LOVE is the sin..
chapter 1




 それはいつも、すぐ手の届くところにあった。



 それはいつも、触れた瞬間、失うところにあった。





******************************************************





 訳の分からない感覚に動かされて、気が付いたら眠るシオンの側へ来ていた。
 その寝顔を見た途端、胸の奥にあったざわめきが落ちついていくのを感じた。

 ああ、そうか・・・。俺はシオンに会いたかったんだ。

 それは、本当におかしなことだ。ほんの数十分前に「おやすみ」と言って、 互いの寝床へと向かったばかりだというのに。
 今までずっと見守ってきたというのに、なぜ突然・・・・・?

 自分でもおかしいと思いながら、それでもシオンの側を離れがたくて、その傍らに佇んでいた。
 ぼんやりと立ったまま、眠るシオンの様子を見守っていた。

 見事な黄金の髪。
 閉ざされた瞼。長い睫毛。
 形のよい唇はゆるく結ばれている。
 今は上掛けに隠れているが、重い鎧を身につけ大剣を軽々と扱うその躰は、 俺でも見とれてしまうくらい綺麗に引き締まっている。 だが、逞しいと言うにはほど遠い、ほっそりとしたラインを保っていた。
 不必要なものの全くない、理想的な肉体・・・。

 自分の視線が、いつの間にかシオンの髪や、唇や、 細い四肢を値踏みするようなしつこい色を帯びていることに気付いた

 ・・・・・まずい・・・・・。

 ような気がする。

 これ以上ここにいると、良くないことになるかも知れない。
 曖昧だったが、そんな感覚を覚えて、その場を離れようとしたときだった。

「・・・・・・・サイゾウ?」

 片方だけの眠たげな瞳が、不思議そうに俺を映している。

「すまん。起こしちまったな」

 何事もなかったように取り繕って、そっとベッドの端に腰を下ろす。
 クッションに乱れたシオンの金髪を優しく整えてやると、 そんな俺の態度を不審に思ったのか、シオンは躰をおこした。

「どうしたんだ?」
「いや・・・・・、別に何でもねえ」
「でも、いつもと違うぜ?」
「子供は妙な気をまわさねぇで、さっさと寝な」

 シオンの頭を軽く抱き寄せると、宥めるように低く耳元で囁く。 それが耳朶を震わせたのか、シオンの躰がビクリと震えた。

「ガ・・・・ガキ扱いすんなよ!」

 頭に回した腕を払いのけつつ、シオンが抗議する。
 俺を自分から離そうと、胸板を両手で押してきた。

「・・・・・そうだな」

 頭の芯が麻痺しているような、虚ろな気分で長い睫毛を見つめていたら、シオンが顔を上げた。 シオンは、俺の瞳をじっとのぞき込む。

「サイゾウ?」

 急にシオンの顔色が変わった。何かとても不安そうな瞳で俺を見つめている。

「ほんとに大丈夫なのか? なぁ・・・?」

 一瞬行き先を決めかねたシオンの手が、俺の髪にのばされた。 ぼんやりしている俺を気付かせるように、一房掴んで、それを軽く引っ張ってくる。
 心配そうな瞳が、どこか、すがるような色合いを浮かべている。

 ・・・まるで何かをねだって甘えているようだ。

 そう思った途端、下肢に激しい疼きを覚える。

 上目遣いの瞳にかかる、乱れた黄金の髪。
 薄く開かれた唇。

 俺の心拍数は急激に加速していた。

「シ・・・・オン・・・・・」
「なんだ?」
「・・・・・・・横になって」
「ん? ・・うん」

 シオンは、俺がおかしいことに、気がつかなかった。
 俺は、痩せた背中と肩に腕を回して、優しくシオンの躰を横たえる。
 そのまま覆い被さるようにしている俺に、シオンは圧迫感を感じたのか、押しのけようとしてくる。

「サイゾウ・・、何か、息苦しい」
「・・・ちょっと我慢してくれ」
「・・・・・・・・・サイゾウ・・・・?」

 シオンは不思議そうに首を傾げた。
 ここまで来ても、シオンには、俺が何を目的としているかが分からないらしい。 というよりも、俺がシオンを求めているという事へ、まったく思考がつながらない。 シオンにとって、それは起こり得る可能性が完全に0の行為だった。キョトンとして、俺を見ている。
 その、無垢すぎる瞳に、激しく良心の呵責を覚えた。

 こんな感情は、持つだけでも罪だというのに、今自分はそれをシオンに施そうとしている・・・・・・。

 罪の意識が頭の奥で呟いているが、目を覚ましてしまった欲動は、 今や俺にすらも止めることが叶わなかった。

「・・・おい、サイゾウ・・・?」

 覆い被さったままゴチャゴチャ考えていた俺に、シオンは訝しげに声をかける。 その声が、俺を思考から引き戻した。
 俺は、考えることをやめた。
 静かに、しかし深くシオンの唇を覆う。

「・・・・・!!」

 シオンの躰が硬直した。シオンの唇は、声を発したままの状態で、俺の侵入をあっさりと許す。
 驚きのあまり動けないシオンの中を、俺はゆっくりと這い回った。

 暖かく柔らかいシオンの唇の感触が、俺の心の内にずっとあった何かを、 埋めていってくれるような気がする。

 俺はずっと、シオンが欲しかったんだ・・・・。

 今、シオンは俺の腕の中にいる。
 このまま抱いてしまおう。
 シオン・・・・。お前にだって、辛い思いなどさせない。
 悦ばせてやる。
 だから・・・・・、いいだろう?



 変な話だが、技巧には自信がある。伊達に2万年も生きていない。
 シオンが不快感を認識するよりも前に、 何もかも忘れさせるほどの快楽を与えることなど簡単だった。
 もちろん、シオンにだって、ある程度の知識はある。だが、それは決して詳細なものではない。
 経験など皆無に近いシオンには、自分の中をなぞられる度に押し寄せる波は強すぎたらしい。 俺を押しのけようとするよりも前に、その両腕は抵抗する力を無くした。
 あとは、僅かに震えながら、されるがままを受け入れるだけ・・・。

 ゆっくり唇を離したときには、すでにシオンは声を出す力さえ失っていた。
 驚きと、突然すぎた快楽のせいで、青い瞳からは涙が幾筋もこぼれている。
 呆然としてしまったシオンを驚かさないように、優しくそっとその涙を指先で拭った。
 そして、今更のように言った。

「・・・・・好きだ。シオン」

 その言葉に、シオンは何らかの反応を示そうとしたらしい。 だが、まるで麻酔が効いたように、その躰は自由が利かなかった。 ただ、俺をじっと見つめただけで・・・。

「ごめんな。びっくりしたろ? いきなりで」

 宥めるようにシオンの髪を撫でる。 何度か撫でたあと、そのまま流れるように髪から細い首筋へと手を滑らせた。
 流石にくすぐったかったらしく、シオンが触れられた方の肩をすくめる。

「細いな・・・・」

 シオンが強く抵抗できないのを幸いに、軽くだが、しつこいくらい日に焼けた首筋を何度も撫でる。
 途端にシオンの瞳に、涙が浮かんだ。
 逃れようと躰を動かそうとしたらしいが、それは僅かに顔を背けるだけに終わる。

「・・・シオン・・・・・・」

 まるで引き寄せられるように、唇が首筋に口付けていた。
 シオンの躰が、電流を流されたように、大きく一度はねた。 が、それ以上のことはなく、俺の躰の下に、華奢なそれを埋められていく。

「・・・・や・・・・・・・」

 掠れた声が、思い出したようにその喉を滑り出た。だが、それも、ただそれだけのこと。
 俺の唇が首筋を啄み始めると、それからはただ吐息が切なげに漏れるだけだった。

 高ぶり始めた下肢を無理に宥めて、シオンの躰をゆっくりと紐解いていく。 夜着のボタンを、のんびりすぎるくらいのペースで一つ一つ外していく。

 あまり急いでは、シオンを怖がらせる。

 確かに、いきなりことに及んでしまった。それでも俺にとってはこの上なく大切なシオンだ。
 自分の行為でショックを与えてしまったことは、今更どうしようもない。
 しかし、せめてそれ以上傷つけることのないように、慎重に慎重に行いを進めていく。
 俺の行為は、今まで抱いてきた星の数ほどの女性へのそれよりも、遥かに慎重だった。
 少し愛撫しては、手を休め、髪を撫でる。瞳からあふれた涙を優しく拭い、また髪を撫でる・・・。
 そんな、焦れったい行動を繰り返すうち、酷いことはされないと確認して安心したのか、 シオンの躰の緊張も徐々に解けてきた。
 たっぷり30分以上かけて、やっとシオンの上着を脱がせる。 受身にはとうてい向いていない、堅そうな胸板と、きれいに分かれた腹筋が、俺の前に露になる。
 必要最低限以下の物資で生きてきたシオンの躰は、余分なものが全くない。 神話彫刻のような芸術性がその躰にはあった。
 だが、俺にはそれが痛々しく映る。
 肉体に付くことを許された肉は全て筋肉になっている。僅かな無駄も惜しむように。
 18歳の肉体にしては、華奢すぎる。 もう少し豊かであれば、もっと立派な体格になっているはずだ。
 剥き出しになった肋骨のラインを、いたわるように指でなぞる。

「ちゃんと喰えよ」

 こんな時にわざわざ言う台詞ではない。最もそぐわない言葉かも知れない。 でも、痛々しくて、愛おしくて、言わずにいられなかった。

「・・・・・・サイゾ・・・ぉ・・・・」

 俺の言葉に応えたシオンの声は、脱力感のせいで、この上なく甘いものだった。 そのせいで躰に、カッと熱が灯った。

「ば・・か・・っ! 変な声出すな」
「・・・・ん・・・・」

 自分の下で驚くほど素直にうなずくシオンが、心の底から愛しかった。
 こんな事をしても、怒りもしない。俺を信用して、ただ、従順に、俺のするままに躰を預けてくれる。

 髪を撫で、口付け、そして、そっと行為を進めた。
 指先が、シオンの上半身を辿る。意図して、シオンを刺激する場所のみを選んで触れていった。
 荒くなるシオンの吐息が、俺を更に駆り立てた。激しい動悸が耳を打つ。
 急速に凝固していく下肢が、シオンを催促している。
 俺は、その情欲を、理性を総動員して抑制した。

 自分の感情を一方的にぶつけてはいけない。

 堰の切れてしまった流れを、せめて濁流にしないことが、シオンへの罪滅ぼしだ。
 恐れさせてはいけない。急いではいけない。
 ただひたすらに優しく
 優しく・・・・。



NEXT>>


1996 (C)SQUARE Rudra's Mines +index+ 2002 Presented by FU-ByKA


楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル