LOVE is the sin..
chapter 7
side of saizoh


 無我夢中だったせいで、力の加減が上手くいかなかった。
 扉は、弾かれたように荒々しく開く。
 帰りの遅いシオンを心配して、居間でその帰りをじっと待っていたダグが、 その音にはっとしてこっちを見た。 俺の抱きかかえているシオンの姿を見つけると、驚きを通り越した驚愕の色で、 鞠の転がるように駆け寄ってくる。

「ア・・・アニキっ! サイゾウ、・・一体・・・!?」

 血の気を失い、生きているのか死んでいるのか分からないほどにぐったりとしたシオンを、 そっと慎重に抱え直す。

「話はあとだ。風呂、湧かせ」
「え・・・う、うん・・」

 気をつけたつもりだったが、やはり俺の語調は荒かった。 そのせいなのか、純粋にシオンが心配なのか、ダグは慌てて浴室へ駆け込んだ。
 その後から、シオンに微動さえも与えないように慎重な動きで、俺も入る。
 アタフタと準備をするダグの横で、俺はシオンの服をそっとくつろげた。
 ふと気がついて、ダグに言う。

「お前は外に出てな」
「で・・でも・・・」
「心配すんな。ちょっと怪我しただけだ」
「何が・・!?」
「悪いが説明は後だ。良いから外、出てろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 シオンの、男に乱暴をされた姿など、ダグに見せるわけにはいかない。
 食い下がろうとするダグに、絶対譲れないと目で伝える。
 自分がいては何か都合が悪いことを悟って、渋々ながらダグは浴室を出る。 その後ろ姿を見送って、すぐに扉を閉めた。
 腕の中のシオンの服をそっと脱がす。

「・・・・・・・・・・」

 昨日つけた自分の罪の跡が、まだきれいに残っている。
 深い悔恨を覚えながら、しかし、今はそんなものに浸っている場合ではない、と無理に感傷を掻き消す。
 完全にシオンから衣服を取り去ってしまうと、そっとその躰を湯船につけた。

「・・・・・・・・・っ!」

 シオンの躰がびくりと震える。

「・・・痛ぇか?」
「・・・・・サ・・・・」

 ひどくかすれた声が、痛ましかった。

「いい。喋るな。・・大丈夫だな?」
「・・・・・・ん・・」

 優しく尋ねると、シオンは一つうなずいて応える。その下肢に、そっとタオルを当てた。

「・・・・・・・・・・っ!!」

 シオンの肩が震える。

「いてぇか?」
「・・・・・いて・・・」
「俺にしっかり掴まってろ。爪立ててもいい」

 その言葉に、シオンは素直に俺の躰に腕を回した。胸に頬を押し付け、背中に掴まる。

「ちょっと・・・我慢しろよ」

 驚かさないように、そっと囁いてから、犯された場所にタオルを当てる。

「・・・・・・・・・うッ・・!!」

 途端にシオンの躰が強張った。背中にある手が、俺にしがみつくように動いた。

「もう少し・・もう少しだ。我慢しろ」

 小刻みに震えるシオンの髪を優しく撫でてやりながら、汚れた部分を清めるように拭う。
 そっとタオルを離すと、当てた部分が紅く染まっていた。浴槽の湯も、僅かに紅く染まっている。
 どれだけ酷いことをされたのか、それを見ただけでも十分すぎるくらいに分かる。
 シオンの苦しみを想うと、辛くて、どうしようもなく辛くて、その心の痛さに思わず涙がこぼれた。

「痛かったろうな・・・。怖かったろ?」

 シオンは応えることなく、ただ俺にしがみついて、ひたすら震えていた。

「もう、大丈夫だからな。俺がずっと側にいてやる。だから、大丈夫だからな」

 腕の中ですすり泣く、傷ついた少年の髪を、これ以上ないくらいに優しく撫でる。 心の傷が、それで少しでも癒されるように、と祈りながら。




 ぐったりと、力無く眠るシオンのベッドの横で、その髪を、顔を優しく撫で続けていた。
 俺に言われて、冷やしたタオルを準備してきたダグが、そっと扉を叩く。 静かにシオンから手を戻して、それに答えた。

「いいぞ」
「こんなくらい冷えてれば、いい?」
「ああ、悪いな、使っちまって」
「ううん、アニキのためだもん。 ・・・・・・・・ねえ、もうそろそろ何があったのか、おいらにも教えてよ」
「あの、言霊師・・・・」
「サーレント?」
「あぁ、そいつだ。そいつといるときにモンスターに襲われてな、 不意をつかれたもんだから、とっさに自分を盾にしちまいやがってよ・・・。 馬鹿な奴だぜ、まったく」

 俺がシオンを馬鹿と呼んでも、ダグは気にしなかった。 多分、ダグにも俺の気持ちが分かるんだろう。もしかしたら、俺と同じ気持ちなのかも知れない。

 自分が側にいれば・・・・・・・。

「こいつ、俺が着いたときはもうほとんど意識なくてよ。 なのに、俺、見た途端、『ダグには知らせないでくれ』だってさ・・・。 それからずっと、お前に心配かけることばっかり気にしてやがんの。 ホント、仕方ねぇよな、そんなこといってる場合じゃねぇのによ」

 か細く弱々しい声で告げた、痛いくらいのシオンの懇願を、冗談めかして話しながら、 そっと腫れた瞼を冷やしてやる。

「あのさ・・それだったら、おいら、しばらくここ、留守にした方がいいかな?」
「・・っておまえ、どうする気だよ」
「うん、大丈夫。教会で泊めてもらうから。アニキには、王様に頼まれて出かけた、とか、 適当にいっといてよ」

 シオンの願いをダグに告げたのは、別にダグを追い出そうと思っての事ではない。
 だが、ダグの提案を聞いて、それが一番都合が良いと思った。

「・・・・・・・・悪いな」

 それでも、なんとなく罪の意識を感じるのは、やはり真実を告げていないせいなのか・・。
 ダグは、そんな俺の内心を知らない。あっけらかんとして笑った。

「ううん、やっぱり、おいらじゃダメだろうから」
「・・・・・・? 何がだ?」
「サイゾウになら、アニキもちゃんといろいろ、言えるだろうけど、 おいらだと、何か変に気を使っちゃうだろうし・・。それに・・」
「それに・・、何だ?」
「ん、おいら、多分サイゾウほど上手くアニキに優しく出来ないから」
「何だ、それ?」
「だって、サイゾウ、アニキのことすごく大事にしてるでしょ?」
「・・・・・・・・ま、まぁ、そうだけど・・」
「おいらも、アニキのことは大切だけど、サイゾウほど上手にしてやれないから」
「・・・・へ、変な言い方だな、それ」
「そうかな? でも、ホントのことでしょ?」

 にっこり笑うと、ダグは部屋を出ていく。戸口で立ち止まって俺に頭を下げた。

「アニキのこと、よろしく」
「・・あぁ、任せておきな」
「じゃぁ・・」

 すでに荷物をまとめてあったらしく、玄関の扉が開く音がすぐに聞こえた。
 後には、ひたすら眠り続けるシオンと、それを見守る俺だけが残る。

「・・・・・・・ダグ・・・、すまねぇ・・・。 お前のアニキをこんな目に遭わせたのは、全部俺が悪いんだ・・・・」

 うなだれて、低く呟く。涙が膝を濡らした。

「俺が、昨日、シオンにあんな事、しなけりゃ・・・、こんな事には・・・」

 顔を上げると、シオンの寝顔が瞳に映る。

 安らかな寝顔。
 あのときとは、全然違う。あのときは、もっとずっと苦しげで、もっと怯えた顔をしていた。




 青い髪を乱して、シオンを抱く魔性の獣・・・・。 俺が部屋に飛び込んだとき、サーレントは、憎悪に満ちた瞳で俺を睨み付けた。
 その下で、涙に濡れた頬をシーツに埋める、折れそうなほどに弱々しいシオンの姿。
 思わずサーレントに掴みかかろうとしたとき、サーレントは、口の端をつり上げる、 下卑た笑いを浮かべ、俺に見せつけるように、いきなり乱暴に腰を動かした。

「・・・・ううウッ・・・ん・・んンぅ・・・っ・・・!!」

 シオンの悲壮な悲鳴が、耳から離れない。
 俺の存在に気付き、堪えていた涙の留め金を外したシオンの顔。 「助けて」と、その瞳が俺を必死で呼んでいた。
 不意に乱暴に引き抜かれるサーレントの男性は、シオンを処女のように血で汚し、 自らも紅く染まっていた。

「シオン・・!!」

 ベッドに投げ出されるように倒れたシオンに、思わず駆け寄る。 シオンを苦しめた男の姿など、その時の俺にはどうでも良かった。
 助け起こしたとき、その腕の中のシオンはあまりにも脆弱で、 このまま死んでしまうのではないか、とすら思った。
 その声を封じているものを取り除き、力無くあおのいた首を自分の胸にもたせかけてやる。 止める方法を忘れ去られた涙が、熱く俺の胸を濡らし続けた。

「・・・そんなに大事なら、箱に入れてしまっておかなきゃだめでしょ?」

 サーレントは、先ほどまでの凶行を微塵も感じさせない笑顔で、俺を揶揄する。
 明らかな挑発が、その声の下に見えていた。

「とっても良い子でしたよ、シオンさんは。あなたの時も、そうだったでしょうけどね」
「・・・・キサマっ・・・!!」
「みっともないですよ、寝取られて嫉妬するなんて」
「何故、こんな事をした!? シオンがキサマに何をしたんだ!!」

 クスリと笑うサーレント。その、意識された媚態が、俺を嘲笑う。

「あなたは、何故なんですか?」
「・・・・・・・・・っ!!」
「順序としては、私の方が後なんですよ」
「・・もう・・・いい。出てけ! 今すぐ俺の目の前から消えろ!」
「そうおっしゃるなら、失礼します。 ただ、また日を改めて、ビルシャナのことを伺いに行くと思いますけどね」

 恥も臆面もなく、サーレントはごく当然のことのように言う。
 その顔をにらむ俺に、勝ち誇ったような笑みを残して、悠々とサーレントはその場を去った。




「くそっ・・・・・・・」

 20000年も生きていながら、 たった一つしかない大切なものさえ満足に守れない。
 そんな自分の不甲斐なさを呪う怒りが、やり場のなさに、近くにあった壁にぶつけられる。
 壁は、理不尽な八つ当たりに、抗議の声を上げながら、ぼろぼろと崩れた。

「おやおや、ずいぶんと荒れてるねぇ」

 ふいに後ろからかかった声に、顔を上げた。宿屋の女将が、ニコニコして俺の方を見ている。

「そんなことしちゃ、後で直すのが大変だろ?」

 とっさに笑顔を作る。笑いたい気分とはほど遠いが、無駄に20000年も生きていない。 俺でも、ある程度の感情を隠すことくらいは覚えた。

「おぅ。わりいな。何かすごくいいところにあったもんでさぁ。後でちゃんと直しとくって」

 意図してカラカラと笑いながら、「怒られるのヤだから、他のみんなには黙っといてくれよな」 と冗談めかして付け足す。
 女将は呆れたように肩をすくめたあと、心配げな色を隠さずに声を潜めた。

「これは、あたしが採ってきた薬草だけどね、煎じて飲ますと気持ちが落ち着くんだよ。 シオン坊に煎じておやり」
「・・・・おばさん、すまねぇな」

 シオンのことを話されて、俺の作り笑いは消えた。静かに囁くようにお礼を言う。
 途端に背中を叩かれた。(といっても女将とは身長差がありすぎで、 叩かれたのはほとんど腰のあたりだったが・・)

「まぁ、おばさんはないだろ。あんたとそうかわりゃしないよ」
「わっりい〜、失礼しちまったぜ。こ〜んな美人をつかまえてなぁ」
「余計に気になる物言いだね。まぁ、いいや。 ・・・・・・・・シオン坊の事は、あたし以外誰も知りやしないよ。 口が裂けても、あんな酷い話、言えやしないやね。 出来るだけ、シオン坊の為になりそうなもん、もってってやるから、あんた、シオン坊のこと、頼むよ」
「あぁ、それだけは絶対大丈夫だって。俺に任せときゃ、何の心配もねぇぜ」
「その調子の良さが、なーんだか不安なんだよ。ホントに頼むからね」
「おう」

 ほんとに頼むよ、と繰り返しながら去っていく女将の姿を見送った後、 その方向へ向かって深く頭を下げた。

「・・・・・ごめんよ、おばさん。一番悪いのは、この俺なんだ・・・」



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