翠玉の檻
〜Emerald Prison〜
[6]
−夢魔−
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少年の大きな瞳は、限界まで見開かれていた。
呼吸すら失った少年の強ばった内側は、きつく硬い。
何の潤滑剤も介さない行為はシュウを拒み、容易にはその侵蝕を許さない。
だが、それに伴う痛みを無視して、シュウは、健康的な太腿を引き寄せ、更に奥へと少年の身体を貫いた。
「……ぁ……ぁ…っ!」
掠れた呻きが、薄く開かれた唇からこぼれ落ちる。
意志とは関係ない、生理的な涙が、青ざめた頬を滑り落ちた。
完全に自らの征服下におさめられた夢魔の姿に、シュウは満足の笑みを漏らす。
「本番は…これからですよ」
開かせた脚を肩の上に担ぎ上げ、細い腰を掴む。
「…ゃ……シュ……!」
声すらも失う衝撃の中で、唇を震わせ、消え入りそうなほどに弱々しい声で必死に訴える。
シュウは、微かに口元をほころばせた、清冽な笑みのまま、その声を黙殺した。
「──────ッッ!!!!」
少年のわずかな希望を踏みにじり、その華奢な身体を打ち壊すような勢いで。
「や…あ…ぁ…ッ! あぁ…うあぁっ! あ…ああぁぁっ!」
シュウは、少年を暴行した。
自らの感情を弄んだことへの憎悪と。
弄ばれ、煽られた劣情と。
今まで蓄積してきた全ての激情を、目の前の身体に叩き付ける。
「貴方は、私がこうすることを望んでいたのでしょう?
どうです? これで満足ですか?」
「あああっ!! や…やぁ…ッ! シュウ…っ!
ああああぁぁぁっ!」
シーツを掻き声を枯らして泣き叫ぶ身体と、決して安くないはずのスプリングを、激しく軋ませる。
強引な交合に裂け赤く染まった恥孔を、容赦なく突き上げ、剔る。
傷で濡れ、滑らかさを得た抽挿は、徐々にシュウの脳裏に心地良い痺れをもたらし始めた。
「貴方は…、本当に…都合の良い代替品です…ね…」
「……ひ…ぃぁ…っ!!」
壊すほどに激しく突き上げる。
瞬間、激痛にすくんだ少年の内側に強く締め付けられ、シュウはその刺激のままに一度目の精を吐く。
「………………」
身の内に何も残らないほどの欲を吐き出して、代わりに心地良い脱力感が、身を包んでいる。
シュウはわずかに乱れた呼吸を鎮めながら、組み敷いた身体から自身を退いた。
そっと視線を、少年の顔に向ける。
そこにあるのは、自らの心を占めて已まない、何よりも愛しい人と同じ顔。
敢えて見まいとしていた、愛しい人の顔。
その頬は青ざめ、瞳は涙に濡れていた。
呆然と虚空を見つめる、その姿を見ても、シュウの心は動かない。
如何に、同じ顔であろうとも、目の前の者は虚構でしかないのだ。
あの人自身であったならば、もっと大切に、労り、慈しみ、優しく抱いた。
こぼれる涙は、一粒残らず拭い取ってあげた。
自分の抱く、全ての想いを伝えるほどに、愛して、愛して、愛して…。
確かに、胸の内側に凝り、自らを苦しめていたもの全てを、吐き出した。
だが、それ故に、また新たな凝固が胸に重くのし掛かる。
虚構を抱いてしまった虚しさ。
本当に抱き締めたい人は、ここにはいないという虚無感。
「一体…貴方はどこまで私を苛立たせるのです…?」
せめてもう一度、この身体を痛めつけてやらなければ、気が済まない。
否…。
果たして、それで何かが変わるのだろうか?
ただ、虚しさを味わい続けるだけではないのだろうか?
こんな、無意味なことを、いつまでも繰り返すと…?
「……ぜってぇに…許さねえっ!!」
「………………っ」
不意に聞こえた嗄れた声に、シュウは、少年に視線を走らせる。
シュウの視線を受け止めたのは、怒りに染まった激しい双眸。
その攻撃的な光は、未だ負けを認めていない者のそれだった。
シュウの胸に、一度は治まりかけた憎悪が、ちり、とくすぶる。
「………ほう…、それで?
私をどうするつもりです?」
「こう…してやる…っ!」
這いずるように身を起こした少年は、全身が軋むのも構わずシュウに殴りかかった。
だが。
「そのように緩慢な動きでは、蚊も討てませんよ」
明らかにその拳のキレは鈍い。
涼しげに身を翻したシュウは、逆にその身体を突き飛ばす。
「く…っ! ち…くしょ…ッ!」
少年は、なおも身を跳ね起こそうとする。
シュウは、あれほどに痛めつけても尚、屈しようとしない態度に、強い苛立ちを覚えた。
「……随分と血の気が有り余っているようですね。
良いでしょう…。貴方が私の前に膝を折るまで、付き合って差し上げますよ」
「…んだと…っ! 誰が…てめぇなんかに…っ!」
シュウが押し伏せようとのばした手を、少年は荒々しく跳ね退ける。
瞬間、シュウの中で、激情が弾けた。
「私に従いなさい!!」
声を荒らげ、少年の頬を激しく張り飛ばす。
その野蛮な行為に瞠目する少年の後頭部に手を回し、引きちぎりそうな勢いで新緑色の髪を掴む。
髪を引き据えて、無理矢理に上げさせた顔を睨み付ける。
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1996
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