LOVE is the sin..
chapter of DUNE


 秘孔に、己をあてがう。
 途端にシオンは、気が狂ったように泣き叫んだ。

「いやだ! やめろっ! やめろ! いやだぁっ!!」
「シオン、初めに言っただろ? 力抜いてりゃすぐ終わる」
「やめろ! いやだ! やめろ・・・・・っ!!」
「シオ・・・・・・」
「嫌だ! 放せ! やめてくれ、隊長!!」

 それは本当に突然だった。我を忘れたシオンが叫んだ名前に、全身が凍り付くような感覚を覚える。

「・・・・・隊・・・・長・・・・?」

 思わず反芻する俺に、シオンの顔色が変わった。
 俺は驚愕を隠しきれず、緊張の余り渇いたのどを酷使して、かすれた声で問う。

「シオン・・・・・・・まさか、お前、あの・・・・・ターレスとかいうやつに・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・シオ・・・・」
「うるせえ! 俺が誰にどうされてようと、お前には関係ねえだろ!」

 怒りを通り越し、もはや憎悪の域に達しているシオンの怒声に、 俺は喉笛を噛み裂かれたような衝撃を覚えた。

「いけねえのかよ! お前だって同じことしてるじゃねえか! お前らなんか大嫌いだ!  どいつもこいつも、俺が抵抗できないようにしておいて、ヒトの身体、メチャクチャにしやがって!」

 叩き付けられる憎しみをまともに受けとめることも出来ず、俺はただ狼狽えているだけだった。
 もはやシオンは、俺の死さえ願っているのかも知れない。
 そう思った時だった。

「でも・・・・・もういい・・・・・」

 不意にシオンの瞳から、一切の感情が消える。 いや、それまであった激しい憎しみや怒りの感情の代わりに、退廃的な色がそこで鈍く光っていた。

「疲れたんだ・・・・・。抵抗することにも、怒ることにも・・・・好きにすればいいだろ・・・」
「・・・・・シオン?」

 急に無気力になったシオンの様子に不安を覚える。 呼びかける俺の声も聞こえないようだった。
 もう一度呼びかけようとした時、シオンは、全く表情を変えないまま焦点の合わない瞳から涙を流した。 それはまるで廃人のようで、俺をぞっとさせた。

 シオンは、もう何もかもに絶望してしまったのだ。
 そして絶望させてしまったのは、俺・・・・。

 ここまで来て、ようやく俺は、自分の犯した罪の重大さに気付いた。
 何故、我慢できなかったんだろう。なぜ、満足できなかったんだろう。 あの、優しい『友達』としての関係のどこが、俺は不満だったんだ?。
 あれで、充分すぎるほど充分だったというのに。

 俺は、決して止まろうとしない涙を何度も拭いながら、慌てて上掛けでシオンの肌を包み、 無様なくらい必死になって謝罪した。

「ごめん・・・・・ごめん、シオン。ホントにごめん。 許してもらえるなんて思ってないけど、ごめん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「でも・・・・・でも好きだったんだ。俺自身、どうして良いか分からないくらいお前が好きなんだ。 お前のことを考えると、心臓が潰れちまいそうなくらい・・・・シオン・・・・・」

 俺が、ただの欲望だけでシオンを抱こうとしたんじゃないことを伝えたかった。 言い募った後でシオンを見る。シオンは相変わらず冷たい無表情のままだった。 そして、ただの一言で、俺の全ての訴えに応える。



「 だ か ら、 何 だ ?」



「・・・・・・身体動くようになったら、シャワー浴びてこいよ。月に送る。 着替えは俺のを置いておくから・・・」

 そう言い置いて、俺は逃げるように寝室を出た。
 リビングのソファーに身を投げ出す。
 己の犯した過ちの重さに、胸の辺りがちりちり燃えているようだった。 吐きそうなほど頭がクラクラした。
 ガキの頃からずっと心の一部にあった感情が、後悔に変わっていく。 そのあと、失った哀しみに変わっていった。
 今になってようやくこみ上げてくる涙を、両手で押さえて止めようとした。 手のひらの隙間から、指を伝って幾筋も幾筋もおちていく。




 シオンはもう、俺を許してくれない・・・・だろうか?




 不意に、側に気配を感じた。
 目を覆う手を離して、気配のした方を見て、ぎょっとした。

「着替えがねえ」

 びしょぬれのシオンが、全裸で立っていた。
 俺は思わず飛び退くようにしてシオンから離れた。 濡れたシオンの素肌が、とてつもなくいかがわしいものに思えて、 必死になって視線をシオンから反らした。

「シャ・・・・シャワーは?」
「浴びた」
「は・・・・・早いな」
「あれから2時間経ってる」

 どうやら俺は、泣いてるうちにガキみたいに寝ちまったらしい。

「着替え」
「わ・・・・悪い・・・」

 シオンの一言一言が、俺を責めているように思えた。 俺に向かって声が放たれるたびに、鋭い憎しみが突き刺さるような気がした。
 この場から逃げ出してしまいたい。
 シオンと話すだけで、全身が戦慄いて、心臓が口から飛び出しそうになる。
 こんなふうになってしまうなんて、思いもしなかった。
 全て自分が招いたことだけど・・・・。

 自分で破壊したものが、多分何よりも大切なものだったんだ。 そして新しく手に入れようとしたものは、決して手には入るものではなかったんだ。
 分かり切っていたはずなのに・・・・・・。

「・・・・これ・・・・・」

 震える手で、タオルと適当な着替えを差し出す。

 無造作に掴み、シオンはバスルームへ戻っていった。
 いつもに輪をかけて無愛想だったけど、思ったよりシオンは普通だった。

 ・・・・・それほど怒っていないとか・・・?

 いや、その考えは余りにもシオンに失礼だ。自分のしたことに対して、楽天的すぎる。
 あの時の感情を無くした、冷えた瞳を思い出せば、俺のしたことがどれだけシオンを傷つけ、 悲しませ、怒らせたかなんて、簡単に分かる。


 俺は、許してもらえないことを前提にした上で、この罪を償わなきゃいけない。

 シオンが、「殺す」と言うのなら、甘んじてその刃を受け入れよう。
 シオンが、「死ね」と言うのなら、喜んで自分の心臓を潰そう。
 シオンが、「消えろ」と言うのなら、俺を知る全ての人から俺の記憶を消し去って、 誰にも分からないところで、自分を滅ぼそう。

 出来れば、それでほんの少しでもシオンが俺を許してくれれば・・・・・。


 そう願いながら・・・・。



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