくなったら、 きっとすごく寂しくて辛いだろうってことも分かってる。




 本当は、自分がこれからどうなっちまうのかを考えると、 不安で、怖くて、涙が止まらなかったけど。

 でも、俺はそれを受け入れなきゃいけない。

 でないとヤンロンの目を治してもらえないから。

 ヤンロンは、俺がどんな無茶をしても、絶対に見守っていてくれた人だから。

 絶対に見捨てないでいてくれた人だから。









 だから、俺も、ヤンロンのために、俺が出来ることを全てしたいから。









:::::: NEXT ::::::









大切な人のために、折り、捨てた翼。
「必要のない時に笑う」ことの難しさ。
初めて、それを知った。






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