「大丈夫ですか?」
彼が心配そうに私の髪を撫でる。
そうしてくれていると、泣きたくなるくらい安心出来る。
「大丈夫よ」
久し振りの長時間の移動だった所為か、気分が悪いのが中々治まらなくて心配させてしまったわ。
「ママ、びょうき?」
4歳になる息子まで彼の真似をして私の髪を撫でようとする。
「違うわ。疲れただけよ、多分」
息子の額にキスをして安心させる。
「ママを少し寝かせてあげましょうね」
彼がそう言って息子を抱き上げた。
「ごめんね」
静かに横になると、瞼の裏に浮かぶのはあの人の最期の顔。
交通事故だと言うのに綺麗な死に顔だった。
眠っている顔なんて見た事無かったから、死んでいるのか眠っているのか判らないくらいだったわ。
亡くなってもう1ヶ月以上経つと言うのに、まだ悲しいなんて・・・
突然だったからショックだったのかしら?
「大人しく寝てくれましたよ」
息子を寝かしつけた彼が私の傍に戻って来てくれるまで、私は少し眠ってしまったようだった。
「明日、病院に行きましょう」
そんな大袈裟だわ。
「ちゃんと見て貰って来て下さいね。産婦人科で」
怪訝な顔をした私に彼が告げた言葉に、私はハッとする。
そう言えば・・・忘れてたけど。
「慌しかったので、私もうっかりしていましたが、多分間違いないと思いますよ」
私の眼にはジワリと涙が浮かんできた。
「皐・・・」
彼に腕を伸ばせば、彼は私を優しく抱きしめてくれた。
「何れにしても、子供が増えるのですし、クリフォード家の資産を我々が買い取っても構わないと思いませんか?」
そうね、海外の不動産なんて、和晴や靖治には邪魔になるだけですもの。
「そして、株ですが、それも適正な価格で買い取らせて頂きましょう」
彼の言葉に私はただ黙って頷く。
優しく微笑んでくれる彼は、私の頬に流れる涙をそっと拭ってくれた。
「次はあなたに似た女の子が良いですね」
「・・・次こそ、あなたに似た男の子が欲しいわ」
ジュニアは私に似ているから。
それとも、あの人に似ているのかしら?
そしてこのお腹の中の子供は?
あの人の生まれ変わりと言う訳ではないでしょうけれど、それでも待ち遠しい、私達の子供。
元気に生まれて来てね。
パパとママがあなた達の為に、素晴らしい未来を用意して待っているから。
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