LOVE is the sin..
chapter of DUNE


 シオンが俺の家に寝泊まりするようになって、数日が過ぎた。
 時間が経って、シオンのサイゾウへのささくれだった気持ちも落ちつくのを期待していた。 正直、それを心から願っていた。
 だけど残念なことに、シオンの頭からサイゾウのことが消えることは無かった。 口には出さなかったが、何となく分かる。本心はかなりジリジリしてるんじゃないだろうか。
 多分、もうそろそろ限界だろう。
 俺は、どうしたらいい? シオンを引き止めるには、決定打を欠いている。
 いつまでも「用事が長引いて・・・」なんて言い続けることもできない。

 残った方法といったら・・・・・・・・・・。



 5日目、夕食の後・・・・。
 とうとうシオンは、俺に聞いてきた。

「なぁ、デューン、せかすようなこと言いたくねえけど、用事はまだ片づかねえのか?」

 正直「ついに来たか」という気持ちだった。覚悟は出来てた。
 取り敢えずその場は、何でも無いような顔で、期限を先延ばしにする。

「ん? あぁ、もう少しだ。あと1、2日もあれば片づく」

 シオンには、今の俺の、こんな切実な気持ちは分からないんだろうな・・・。
 だけど俺は本当に心の底から、この状況が続いて欲しいと願っているんだ。 出来れば、今のような偽りの関係ではなく、本当の関係で・・・。
 そして今俺は、それを何とかして手に入れようと足掻いている。

「・・・・シオン・・・・・」
「うん?」

 呼びかけに応えたシオンには、さっきほんの少しだけ見せた、そわそわした様子はもうない。 俺が1、2日という期限を切ったことで納得したらしい。

 どんな用事なのか、全く説明していないというのに?
 俺の言葉が本当かどうかなんて、証明するものも何もないのに?
 それほど俺を信用してるのか?
 そんなに安易に俺を信用できるのは何故だ?
 俺は、お前にとって無害だから?
 決してお前を裏切らないから?



 もしも、俺がその信頼を裏切ったら・・・・・シオン、お前、どうする?



「・・・・どうしても月に行きたいか?」
「え?」
「もういいじゃねーか、勝手に出てった奴のことなんて」
「デューン? 何を言ってる?」

 眉をひそめて俺を訝しげに見るシオンの腕を掴むと、強引に抱き寄せた。

「・・・・・デューン?」

 シオンの身体は思った以上に細かった。でも、とても暖かかった。
 鼓動が伝わってくる。初めて感じるシオンの生きている証し・・・・・。

「ちょっ・・・・デューン、痛え。腕、放せ」
「・・・・・シオン、・・・・・・・俺じゃ・・・・・・俺じゃ駄目か?」
「ん・・・あ? なん・・・?」
「・・・・サイゾウなんかより・・・・・ずっと大事に護るから・・・・」
「デューン?」

 俺の腕をふりほどくようにして身体を放すと、シオンはもはや、疑わしい者を見る瞳で俺を見つめる。

「何を言・・・・・・・・・・・・ん・・・・う!」

 その襟首を掴むようにして引き寄せると、俺はシオンの唇に貪り付いた。
 もがく身体を力ずくで抱き寄せて、逃れられないようにして、深く重ねる。
 途端に唇に鋭い痛みを覚えた。

「・・・ッつ・・・!!」
「何しやがる! 変態か、てめえ!」

 真っ赤な顔で唇を拭いながら、俺の血の混じった唾を吐いた。 細い肩が怒りに小刻みに震えている。
 威嚇するように鋭い視線で睨み付けながら、ジリジリと後ずさっていく。

「だったらどうすんだよ?」

 俺は、唇から溢れる血を舐めると、挑発するように笑う。
 ほとんど喧嘩腰で掴みかかると、乱暴に壁に押しつけて、シオンの自由を奪う。 顔を近づけて、耳元に低く囁いた。

「逃がすかよ・・・・・」
「・・・・・ッ!」

 シオンの細い身体がビクリと震えた。 驚愕と恐怖とが入り交じった瞳を見開いて、俺を見ていた。 いつもは血色のいい頬が青ざめている。
 でも・・・そんな表情がたまらなく可憐だった。
 綺麗だ。すごく。
 そうだ、ずっと俺は気付いてた。シオンは、ものすごく美しいんだ。
 こんなに美しいものを独り占めしようとしていたサイゾウは、万死に値する。

「放せ! これ以上ふざけた真似しやがると、マジでただじゃすまねえぜ」
「ふ〜ん? ただじゃすまない? 何が出来るんだ? お前に?」
「な・・・・・・・・あ?」

 突然シオンが、まるでしなだれかかるように、俺に倒れ込んできた。

「ようやく効いてきたみたいだな」
「・・・・・な・・・・・に・・・・・?」
「さっきの飯にちょっとね。段々力抜けてきただろ?」
「・・・・んだと・・・・てめ・・・・最初から・・・・・!」
「・・・・・・・そうだよ・・・」

 当たり前のことだというようにあっさりと応えると、俺はシオンを追いつめるように低く笑う。
 それを見て強張ったシオンを抱え上げた。 逞しく鍛えられているというのに、その細さのせいで、俺でも簡単に持ち上げられる。

「降ろ・・・・せ!」
「いやだ」
「・・・ふ・・ざけるな!」
「ふざけてるってだけで、弛緩剤まで盛ったりしない」

 怒りの後ろにちらちら見える不安の色を確認しながら、その瞳を向かってはっきりと言った。

「・・・・・・俺は、本気だ」
「・・・・・・・・・・!!」

 見開かれた瞳に光る色が、シオンの恐怖を物語っていた。
 ・・・・・・俺が何をしようとしてるかは、分かってるんだな・・・・・・。

「大丈夫だ。力抜いてりゃすぐ終わる」
「終わる・・・・て・・・・・な・・・・・・」

 宥めるように言いながら、ベッドにシオンを降ろす。
 スプリングを軋ませながら覆い被さるように身体を重ねると、 シオンは必死で自由にならない身体をよじり、俺から顔をそむけた。
 俺はゆっくりと追いつめ、唇を重ねる。

「う・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・・・」

 シオンの中に侵入し、歯列をなぞり舌を絡ませる。
 その感覚に嫌悪しているらしいシオンは、辛そうに顔をしかめた。
 だが俺はシオンを解放することなく、執拗に口内を侵した。
 シオンの、堅く閉じられた瞳の端から、屈辱のせいなのか生理的なものなのか分からない涙が、 一粒こぼれた。



 シオン・・・・今日こそお前を手に入れる。
 こんなに待ったんだ。もうそろそろ、想いを叶えさせてもらっても構わないだろう?



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