オレは遺言状について弟と妹と話し合った後、結論を出せずに成島の家に戻った。
検察官に就任してから、地方勤務が続いてあの家にはまともに戻らないまま結婚して、今ではこっちがオレの家と呼ぶべきシロモノだ。
結局、彼女と彼女の両親に押し切られる形でオレは名前だけの婿養子となった訳だが、親父も弟妹も誰も異議を唱えなかったしな。
何より、オレが覚悟を決めてそう望んだ事だし。
でも、ホントに遺言を聞くあの場に葵を連れて行かなくて良かった。
身内のゴタゴタに彼女を巻きこむのが嫌で、オレ一人で行ったんだが、案の定、岳居のババアがわめき散らすし、遺言状の内容ときたらとんでもないモノだったから。
アメリカの不動産なんて貰ったって困るだけだっつーの。
静香はいいさ。
アイツはまだ結婚していないし、研修とやらがまだまだ残っているんだから。
それこそ家付き娘になって婿でも何でも貰えばいいんだから、あの家を貰っときゃいい。
でもな、オレとノブはなぁ・・・
嫁さんの意見を聞くべきだと言う妹の意見は尤もなので答えを保留したが、オレはあまり乗り気じゃない。
不要な不動産を貰う事に意味はないし、売却すると言う事は・・・親父の生まれた家を手離すってコトだろ?
それはちょっと・・・寂しいコトだよなぁ。
「おかえりなさい」
彼女にそう言って出迎えられると、結婚して1年半経った今でも、思わず笑顔が浮かぶ。
それまでの疲れや嫌な事、全てが癒されて忘れ去れる様な気がして。
「ただいま」
つい、いつもの様に彼女にキスをしようとして・・・彼女の後ろに成島の両親と妹が居るのに気付く。
「只今戻りました」
クソッ!早く赴任先に戻りたいぜ!
彼女と彼女の両親に親父の遺言状の内容について話す。
オレの意見は言わないままだったが、案の定、成島の両親は
「君が好きな様にするといい」
とだけ言って、オレは彼女と二人だけで話し合う事になった。
「葵はどうすればいいと思う?」
オレは静香に言われた事やオレが放棄したいと言った事を伝えてから彼女に尋ねた。
すると、オレの聖母は微笑んでこう答えた。
「和晴さんのお父様のお気持ちですもの。頂いてしまって宜しいのではありませんか?」
そして、更にこう続ける。
「海外の不動産は確かに今の私達には不要なものですが、将来どうなるかわかりませんし、それにどうしても管理が大変で手放す事になっても条件を付ければどうでしょうか?家などは維持するといったような」
オレは、彼女に親父の家が無くなる事に不安を抱いていた事を伝えた訳ではないのに、彼女はそれを察してくれた。
彼女はオレの手を握って頬にそっと唇で触れた。
「大切にしましょう。あなたのお父様の形見なんですもの」
オレは彼女の肩に顔を埋めて零れた涙を隠した。
「・・・ありがと、葵」
彼女は親父が亡くなってから初めて泣いたオレをずっと優しく抱きしめてくれていた。
オレ、ホントにオマエと一緒になれて良かった。
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