+LOVE is the sin..+ chapter 7 side of saizoh |
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無我夢中だったせいで、力の加減が上手くいかなかった。 扉は、弾かれたように荒々しく開く。 帰りの遅いシオンを心配して、居間でその帰りをじっと待っていたダグが、 その音にはっとしてこっちを見た。 俺の抱きかかえているシオンの姿を見つけると、驚きを通り越した驚愕の色で、 鞠の転がるように駆け寄ってくる。 「ア・・・アニキっ! サイゾウ、・・一体・・・!?」 血の気を失い、生きているのか死んでいるのか分からないほどにぐったりとしたシオンを、 そっと慎重に抱え直す。
「話はあとだ。風呂、湧かせ」
気をつけたつもりだったが、やはり俺の語調は荒かった。
そのせいなのか、純粋にシオンが心配なのか、ダグは慌てて浴室へ駆け込んだ。
「お前は外に出てな」
シオンの、男に乱暴をされた姿など、ダグに見せるわけにはいかない。 「・・・・・・・・・・」
昨日つけた自分の罪の跡が、まだきれいに残っている。 「・・・・・・・・・っ!」 シオンの躰がびくりと震える。
「・・・痛ぇか?」 ひどくかすれた声が、痛ましかった。
「いい。喋るな。・・大丈夫だな?」 優しく尋ねると、シオンは一つうなずいて応える。その下肢に、そっとタオルを当てた。 「・・・・・・・・・・っ!!」 シオンの肩が震える。
「いてぇか?」 その言葉に、シオンは素直に俺の躰に腕を回した。胸に頬を押し付け、背中に掴まる。 「ちょっと・・・我慢しろよ」 驚かさないように、そっと囁いてから、犯された場所にタオルを当てる。 「・・・・・・・・・うッ・・!!」 途端にシオンの躰が強張った。背中にある手が、俺にしがみつくように動いた。 「もう少し・・もう少しだ。我慢しろ」
小刻みに震えるシオンの髪を優しく撫でてやりながら、汚れた部分を清めるように拭う。 「痛かったろうな・・・。怖かったろ?」 シオンは応えることなく、ただ俺にしがみついて、ひたすら震えていた。 「もう、大丈夫だからな。俺がずっと側にいてやる。だから、大丈夫だからな」 腕の中ですすり泣く、傷ついた少年の髪を、これ以上ないくらいに優しく撫でる。 心の傷が、それで少しでも癒されるように、と祈りながら。
「いいぞ」 俺がシオンを馬鹿と呼んでも、ダグは気にしなかった。 多分、ダグにも俺の気持ちが分かるんだろう。もしかしたら、俺と同じ気持ちなのかも知れない。 自分が側にいれば・・・・・・・。 「こいつ、俺が着いたときはもうほとんど意識なくてよ。 なのに、俺、見た途端、『ダグには知らせないでくれ』だってさ・・・。 それからずっと、お前に心配かけることばっかり気にしてやがんの。 ホント、仕方ねぇよな、そんなこといってる場合じゃねぇのによ」 か細く弱々しい声で告げた、痛いくらいのシオンの懇願を、冗談めかして話しながら、 そっと腫れた瞼を冷やしてやる。
「あのさ・・それだったら、おいら、しばらくここ、留守にした方がいいかな?」
シオンの願いをダグに告げたのは、別にダグを追い出そうと思っての事ではない。 「・・・・・・・・悪いな」
それでも、なんとなく罪の意識を感じるのは、やはり真実を告げていないせいなのか・・。
「ううん、やっぱり、おいらじゃダメだろうから」 にっこり笑うと、ダグは部屋を出ていく。戸口で立ち止まって俺に頭を下げた。
「アニキのこと、よろしく」
すでに荷物をまとめてあったらしく、玄関の扉が開く音がすぐに聞こえた。 「・・・・・・・ダグ・・・、すまねぇ・・・。 お前のアニキをこんな目に遭わせたのは、全部俺が悪いんだ・・・・」 うなだれて、低く呟く。涙が膝を濡らした。 「俺が、昨日、シオンにあんな事、しなけりゃ・・・、こんな事には・・・」 顔を上げると、シオンの寝顔が瞳に映る。
安らかな寝顔。
「・・・・ううウッ・・・ん・・んンぅ・・・っ・・・!!」
シオンの悲壮な悲鳴が、耳から離れない。 「シオン・・!!」
ベッドに投げ出されるように倒れたシオンに、思わず駆け寄る。
シオンを苦しめた男の姿など、その時の俺にはどうでも良かった。 「・・・そんなに大事なら、箱に入れてしまっておかなきゃだめでしょ?」
サーレントは、先ほどまでの凶行を微塵も感じさせない笑顔で、俺を揶揄する。
「とっても良い子でしたよ、シオンさんは。あなたの時も、そうだったでしょうけどね」 クスリと笑うサーレント。その、意識された媚態が、俺を嘲笑う。
「あなたは、何故なんですか?」
恥も臆面もなく、サーレントはごく当然のことのように言う。
20000年も生きていながら、
たった一つしかない大切なものさえ満足に守れない。 「おやおや、ずいぶんと荒れてるねぇ」 ふいに後ろからかかった声に、顔を上げた。宿屋の女将が、ニコニコして俺の方を見ている。 「そんなことしちゃ、後で直すのが大変だろ?」 とっさに笑顔を作る。笑いたい気分とはほど遠いが、無駄に20000年も生きていない。 俺でも、ある程度の感情を隠すことくらいは覚えた。 「おぅ。わりいな。何かすごくいいところにあったもんでさぁ。後でちゃんと直しとくって」
意図してカラカラと笑いながら、「怒られるのヤだから、他のみんなには黙っといてくれよな」
と冗談めかして付け足す。
「これは、あたしが採ってきた薬草だけどね、煎じて飲ますと気持ちが落ち着くんだよ。
シオン坊に煎じておやり」
シオンのことを話されて、俺の作り笑いは消えた。静かに囁くようにお礼を言う。
「まぁ、おばさんはないだろ。あんたとそうかわりゃしないよ」 ほんとに頼むよ、と繰り返しながら去っていく女将の姿を見送った後、 その方向へ向かって深く頭を下げた。 「・・・・・ごめんよ、おばさん。一番悪いのは、この俺なんだ・・・」 |
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