ラウラの詩
〜後編・3/6〜
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まるで俺がここにいるのを確かめるように、丁寧に肩や背中を撫でていた手が、
そっと頭を胸の中に抱き寄せる。
「さっきは……、シュウのもとに残るとでも、言い出すかと思ったぞ。
あまり気を揉ませるな」
静かな、穏やかな声が聞こえた。
きっとあの時も、俺はヤンロンを傷付けたんだろうな。
でも謝って、また哀しそうにされるのは嫌だったから、ただ一つ頷くだけにした。
ほんの少しの沈黙の後、聞こえるか聞こえないかの、さっきよりももっと小さな、
呟くような声が聞こえた。
「……すまない…もう少し、
明るい顔をさせてやれると思ったんだが…」
自分自身を責めるようなその言葉にどんなふうに応えたらいいのか分からなくて、
俺は聞こえなかったふりをして黙って俯いていた。
短い会話が途切れたその後も、ヤンロンはずっと俺の肩や頭を撫でていてくれた。
その手の暖かさが心地よくて、何だか俺の全ての緊張が解けていくような感じがした。
あれからどれくらい経っただろう?
随分経ったような気がするんだけど、ヤンロンは動く様子がない。
もしかしてヤンロン、ここから離れたくないのかな?
って、そんな訳ないか。
でも、そんな馬鹿なことを考えてしまうくらい、ヤンロンはずっと俺を膝の上に抱いている。
頭の上をたくさんの枝と葉に覆われているせいもあってか、周りが少し薄暗くなってきていた。
多分日が暮れるにはまだ時間があるんだろうけど。
でも、それほどに長い時間を、俺はヤンロンの膝の上で過ごした。
本当に、ヤンロンはこれからどうするつもりなんだろう?
さすがに気になってきた。
ヤンロンの胸に埋もれるほど委ねきっていた身体を、少しだけ起こしてヤンロンの顔を仰いだ。
そこで、ようやく異変に気付く。
「……え…? ヤンロン…?」
そこに、ヤンロンはいなかった。
いつの間にか、俺は一人きりで木の根元にうずくまっていた。
俺、いつの間にか眠っちまって、ヤンロンがどこかに行ったのに気付かなかったのかな?
それにしたって黙っていっちまうなんて、ひどいんじゃないか?
きっとヤンロンは、俺を起こさないように気を遣ってくれたんだろうけど。
でも…あれ?
何か…。
変…だよな?
いつの間にか、周りが真っ暗になってる?
……ヤンロン?
どこまで行っちまったんだ?
早く戻ってきてくれよ。
…ヤンロン…。
もしかして、俺…ヤンロンとはぐれちまったのか?
何だろう?
よくは…分からないけど…。
きっとこのまま待ってたんじゃいけない。
ヤンロンを捜さなきゃ。
そう思って、踏み出したときだった。
いきなり後ろから腕を掴まれた。
「…行かないで下さい、マサキ」
て…、え? シュウ?
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