LOVE is the sin..
chapter 8
side of saizoh


シオンの家に戻ると、手伝いのために呼んだ連星竜が、慌てて奥から出てきた。

「サイゾウ様! シオン様が・・・!」
「・・・!? どうした!?」
「先ほどから、ずっと泣いておられて。私ではどうすることも出来ず、お帰りを待っておりました」
「分かった。連星竜、これ、煎じてやってくれ。気持ちが落ち着くんだとよ」
「はい。分かりました」

 連星竜に薬草を渡すと、慌ててシオンの自室へ向かった。
 ノックをしても返事はない。そっとドアを開けると、薄暗い部屋の奥にシオンのベッドが見えた。 その中で俯せになって、枕に顔を埋めた格好のシオンの肩が、震えている。
 驚かさないようにそっと近くによると、優しく声をかけた。

「シオン・・」
「・・・・・っ・・・・うっ・・・・っうっ・・・・・う・・・・・・・」

 声を押し殺した泣き声が痛々しい。思いっ切り抱き寄せたいのを、シオンが怯えてはいけないから、 と必死で抑え、そっと布団の上から背中を撫でる。

「シオン・・・」
「・・・う・・・あっ・・・あぁ・・・・わぁああぁぁぁあぁっ!」

 俺の手の暖かさが、シオンの気を緩めたらしい。枕を掻き抱くようにして、シオンは声を放って泣いた。
 そんな痛々しい姿に、俺は、こらえきれなくなって、そのシオンの肩を後ろから抱き寄せる。

「シオン。もう、大丈夫なんだぞ。な? 分かるか? 俺が、ちゃんとここにいてやるから。 ずっといてやるから。だから、何も怖い事なんて、ないんだぞ」

 腕の中で、シオンが躰をひねって俺にしがみついてきた。 俺は、その躰を包み込むように、腕の中に納め、髪や背中を優しく撫でた。

「大丈夫だ。もう、怖くない。な? 大丈夫だぞ」

 優しく何度も繰り返して言い聞かせる。
 長い時間をかけて、やっと落ちついたシオンが、徐々にしゃくり上げる間隔を開けていく。 やがて、静かに涙を流すだけになり、しがみついていた腕からも力が抜けた。
 その手を取って、優しく撫でながら、あやすように背中を軽く叩いてやる。

「シオン・・・」
「・・サイ・・・・ゾ・・ぉ・・・・」

 か細く俺を呼ぶ声が、俺をいっそうつらくした。 それでも、俺までが暗い顔をしては、逆にシオンに不安を与えるだけになる。
 そっと微笑んで、優しく聞いた。

「何だ?」
「・・・・・サイゾウ・・・・」
「うん?」
「・・・・・・・っ・・・・」

 二、三度しゃくり上げると、シオンは、それ以上何も言わず、俺の胸に顔を埋めていた。

「シオン・・・?」
 じっとして動かなくなったシオンが、不意に心配になる。 それを表に出さずに、出来うる限り優しい口調でその様子をうかがった。
 そっとシオンが顔を上げる。涙に濡れた瞳で、じっと俺を見つめた。

「サイゾウ・・・・」
「ん?」
「・・いるか?」
「あぁ。ちゃんといるぞ」
「・・・・うん・・いる・・」

 どこかおかしなシオンの受け答えが、俺に話しかけたごく普通の会話ではなく、 『サイゾウ』という存在の確認であることに気付くのに、少し時間がかかった。
 シオンの心はまだ、完全に自らの殻の外へ抜け出しきっていないのだ。
 シオンは、また俺の胸に耳を戻した。このままこうしていてくれ、というように、じっとしている。 それに応えて、優しく腕の中に包んだまま、じっとしていた。
 静かに、場の空気を乱さない調子で、連星竜が入ってきた。

「シオン様。薬湯です」
「貸せ」

 差し出した茶碗を、シオンではなく俺が受け取った。
 熱くないかどうかを、ちょっと口に含んでみて、確認する。
 連星竜の配慮は、当然の事ながら完璧に行き届いていた。 口に含むのに、熱くもなくぬるくもない、適温の状態に準備されている。

「飲んでみな。落ち着くぞ」

 腕の中のシオンをのぞき込むようにして、そっと茶碗を手渡してやる。 すっかり俺の腕の中に収まっているシオンは、それを両手で受け取り、そっと口に運んだ。

「ありがとう」

 ゆっくりと薬湯を飲み干したシオンは、茶碗を連星竜に差し出す。
 連星竜は、静かに受け取り優しく訊いた。

「何か召し上がりたいものは、ございませんか?」

 シオンは黙って首を振る。
 連星竜は、シオンに一礼し、俺に一礼すると、静かに出ていく。
 その後、長い間シオンは俺の腕の中で、じっとしていた。やがて、静かに寝息を立て始める。
 俺は、涙の跡をそっと拭ってやってから、ベッドに寝かせた。
 穏やかな寝顔だった。俺の腕の中で、本当に安心して眠ったらしい。
 その、弱々しさが、俺を息苦しくした。

 こんな苦しみを、シオンに与えたのは自分だ。

 俺は、それ以上シオンの姿を見ていることが出来なくなり、部屋を出た。

「サイゾウ様・・」
「ちょっと外の空気吸ってくる。何かあったらすぐ呼べよ」
「はっ・・」

 連星竜も察しているらしく、深くは追求してこない。
 部下にまで気を遣わせるようじゃ、俺もずいぶん焼きが廻ったな・・・。
 自嘲的な笑いを喉の奥に残して、外へ出た。

 どこへ行くわけでもない。ただシオンの側にいるのが辛かっただけだ。 ぶらぶらと無意味にその辺りを徘徊する。
 来た頃には目立ってしかたなかったこのガタイも、今ではすっかり馴染まれた。
 自分では、俺という存在は、端から見たらかなり怪しいのではないかと思うのだが、 町の人達はみんな、シオンの ”怪我” のことを心配げに訊いてくるだけである。

 いつ来ても、ヴァドは、異質のものを排斥しようという性格のない、大らかな町だ。 シオンがこの町に生まれて、本当に良かったと、ずっと思っていた。
 だが、あんなことがあった町で、シオンはこれから心穏やかに暮らしていけるのだろうか?
 こんなに環境の良い場所から、シオンは自らを追いだしてしまうのではないだろうか?
 全て俺のせいで・・・・。

 その時、俺は自分の躰の異変に気付いた。町の入り口あたりで声をかけてきた主婦に適当な返答をすると、 不自然さを感じさせない程度に急いで町を出た。



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