LOVE is the sin..
chapter of DUNE


 昨夜はキッドのしでかしたへまのせいで、『仕事』に思った以上の時間をとられてしまった。 忍び込んだ先で見つかりそうになって、あらゆる手を使って追っ手をまいた。
 やっと背後の迫る気配が無くなって、自宅に帰ったのはほんの1〜2時間前だって言うのに・・・。

 俺の目覚めは最悪だった。
 朝っぱらから、ドアを叩いてる奴がいやがる。

「うっせぇ! 今何時だと思ってやがる!」

 苛立ち紛れに怒鳴りながらドアを開ける。

「・・・・・あ・・・悪ィ・・・寝てたのか?」
「・・・・・え? シオン?」

 ドアの向こうには、戸惑ったような顔をしたシオンが立っていた。




「こんな朝早くから、何の用だよ?」

 取り敢えずシオンを招き入れる。 下手に「昨日は仕事が長引いて、ほとんど寝てないんだぞ!」なんて言おうものなら、 きっとこいつはあっという間に『隊長』の顔になるんだ。 ここは、友好的に行くに限る。

「朝早くって・・・・・もう、11時じゃねえか?」

 そこそこ頻繁にここへ訪ねてきているシオンは、 勝手知ったるといった風情でコーヒーなんか煎れている。
 それにちょっとシアワセを感じたりしながら、眠い目をこする。

「俺が夜型なの知ってンだろ?」
「いつもこんな遅くまで寝てるのか?」
「休みの日は当然でしょ? あいにく俺は、模範生のクリューヌ兵隊長みたく、 毎日6時起床なんて健全な生活してないンで」
「・・・・・まぁ、そんなイメージはあるけど・・・・」

 それでもやっぱり遅すぎる。
 そう言いたげな顔でシオンがコーヒーを手渡してくれた。
 カップを受け取るとき、ほんの少しだけシオンの指先に、俺の指先が触れた。 それだけで、俺の意識は一気に覚醒する。顔が紅潮してるのが自分でも分かった。
 シオンに気付かれちゃ、まずい・・・。
 そんな思いから、俺はムリヤリ話を変えた。

「で、結局何の用だったワケ?」
「ああ、月に行きてえんだ。方舟で送ってくれないか」

 唐突なくらい急な話に、思わずカップをテーブルに置いた。

「いきなりなんだってんだ? 何で月?」

 思い切り不思議そうな顔をしていただろう。
 シオンは俺につられたのか、同じようにテーブルにカップを置く。

「サイゾウとちょっと揉めた。あいつ、月に逃げやがったんだ。だから話し合いに行きてえんだ」

 いつになく、真剣な表情だった。 無愛想なのはいつもだけど、そのあんまり表情を浮かべない顔に、 何とも言えず切羽詰まった色が見える。
 そんなふうに、思い詰めるような関係なんだ、サイゾウとは・・。

 ・・・・シオン、お前、俺の気持ち知らないから当然だと思うけどよ・・。

 いくら何でもそれは、ちょっと残酷なんじゃない?
 俺に、『恋敵』ンところまで運転手やれって?

 そんな気持ちが、ついつい意地の悪い返事を返させてしまう。

「突然言われたって、俺にも都合ってもんがある。今日や明日には無理だ」
「・・・・うん。デューンの都合のいいときでいいぜ」

 多分シオンは、俺が二つ返事で引き受けてくれると思っていたんだろう。 かすかに戸惑った気配があった。
 確かに俺は、いつもシオンの頼みなら何でも最優先にしてきた。
 シオンがそれで喜んでくれるなら、それでいい。 もしもそれで、俺に好感を持ってくれるのなら、なおのこといい。
 そんなくらいの気持ちで。

 でも・・・・・・。

 今回は嫌だ。正直に言えば、絶対に送りたくない。
 サイゾウの奴が月に逃げたんなら、そのままにしておけばいい。自分でシオンから離れたんだ。
 シオンがわざわざ会いに行く必要なんて、どこにも無い。
 だいたい、シオンの側にいるのは、絶対サイゾウじゃなきゃいけない、なんて事はないんだ。

 そう・・・・・俺であってもいいはずだ・・・・・。

 逃げている間に、俺に取って代わられて、シオンの側に、戻る場所が無くなっていても、 それは、いつでも戻れるとでも思い上がっているだろうサイゾウの、自業自得だ。

 これは千載一遇のチャンスだ。
 もしもシオンの視線を俺の方に向けることが出来たら、俺は、 俺が望んだ形を100%ってワケじゃないけど、せいぜい50%くらいは手に入れることが出来るんだ。

「悪ィな、ホントはすぐにでも送ってやりたいんだけど、どうしても外せない用事があってさ」

 さっき思わずぶつけてしまった不機嫌さを誤魔化すように、優しく言う。
 シオンはそれに、どこか気弱な笑顔で応えた。

「いや、俺の方こそいきなり押し掛けて悪かったな」

 そういうと、冷え切ったコーヒーのカップを残して席を立とうとする。
 俺は慌てた。ここで返したら、次いつ俺にチャンスが廻ってくるか分からない。

「お・・お前、すぐ戻ンないといけないのか?」
「いや、休暇は取ってある」
「だったら、成り行きの運び具合じゃ、思ったより用事が早く済むかも知れねーから、 ここで待ってるってのは? そうすれば、用事が済んだらすぐに送ってやれる」
「・・・・でも・・・・」

 シオンは、すぐには決めかねているようだった。 本音としては、俺の申し出を受けてしまいたいんだろう。それを邪魔してるのは、俺への遠慮か?

「もちろん、ただで寝泊まりさせてやる気はないぜ。夕飯くらいは作ってもらいたいね」

 意識して屈託のない口調で、冗談めかして言う。 シオンが理性を選ぶよりも先に、本音を選びやすいように環境を整えてやった。
 この一言で、シオンの気持ちは一気に本音に傾いたようだ。 しばらく逡巡した後、「腹は決まった」というように顔を上げると俺を見た。

「じゃあ・・・そうさせてもらうぜ」
「お? そうか? ンじゃ、さっそくごちそうして欲しいな〜♪」
「・・・おい、夕飯だけじゃねえのか?」
「え〜、そんな堅いこと言わずに頼むよ。さっき気が付いたんだけど、もう腹減って腹減って」

 ごく自然に、いつも通りの展開に持っていく。 シオンは、「仕方ねえ」と苦笑しながらキッチンへ向かった。
 さすが、自炊生活の長いシオンだ。ほんの二〇分程度で、準備は整った。 目の前には、軽食とは言え、よくあんななけなしの食材でここまで揃えたもんだ、 と感心するしかない料理が並んでいる。
 得も言われぬ幸福な状況で『朝昼飯』にありつく。
 温かいスープを味わいながら、ふと思い出したようにシオンの方を見た。

「そういえばさ、さっき言い忘れたんだけど、俺の用事いつ済むか分かんねーから、 なるべくここにいるようにしろよ」

 もちろんこれは、シオンを、俺からより離れにくくするための口実だ。

「ん、ああ。分かった」

 同じようにスープを口には運びながら、シオンは何の不審も抱かずに素直に頷いた。
 そして俺の家の中をぐるっと見回して、からかうような笑顔を浮かべる。

「ずっと家ン中にいるのはちょっとつまらねえが、これだけ汚けりゃ掃除してるるだけでも、 いい運動になりそうだ」
「んなっ! そんなに汚くねーぞ、おれンちは!」
「何言ってやがる。充分汚いぜ」



 どうでもいい、屈託のない冗談をかわす普通の『ダチ』の会話。

 その裏側に俺が張った罠にかかったことを、シオンはまだ知らない。



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