未来予想図
| 「乗れよ」 校門を出て歩いていると近寄って来た車の窓から彼が顔を見せて声を掛けられた。 いつもの様にコインパーキングで待っていると思っていたのに、迎えに来るとは驚いた。 もしかして今日は逢うのを躊躇っている事が判っていたとか? そんな筈はないと思うけれど、彼は勘が良いので侮れない。 私は逡巡したが、結局彼の車に乗り込んだ。 私が車に乗り込むと彼は黙って車を走らせる。 今日はどこに行くのか聞いてもくれない。 学校帰りに車に乗せられて連れて来られたのはラブホテル。 掛けられた声を無視することもなく、車に黙って乗り込み、部屋まで抵抗もせずに付いて来た。 断らない私が悪いのか?誘う彼が悪いのか? 部屋に入るなり、後ろから抱きしめられて唇を奪われる。 奪うように貪るキス。 彼の温もりと熱が伝わって私を熱くさせる。 もっと欲しい、と思わせるほどに。 いつもは優しく愛撫を始める彼が今日は何だか性急だ。 でも、私も今日は彼に乱暴なほどの情熱的な行為をして欲しいと思っている。 「感じる?葵?」 乱暴に服を脱ぎ捨てて、お互い裸になってベッドの上で絡み合う。 彼の手と舌が私を刺激し続けて息を上がらせる。 彼に問われても私は応える余裕がない。 閉じていた目を開けて私を窺う彼と視線を合わせる。 嬉しそうに微笑む彼の表情。 判っているくせに・・・聞かないで欲しい。 「うっわ〜もうトロトロだ〜すっげー感じちゃってんの?」 大きな声で楽しそうに言わないで。 「そんなトコ見せられちゃうとオレももう限界かな?」 今までのはしゃいだような喋り方から一変して、低く囁かれる。 いつもドキッとさせられる彼の豹変ぶり。 太い楔を打ち込まれて身体が跳ね上がるが痛みはもうあまりない。 短い間に何度も彼に抱かれて慣らされた行為。 「ああ、葵・・・イイッ、やっぱオマエってサイコー!」 彼の言葉に私の女の部分が歓喜に打ち震える。 彼を満足させられる身体に喜びと自信が溢れて。 そんな私の気持ちに反応するかのように私の身体は彼を締め付ける。 そして私も全身を揺さぶられて高みに上らされる。 あがった息を整えながら横になっていると、彼は私にベタベタと触ってくる。 甘く痺れたような余韻の中で、それは気持ちよく感じられる。 彼とこうしている時が一番気持ちいい。 いつまでもこうしていたいと思うけれど。 「私・・・」 言わなくてはいけないと思うのに、言葉が詰まって出て来ない。 いくら気持ちが良いからと言っていつまでもこんな事を続ける訳にはいかないのだし。 そんな私の躊躇いを感じたのか、彼が私の髪を撫でながら優しく尋ねてくる。 「・・・葵、オレのコト嫌いじゃないだろ?」 今、ここでそれを聞きますか? 彼は私の事をどう思っているのか? 好きでもない相手とこんな事を平気でする様な女だと? 唖然として何も言い返せないでいると、彼は私の額にコツンと額を当てて私の目をじっと見つめてくる。 彼の深い青い瞳は何だかとても不安そうに揺れている。 確かに私は彼に一度も自分の気持ちを伝えた事などない。 けれど、それを言ってしまっては彼が重荷に感じるのではないかと思ったから。 何しろ彼には一度私の気持ちを言い当てられているし。 冗談交じりで茶化していたからどこまで本気で受け止めてくれているかは判らないけれど。 「嫌いじゃないなら、見合いなんてやめろよ」 私はドキッとして思わず彼から視線を逸らしてしまう。 昨日私が両親に話した事を彼が知る筈もないのに、知られているのかと怖くなる。 でも、彼は私の両頬を押さえつけて視線を逸らすのを許さない。 「葵、ナニを隠してる?」 彼に問い詰められて、内心で諦めの溜息を吐く。 自分から言わなくてはならない事だと、さっきも決意したはずなのに私は往生際が悪い。 「・・・昨日、両親にお見合いをすると伝えました」 彼の目を見据えて私はそう答えた。 それを聞いた彼は私の顔から手を離して、自分の髪をガシガシと掻き毟る。 その後、私に向けた視線は困った様にも悲しそうにも見えた。 「ふ〜ん・・・なのにオレとこんな事するの平気なワケ?」 オレも見合いの相手もオマエにとっちゃ大した事ないんだ・・・と彼が自嘲するように呟く。 それを貴方が言いますか? 「『気持ちイイ事しよう♪』って仰ったのは貴方でしょう?」 今更、何を言い出すんですか? 彼が求めているのは私の身体だけの筈。 私との身体だけの関係の筈では? 「ん〜確かにそうなんだけどさ〜やっぱ、身体だけじゃなくてココロも欲しいなぁ〜って思うワケ」 背中に腕を回されて、ギュッと抱きしめられる。 私のココロが欲しい? 「・・・ココロは誰にも渡しません。私だけのものです」 両親も妹も友人も愛しているし大切だけれど、たった一人に心を捕われたりはしない。 そう、この恋心だって私一人だけのもの。 「んん〜、そーゆー葵の頑ななトコロ、好きだな〜征服欲そそられるし〜」 ペロリと彼が私の頬を舐める。 やめて欲しい。 まだ敏感な身体が反応してしまいそうだから。 それに戯れに好きだと言われても嬉しくない。 嬉しがってはいけないのだもの。 なにも彼を煽るために頑なな訳ではないのだし。 「私は駆け引きとかは好きじゃありません」 軽い口調で話す彼に油断してはいけない。いきなり豹変すめるから。 「どうしたら見合い止めてくれる?」 真摯で鋭い視線が私を捕らえる。 ホラ、また変わった。 「止めません」 私からは。 「強情なオンナ!そんなにオレの義妹になりたいか?」 横になっていた彼が私の上にのしかかる。 「私とあなたの弟の縁談を持ち込んできたのはあなたのお父様では?」 偶然ナンパされた相手が縁談の相手ならロマンスにも成り得るのだろうが、その兄では笑い話にしかならない。 そして、その彼に恋をしてしまうなんて尚の事。 「強情な上に可愛くないなぁ・・・」 いつもそう言われます。 「でも、そう言われてちょっぴり傷つくトコは可愛いなぁ♪」 クスクスと笑いながらキスをしてくる。 彼には何も隠せないのだろうか? ホンの些細な仕種や反応を彼は見逃さない。 一つ一つ見破られて暴かれてしまう。 そんな事、今までは絶対に許せなかったのに、嫌だったのに。 自分の感情を曝す事は恐怖でしかなかったのに。 彼に暴かれて安堵している自分が居る。 「見合いなんか止めてオレの女になれよ、葵」 キスは長く熱くなり、彼の指が私の奥を探り出す。 まだ熱が冷めない身体は容易く彼の愛撫に従順になってしまう。 「ん・・・っイヤ!っ」 彼の要求と快楽へ落ちそうな状況に拒否反応を示す。 イヤです、イヤ! 絶対に彼の女になんてならない! 私は誰のものにもならない! 私は私だけのもの! でも、このまま彼と会っていたら、きっと今のままではいられなくなる。 それが怖い。 だから彼の弟とお見合いする事を承諾した。 彼と一緒に居られる未来がないのだから、彼と逢うのも止めないといけないのだと思っているから。 今日で最後にしようと思っていたのに。 彼は私が欲しいと言う。 その言葉に歓喜する自分がイヤだ。 「ナマでやっちまって孕ますってのはどうだ?」 彼の言葉に思わず手が伸びる。 「ってぇなぁ・・・結構、いい考えだと思うんだけど」 私の平手を彼は避けなかった。 打たれた頬を押さえながらもニヤニヤ笑っている。 「戯言もいい加減にして下さい!」 あまりの言葉に腹を立てた私はベッドから降りようとしたが、彼はそれを許さない。 「いんや、マジだぜ。オマエとオレの子供っていいと思わね?チャランポランなオレと真面目過ぎるオマエを足して2で割ったら理想的だろ?」 そんな単純な話ですか? 第一、私もあなたもまだ学生でしょう? 「出来たら生んでくれよ、葵」 イヤです! 激しく抵抗する私を彼は揺ぎ無い力で抑えつける。そして私を見下して微笑んだ。 「来年か再来年に司法試験に受かれば司法修習が終わる頃にはオマエも成人してるだろ?そしたら家を出てオレんトコ来て理想的なガキ生んでくんない?」 司法試験? 司法修習って? 確かに彼が法学部なのは学生証を見たから知っているけれど。 彼は家を継ぐのではないの? 私は彼の言葉に驚いて抵抗を止めてしまった。 「ビックリした?これこそマジなんですけど」 私が抵抗する事を止めたので、彼も私を抑えつける手を離してくれた。 そして本気なのか冗談なのかよく解からない笑顔を見せる。 「・・・司法試験を受けるのですか?」 確かにそう聞こえた。 「そーだよん。なんつったってオレ、法学部だし〜ゆーしゅーだから!でも、やっぱ一発合格は難しいかも知んないケドね」 コレでも一応、おベンキョはしてんだぜ、と彼が片目を瞑って見せる。 司法試験って・・・あの弁護士とか検事になるための試験。 では彼は・・・ 「お家を継がれないのですか?」 「モチロン!ハナっからそんな気はねーし、別に親父も期待してねーみたいだし。第一、オレってば妾の子よ?」 跡なんて継げるワケねーじゃん!と彼は明るく答えるけれど、それでも優秀ならば期待されていたのではないだろうかと思うけれど。 でも司法試験を受けるって・・・それでは・・・ 「ま、必然的に婿養子にもなれねーから、葵にも跡を継いで貰うのは諦めてほしーんだけどね」 やはり、彼と私に未来はない。 「・・・そんな事は出来ません」 以前、ちゃんと彼にも伝えた筈。 私は跡取り娘としてずっと育てられてきた事を。 今更、彼の為にそれを捨て去る事など出来ない。 「ソコを何とか曲げてほしーんだけど」 彼は苦笑しながら私の頬を撫でる。 優しいその仕草に肌が泡立つ。 彼に請われて嬉しくない筈がない。 けれど頷いては駄目だ。 「曲げられません」 彼の誘いに負けてしまいそうな心を奮い立たせて、きっぱりと彼の目を見据えて答える。 すると彼は溜息を吐いた。 「ヤレヤレ、頑固なおじょーさまだな」 そう言いながらも彼は私の身体を抱き寄せる。 「でもな、靖治との見合いはやめて貰うぜ」 「何故です?」 私は思わず眉間に皺を寄せながら尋ね返すと、彼は真剣な表情で答えてくれる。 「弟には好きな女が居る。見合いは確かにウチのクソ親父が持ち掛けたらしーがヤツの意思を無視してる。葵が見合いを承知したとしても弟は断るだろう」 それじゃ見合いはできねーだろ?と彼は言うけれど。 「何れにしろ私はいつか家を継いでくれる人と結婚するつもりですから」 今回の話が立ち消える事になろうとも、彼との未来など有り得ない。 彼の為に私の今まで全てを捨て去る事など出来はしないのだから。 「んじゃ、気長に口説かね―とな」 彼はそう言って私にキスをしてくる。 私はそれを拒む事が出来ない。 何故なら・・・それはやっぱり嬉しいから。 私を求めてくれる彼が。 私を諦めないでくれる彼の気持ちが。 「クスッ、葵・・・身体は正直だって言葉知ってっか?」 彼は私の身体の反応を楽しんでいる。 だって仕方ないじゃありませんか? 私の身体に快楽を教え込んだのは他の誰でもない貴方でしょう? 「こんなに素直に身体は応えてくれてんのにな」 彼の指が濡れた音を大きくさせる。 もう・・・何も言葉を返せない。 「今は身体だけでもいいから、オレに応えて・・・葵」 彼の囁きが甘く私の耳朶を打つ。 私は不安から逃れる様にそれに酔いしれる。 私と彼の未来・・・それはまだ何もかもが不安定で不確定ではっきりしないもの。 私は何れ、彼の弟ではない誰かとお見合いをして家を継ぐ。 それが彼では有り得ないのは確かな事。 彼がそれを望んでいないのだから。 でも、彼が望んでいる未来が果たせなかったら? 司法試験は難しいものだと聞いているし、彼も何度か挑戦する覚悟のようだし。 彼が法律家の未来を諦めて私と一緒に家を継いでくれるだなんて有り得るのか? 私はその可能性について考える。 彼が本当に私を望んでくれているのならば・・・彼に夢を諦めて貰う事が出来るのだろうか? 私だって・・・私だって彼を諦めたくはない。 ほんの少しだけ、微かなものではあるけれど、先へと繋がるものはあるのだろうか? 私が諦めなければ。 彼が諦めないでいてくれれば。 私と彼との未来を描く事が出来るのだろうか? 私は目の前にある彼の身体に腕を伸ばす。 これは私が欲しいと思うもの。 この手に入れられるなら・・・そんな望みを捨てなくてもいいのだ。 私の恋には未来があるかもしれない。 | 
Postscript
 
| これが『はた迷惑な女達』のシリーズを書く切欠になった話。 和晴21歳・葵17歳のお話。(拍手掲載時のコメントでは大学4年と高校3年と書いてある・・・昔の事は忘れて下さい) 丁度、「悪女の嘆き」の前後のあたりのお話でしょうか? タイトルはドリカムの曲からですが、あの曲ほど甘くない(苦笑) 実は必死な和晴に対してクールな葵。 このカップルこそ、私のポリシーに沿ったシチュエーションカップル!イェイ! 一押しです!一番応援しています! 身体の関係から入って恋愛関係へと移行する。 素晴らしい! でも、上手く持っていけるかがとても不安です。 実は例の「なんちゃって異世界ファンタジー」版では、この二人の結末にとてもとても悩んでいて、ラストが決まっていないのでした。 色々と考えたのですが、どーも二人が上手くいくラストにならなくて・・・どちらも幸せになるラストではあるのですが、『二人で一緒に幸せ』には成り難い。 だからこそ現代版にシフトチェンジしてしまったのですが。 さて、無事に『めでたし』になるのか? と、ここまでが拍手から下げた時の後書き。 これの前振りを延々と書いて話を追加した為に、どーにも話が繋がり辛いので大幅に加筆修正いたしました。 ビビッていたのにやっと告白した和晴。 もちっと引っ張ろう、なんて鬼畜な事考えてましたが、そーゆー訳にもいかないので、思い切って話を進めてみました。 しかし、葵は頑固モノです。 そー簡単には墜ちません。ただ単に素直じゃないだけとも言うが。 中途半端な立場で告白して来た和晴に「夢を諦めて」とブラック葵登場(笑) さて、どうなるのでしょう? 拍手掲載期間2006.8.23-2007.6.13 改稿増筆2009.7.22 | 
 
