それに気付いたのは角を曲がる為に一時停止をしていてサイドミラーをチラリと見た時だった。 彼女が門の前にまだ立っていた。 もしかして、オレを見送ってくれてるとか? もしかして、名残惜しいと思ってくれてるとか? もしかして、昨日もそうしてくれてたとか? オレは思い上がってもいいんだろうか? オレは震えそうになりながらハザードランプを点滅させた。 取り敢えず1回だけ。 5回はマズイっしょ。 多分、絶対彼女は知らないし。 つーか、知ってても引くよな〜。 イマドキ、ってコンパで女達が言ってたし。 ああ!クソッ! 今すぐ戻って思いっきり抱き締めたい!キスしたい!ヤリたい! 車の中に残る快楽の残り香にも刺激されてオレはイラついていた。 昨日の今日でヤるほどオレは鬼畜じゃないなんて自分で言っておきながらガマン出来ずにヤッちまうなんて! オレはアホでバカでサイテーだ! でも、彼女は抵抗しなかった。 いや、最初の内は驚いてたみてーだけど、激しく抵抗したりはしなかった。 それって、オレとするのがイヤじゃない、ってコトだよな? 今日だって車まで来てくれたし。 「もう会わない方がいい」と言われてオレは「これで終わらせるつもりはネェ」って言ったけど、彼女は婿取りする気満々のようだし。 オレとの事は遊びだと割り切ってるのか? 実際、弟はオレより彼女と年が近いし婿養子にはお勧めの物件かもしれない。 真面目で丈夫で素直で優しいヤツだかんな。 ただ、ヤツには片思いでも好きな女がいるってトコがネックかな? こないだは突き放しちまったけど、弟がどんなつもりでいるのかよく聞いとかないと。 昨日の今日で見合い話が進む訳ねぇと思って・・・ホントは怖くて・・・聞けなかったけど、彼女に見合いを断る気がないならコッチから断らせるべきだよな。 「ノブ、こないだ言ってた見合いってどーなってんだ?」 オレは食事をしている弟の向かいに座って夕飯を食いながらさり気なさを装って聞いた。 弟は少し驚いたような顔をしてからムスっとした顔をする。 「兄貴には関係ない話なんじゃなかったのか?」 スネんなよ。 「や、相手の名前も聞いてなかったなと思って・・・写真とか釣書きとかゆーヤツ貰ってんの?」 写真があるならゼヒ欲しいトコだ。 「・・・一応、貰ったけど・・・でも、兄貴には関係ないんだろ?」 だから、スネんなって! 「ふ〜ん、じゃオマエは長年の片思いの相手を諦めて見合いする気なんだ?」 弟の言い分は無視して勝手に話を進める。 案の定、弟はオレの言葉にオレを睨みつけていた視線を逸らせてボソっと呟いた。 「・・・関係ないだろ」 へっ、かーいーね。 まだ諦めてねーだろ?その分じゃ。 ま、ね、そのっくらいの根性がなくっちゃ、こっちもやりヅレーしな。 「おや?折角おにーさまが可愛い弟の為に骨を折る気になったっつーのに、それを断ると?」 弟はオレの言葉に驚いていたけど疑わしそうに聞いてくる。 「・・・どういう風の吹きまわし?」 まぁ、それもご尤もなご意見だ。 何しろ、こないだはケンもホロロに言っちまったからなぁ。 「や、相手が気になってな。写真と釣書きがあるなら見せろよ」 弟はオレよりガタイがデカく育っちまってるが、小さい頃からのトラウマか基本的にオレに従順だ。 何しろオレに逆らうと正義と躾の鉄拳を何度も食らって来てるからなぁ。 もちろん、オレ以外のヤツからの鉄拳にはオレが相応の報復をしてやったし。 アメとムチは使い分けが大切だ。 「ふ〜ん、やっぱりね」 オレは弟が見せてくれた見合い写真と釣書きにそう言って頷いて見せた。 釣書きなんぞはチラリと見ただけで、後は写真に釘付けだ。 正月に着たらしい振り袖姿の彼女はそりゃもうキレイなんてモンじゃなかった。 表情はいつもの真面目でニコリともしていない顔だったが、スーッと真っ直ぐに背筋を伸ばして立っている姿はとても高校生とは思えないほど大人びて見えた。 長い髪を結い上げて細い項を露わにして・・・アソコに何度も舌を這わせたよな。 小さな耳元で囁くとくすぐったそうにするんだよな。 あ、ヤバくなってきそう。 「兄貴その子の事知ってるの?」 弟はオレの溢した呟きに、オレと彼女が昨日と今日ナニをしたのか、ホントのコトをコイツに教えたらどんな反応をするだろうと思いながら苦笑した。 「オマエは知らないのか?」 「え?旧家の資産家の娘ってだけじゃないの?」 なるほど、コイツは何も聞かされていないのか。 知らないなら・・・知らないままの方がいいだろうな。 「コイツはオレが預かっとく。親父にはオレから話といてやるから安心しな」 そう言ってオレは弟から彼女の写真を取り上げた。 絶対、手放すもんか! 貴重な彼女の写真なんだからな! 親父は現在、海外出張中で戻るのは週末らしい。 話し合うなら早いに越したコトはないんだが、オレはチョットだけホッとした。 アイツと話すのは正直苦手だ。 それよりも、この戦利品! オレは自分の部屋に戻って鍵を掛けてから、ヒシッと彼女の写真を抱きしめた。 だって、彼女ってば写メも撮らせてくんねーし、いつも無愛想だし・・・いや、この写真だって決して愛想がいいとは言えないが。 どーせ写メ撮るならイッた時の顔とか撮りたいトコだが、それをやっちゃ嫌われそーだしな。 枕の下に敷いたら彼女の夢が見られるか? いやいや、硬い台紙に覆われているとはいえ、潰れでもしたらどーすんだ! 取り敢えず、この写真の写メを撮って大切に保存する。 オリジナルは部屋に飾りたいトコだが、さすがにソレはマズいだろ。 「葵・・・」 オレは写真を抱き締めながら彼女の名前を小さく洩らす様に呟くと、思わず切なくなって溜息が出た。 どーしてオレの弟と見合いなんてすんだよ。 跡取り娘だから婿養子になってくれるヤツじゃないとダメなワケ? オレが婿養子になるって言ったら喜んでくれっかな? それともチャラいからダメとか? 成島の家は弟が言った通り、旧家で資産家だ。 歴史のある古い家柄とそれを十分に維持できる資産を持っている。 確かこの不況下でも潰れそうにない会社を持っていたはず。 更に盤石にする為に優秀な娘婿が欲しーんだろうな。 彼女の母親も婿養子を貰ってるし、従弟だと聞いてるけど。 婿養子かぁ・・・優秀さに関しては自信がない訳じゃないが・・・ 婿養子ねぇ・・・ 正直な話、オレが法学部に進んだのは『親父の跡取り』の役割から逃れるためと将来への有望な選択肢の一つとして選んだんだが、司法試験はかなりマジで受かりたいと思っているのも事実。 司法関係の仕事は遣り甲斐があると思うし、興味も尽きない。 現行の司法試験が実施されるのは再来年まで、平均合格者年齢が29歳の司法試験に現役で合格なんぞ夢のまた夢だ。 新司法試験では予備試験ってのもあるけど法科大学院に最低2年は通わねぇと司法試験も受けられなくなる。 がぁー!司法制度改革のバカヤロー! まぁ、運よく司法試験に合格したとしても司法修習とやらが1年半もある。 更に検察官を目指すなら任官されてからもドサ周りが何年も続く。 旧家の跡取り娘にそんなの耐えられるか? つーか、検察官や弁護士になるっつった時点で婿養子候補から外されるわな。 法曹界への道をすっきりきっぱり諦めて婿養子になれるのか?オレ。 彼女の意志は固そうだからな〜『家の跡を継ぐべく育てられました』とか言っちゃってるし。 幼い頃から刷り込まれてりゃ翻させんのは難しいか。 彼女を諦められんのか?オレ。 第一に親父が何も言わずにオレに司法試験を受けさせてくれんのか? 弟が言うには『跡取りとして期待』してるみたいなコト匂わせてるし。 司法試験の合格を目指すにゃ、この先カネが掛かっかしなぁ・・・ そりゃ、働きながらって手もあるけどさ、実際そうすっと試験に合格するのはますます難しくなるばかりらしいし。 諦めたくない、何もかも。 ホントは検察官を目指したい。 彼女とも別れたくない。 弟なんかと見合いなんてさせたくない。 まだ学生で何もかも中途半端なオレには何も手にする事が出来ないのか? それでも・・・それでも諦めたくない! 「葵・・・」 オレはそっと彼女の名前を囁いて、抱きしめている写真の台紙にそっと口づけた。 写真にキスなんて出来ないだろ?汚れしちまいそうで。 オレは今のオレに出来るベストを尽くしてみる。 オレの為にも、オマエを諦めない為にも。 次の日も彼女はオレの呼び出しに応じてくれた。 昨日といい期待してもいいんだろうか? オレのコトが少しでも気に入ってくれているからだと。 何も言わずにホテルに乗りつけても何にも言わない。 部屋に入るなり抱きついても抵抗しない。 遊びだから? 気持ちイイコトしたいから? それだけじゃないよな? 「葵・・・キスして」 ホラ、オレのお願いを聞いてくれてるじゃん。 キスっつっただけなのに舌を絡ませる濃厚なヤツを仕掛けて来てくれてるし。 もちろん、それに応えないオレじゃないけどさ。 「あ・・・っ、はぁっ」 オレの腕の中で熱くなっていく柔らかい女の身体。 彼女と一緒に居る時は全てを忘れてその行為だけに熱中したい。 胸に武者ぶりついて、指で蜜を溢れさせて、舌でイカせて。 気持ちヨクさせたげるから、オレに夢中になって。 「ああっ・・・っくっ」 ああ・・・なんて可愛いんだ。 サイコーだよ。 絶対に手放したくない。 彼女をオレだけのものにしたい。 「葵、イイ?」 イッてぼんやりとしている彼女に尋ねると、コクンと頷いてくれた。 そして痛がる素振りも見せずに突きあげるオレに合わせて身体を揺らす。 「あっ・・・はぁん・・・あん」 声が聞きたいとオレが前に言ったから聞かせてくれんの? 今日は手で口を抑えたりはしないんだ? 嬉しいよ。 「葵・・・」 好きだ!大好き!愛してる! 絶対、誰にも渡さない! オマエの為なら何でもする! それを証明する為に今すぐ死んでもいいくらい! オレは行為に熱中するあまり、髪を振り乱して汗を撒き散らしメチャクチャな事を考えてた。 「んなコト、出来るワケねーのに」 ゴムの始末をしながらオレはボソリと小さく呟いた。 いや、マジでオレってサイテーですか? こんなに醒めちまうなんてさ。 でも、心の中で熱はまだ燻ぶり続けているようで、シャワーを浴びなきゃと思いつつもオレに背中を向けて横たわる彼女に後ろから抱きついて身体を擦り寄せる。 「葵・・・」 好きなのはホントだよ。 こんなに女を好きになんかなったコトなんてないんだぜ。 だからなのかな? ホントにどうしていいのか判らない。 オマエの幸せを願えば、オレなんて消えてなくなった方がイイに決まってる。 オマエが望むようにはしてやれないんだから。 それでも、そんなコト出来やしないんだ。 オマエの前から消えるコトなんて絶対に出来ない。 それより、もっともっとオマエにオレを刻みつけたいと思ってんだから。 彼女の全身を撫で回す様に手を滑らせて、まだ少し弛緩している場所にオレの思いと同じように猛るモノを宛がう。 「もっかい、イイ?」 オレの誘いに彼女は何も応えないが、抵抗のないのが返事だと思う事にする。 再びゴムを装着しながら、ふと、このままヤッちまって出来ちまったら・・・と思う。 いや、ダメだ! 彼女はまだ高校生だし、イイトコのお嬢さんがとんだ醜聞だ。 でも、弟だけじゃなく他の縁談だって断れる。 そしてオレと一緒になってくれるかも? いやいや、彼女のコトだからオレとはきっぱり縁を切って子供を堕ろすか? 子供は好きそうだが・・・まだ小さそうな妹にあんなに優しくしてたし。 好きだからこそ、オレはいらなくて子供だけでイイとか言い出しそうだけどな。 とにかく、今はまだそんな彼女にとってのリスクが大き過ぎる事はさせられないけどさ。 「こっち向いて、葵」 仰向かせた彼女に覆い被さったオレに彼女が腕を回してくる。 その積極的にも見える行動にオレは思わずドキッとする。 誘いを掛けたのはコッチなのに、誘われたような気分になる。 なんて色っぽい顔してんだよ。 ダルそうだから優しくしようとしてんのに激しくしちまいそうだぜ。 「っく・・・」 「や・・・やぁっ・・・んん、っあっ」 ッ、クッソ!オレの腰もガタガタになりそ。 でも、止めらんねぇし止めたくねぇ・・・気持ち良過ぎて。 「葵・・・」 お願いだから、オレのコト好きになって。 快感だけでもいいから、絶対離さないで。 オマエに溺れてるオレのコト、愛してくれないか。 オレは彼女の答えが怖くて口に出せない願いをキスで閉じ込めた。 彼女のコトだから『結婚するまでの関係です』とか『何れ忘れてしまいます』とか言いそうで。 コワイよな、ホント。 だからコンナコトまでしててもいえねーんだよなぁ。 ははっ、どんだけチキンなんだ、オレ。 「明日は?」 帰りの車で尋ねると、さすがに4連チャンは無理らしく断られた。 明後日はオレが無理だし、週末はご家族で過ごすお嬢様とは週明けか。 週末は親父が帰ってくるしな。 「んじゃ、月曜に」 オレはそう言って彼女を家の前で降ろした。 ああ、今日で1週間経ったのか。 彼女と出会ってから。 まだ1週間なのか、もう1週間なのか。 早いようで短い1週間だったが、後悔するようなコトはしてないつもりだ。 チラチラとバックミラーで何度も確認すれば、昨日と同じように彼女は家の前でずっと立っている。 オレの車がウィンカーを出しても、まだ。 オレはハザードランプを今度も一度だけ点滅させた。 ホントになんてかーいーヤツなんだ。 オレがギヤをリバースに切り替えないようにすんのにどんだけガマンしたと思ってんの? オレは親父とちゃんと向き合って話をしなくてはと思った。 そんな気持ちになったのは、初めて会ったあの時以来だったのかもしれない。 「話があんだけど、今イイ?」 オレは週末、親父の書斎に顔を出して切り出した。 ココに来るのも随分と久し振りだ。 ええっと・・・車をねだって以来か? 「構わんが」 親父はオレの手にしている写真を見て眉を顰めた。 無理もない、オレが知らないはずの弟の見合い相手の写真を持っていては。 「どーしてコレがオレをすっ飛ばしてノブんトコに話が来たのか知りたくてね」 オレは見合い写真をヒラヒラと振って見せた。 そう、順番で言えばオレんトコに来たっておかしい話じゃない。 年だって離れ過ぎてる訳じゃないんだから。 婿養子にと望まれてるにしたって、オレは後継ぎだと言われた訳じゃないんだ。 親父に何の意図があるのか知らないけど、この話は突っ込み処がある。 「お前が婿養子になれるのか?法曹界を目指してるんじゃないのか?」 いや、彼女の為ならちっとはその決意もグラつきますけどね、それにしても。 「息子の望みを聞く気があるなら、ノブだって教師になりたがってんだぜ」 オレの進路についても反対する気がなさそうなのにも驚きだが。 「靖治は私の言う事に従うだろう。お前とは違って」 親父はそう言って笑った。 あらら、見透かされてっぞノブ。 確かに弟は親父に言われて悩んでた、初めて親父から期待されたと言って。 片思いでも好きな女が居るのにそれを諦めようとしてまで。 「ただ相手の家に入って繋がりを持つだけでは駄目だ。向こうに行った後でも私の意思を通せる者でなくてはな」 おいおい、アンタはノブを傀儡にするつもりなのか? 成島と縁を繋ぐだけじゃなくて乗っ取るつもりなのか? ふざけんじゃねーぞ!オレは猛烈に腹が立って来た。 「ノブはもう子供じゃないんだぜ」 そりゃ気が弱いトコや押しに弱いトコは未だにあるが、いつまでも親父の言う事を聞く様な・・・気がしないでもない。 上からの命令は絶対だと信じてるからな、妙なトラウマ抱えてっし。 こりゃ、小さい頃にオレがガツンガツン厳しく言い過ぎた所為なのか? 「それでもお前よりはマシだ。お前なら喜んで私に逆らって相手の家の為だけに働こうとするだろう」 こりゃまたお見通しですか。 見合い話を弟からオレに切り替えんのは無理か。 「へぇ〜そう?果たしてそうかな?でも、ノブにこの話はオレの為にもなるって言ったのはなんでだ?」 跡を継がせる気が無さそうなら尚更気になるね。 「お前は私に反発心があるにしても優秀だ。抱え込むには危険だが、法律に明るい者が身内に一人いても不便にはなるまい?」 おや、随分と評価していただけてるようで驚きました。 「私は出資した金をドブに捨てるつもりはない。お前も靖治も役に立って貰わねば困る。日本の司法試験に合格するには多大な時間と金が掛かる。お前は嫌いな父親の金で弟の犠牲のもとに望みの物を手に入れられるんだ」 あはは、クソ親父。 なんだソレ。 「オレの望みがナンだか知ってんの?」 オレは言葉に怒りが含まれているのをもう隠そうともしなかった。 「検察官を経て弁護士になるのは悪くない。人脈も出来るしな」 親父はオレも見ずに呟く様にそう言った。 へっ、お見通しですか? だがな! 「そう思い通りいくもんかね?」 オレはそう言い返すのが精一杯だった。 悔しい事に。 だが、親父はもうオレを見もしないで手元の書類を見ていた。 内心では尻尾を巻いていても虚勢を張って退散しようとするオレに更に追い打ちが掛かる。 「写真は置いていけ。靖治がどうしても嫌がるなら別口に回す」 「別口?」 「私の息子はお前達だけじゃないからな」 あ〜あの認知したとかいうもう一人か? 年は確か・・・ゲッ!葵と同じジャン。 サイアク! オレは葵の見合い写真をビリビリに引き裂いてやった。 例え写真だろうと誰にも渡したくない。 「オレ達はアンタの道具じゃない」 こんなセリフしか言えないなんて。 情けない。 義務と責任と言われた時よりもっとヒデェぜ。 投資とはな。 高校を・・・いや、中学を出たらすぐにこの家を出て働くべきだったのか? 弟と妹を連れて? いや、無理だな。 それまで少しでも贅沢に慣れたオレ達にいきなりカツカツの生活をしろと言われても無理だろう。 確かに死ぬ気で働けば何とかなったかもしれないが、身寄りのない未成年の子供達だけで生きていくのは難しい。 ましてや弟や妹はすっかりお坊ちゃまにお嬢様が身に付いちまった、そーゆーオレだって。 妹は未だに料理も出来やしねぇし、オレや弟はバイトもした事がねぇ。 そんなんで今更この生活を抜け出して生きていくのは成人した今のオレですら難しいのが判ってる。 それに何より・・・この家を出ていたら彼女に逢えていない。 彼女に出会えただけで今までのここでの生活が無駄ではなかったと思える。 それがどんなに屈辱的で恥辱的でも。 そう、絶対に見つけ出して見せる。 オレが望みを叶えて、彼女と一緒に居られる方法を。 サイアク、駆け落ちか? 彼女には妹もいるし・・・って無理っぽいけどな。 腹ませんのもなぁ・・・サイアクだし。 唯一の希望は彼女がまだ高校生で、婚約はともかく結婚となったら最低でもあと2年近くあるってコトだ。 その間に何とかすれば・・・希望は捨てられない。 まずは何より彼女にオレを好きになって貰わないと。 望みが捨てられないのは期待出来そうだから。 オレを見送ってくれた彼女がオレを少しでも好きなんじゃないかと信じたいから。 希望は捨てない。 親父がオレ達を道具扱いするなら逆にそれを利用してやる。 株は下落する事もあるんだぜ。 投資は必ずしも成功するとは限らないのはよく知ってるだろう? まずは月曜日の約束だ。 頻繁に逢ってオレの事を考える時間を増やして貰おう。 弟にも発破を掛けて上手く行かせないと。 女の口説き方を教えて・・・オレに教えられんのか?口説いたコトないのに? いや、女は金を掛ければ上手くいく筈だ。多分。 プレゼントを喜ばない女はいない、と思うし。 彼女にもナンカやっとくべきか? 親父の金を遣うのに今更抵抗してもバカらしいが、しかしナニ喜ぶんだ? 彼女も金には不自由してないしなぁ。 あー!恋愛スキルが低過ぎるオレ! カラオケデートも失敗したし、ヤッてるだけってどうよ? でも彼女が今までの中で一番喜んでくれてるっぽいのがアレだしなぁ。 情けない話だが。 いや、自信を持っていいのか? とにかく、月曜だ。 車で待つだけじゃなく、迎えに行ってやろう。 そして思いっきり感じさせてやる! あと、2年。いや、1年10ヶ月の内に必ず結果を出して進展させてやる! |
今度こそやっと・・・「未来予想図」に繋がった・・・いや、繋がらせた。 ちょっと強引過ぎるかな、焦っているかな、私。 和晴に色々と悩んで貰いました。 21でアソコに通っていればそれなりに持っている筈のビジョン。 女を取るか?将来を取るか? どちらかを諦める様な事はして欲しくない。 それこその現代版ですから。 父親は出番が増えたにも拘らずまだ名無し。 和晴なんぞよりも更に役者が上です。 大企業になればなるほど今の時代、同族経営は難しいし、それよりも望む方向で才能を伸ばした方が無理がない。 アレでは王子様でしたから跡を継いで貰いましたが、今回はその枷が無くなったので気侭に色々考えられて嬉しい。 それにしても新司法試験制度については色々と聞きかじっていましたが、ホントにギリギリセーフな感じ。 来年は無理にしても再来年がラストチャンス。頑張れ!和晴! 検察官になるには司法修習中の成績上位でないと希望しても無理だそうです。 ドサ周りは最低でも5年以上だしね。 結婚なんて出来んのかぁ? 今回は周りを色々と出したかったのでえっちの濃度が極薄ですがご勘弁を。 父親との対決でもちっと頑張れる筈だったんだがなぁ・・・今のままではダメダメですね。 ホントに中途半端な立場。 でも、却ってその方がラブラブになれるのではないかと考える私はおばかさんだな。 2009.7.21 up |