Atelier Marius 6 5年目9月4日〜8月30日
5年目9月4日 シアがやって来た。 ストルデルの滝から戻って丁度2週間後に。 シアは目聡く俺の指に気付いて冷やかす。 「あら、マリウス。それなぁに?」 俺は真っ赤になりながら「クラリスから聞いてるだろ」と呟くと。 「クラリスには昨日会ったけど何も言ってなかったわよ? ふぅん、それはクラリスに貰ったの。 あら、でもクラリスは指輪なんてしていなかったけど・・・まさかマリウスあなた!」 シアは俺に恐い顔を向けてくる。 違う!誤解だ!! 「クラリスに指輪は渡してあるよ、とっくの昔に。 でも卒業試験の結果が出るまで保留になってるんだ」 俺に指輪をくれたんだから、彼女が指輪をしてもいいと思うのに。 最初の約束どおり卒業試験を無事パスするまではダメだという。 そう言う所がクラリスはとても厳しい。 「いいわねぇ、私なんて彼ともう何年も会っていないのに」 シアは溜息をこぼす。 シアの恋人は今外国に留学している。 親同士が決めた婚約者だが、結構ラヴラヴだ。 遠く離れて会えないけれど、地道に文通を続けているらしい。 「休暇とかで戻ってこないのか?」 俺は散々惚気話を聞かされているが肝心の彼に会った事はない。 「駄目なの、遠すぎるんですもの」 自分が幸せな分、シアが気の毒になってくる。 しかし。 「シア、さっきも言ったが、俺は卒業試験の終了までもう1年もないんだ。 俺の将来が掛かっている大切な試験なんだ。 だから、採取に連れて行くのは2ヶ月に一度に伸ばしてくれないか!」 切実なお願いだ。 「いいわよ、その代わりに今度はエアフォルクの塔に行きましょうよ」 な、なにィ〜!何て無茶な事を!! 「あのなぁ、シア。いくら魔王がいなくなったとは言え、あそこはまだまだ魔物の巣窟なんだぜ」 飛翔亭で冒険者達が噂していた。 魔王が倒されたと聞いてエアフォルクの塔へ向かった奴等が見たのは相変わらずの魔物の大群だったと。 「でも、マリウスは魔物達を倒して最上階の魔王を倒したんでしょう?なら平気よ」 その自信はどこから来るんだ?教えてくれ。 結局、俺はまたしてもシアに押し切られてしまった。 エアフォルクの塔と聞いては流石のミューも断ってきた。 くっそー、クラリス!言った通り、オマエにも同行してもらうぞ! ああ、神様!一体俺が何をしたというんですか? 5年目9月10日 マリウスさんに泣きつかれてシアさんと共にエアフォルクの塔へ向かう。 彼と一緒に採取に行くのは久し振りだ。 マリウスさんはシアさんに押し切られてブツブツと不運を嘆いていたが、 彼が自分で気付かぬうちに恨まれていても仕方ないと思う。 余りにも鈍すぎるから。 何といっても王女様や他の女の子達から寄せられている好意にまるで気付かないのだし。 本当にマリウスさんは強くなった。 途中、襲ってきた盗賊達を杖の一撃で撃退してしまったのだから。 これなら魔王も火竜も退治できたのが頷ける。 しかし、あまりにも強すぎるからと言ってシアさんに塔の中で杖を使うことを禁じられていた。 彼女は本気で冒険者になるつもりなのだろうか。 私が何か始めればと言ったのは、こんな事のつもりではなかったのだけれど。 確かにシアさんも強くなってきている。 私よりもずっと。 最近、研究に専念していて採取に出掛けるのは久し振りだから、アウラ姉さんに頼んでグラセン鋼の杖を借りてきたのだけれど、はっきり言って私が一番足手まといになっている。 シアさんに「私がクラリスを守ってあげるわ」と言われてしまった。 情けない。 錬金術師として魔法をもっと使えるようにならなければ! 5年目9月15日 エアフォルクの塔でも収穫はなかった。 やっぱり日食の日じゃないと駄目なのか? それとも、最近行っていない近くの森やヘーベル湖だろうか。 俺は工房に戻って調合に励みながら考える。 クラリスを一緒に連れて行ったら、何故か俄然やる気を出してしまって、今後の採取にも同行すると言い出した。 シアのパワーアップに驚いたらしい。 俺の強さにも感心していたけれど、へへっ。 しかし、あの2人を連れて行くのならば、火薬系のアイテムを大量に持っていかないと。 クラリスならメガフラムやフォートフラムを使いこなせるだろうし、シアもメガクラフトなら。 何しろ2人とも大した武器を装備できないからなぁ。 クラリスは俺と同じ様に杖だけだし、シアなんてハタキだけなんだぜ。 どうして武器屋にハタキが置いてあったのか謎だが、そのハタキで魔物に挑んでいこうとするシアもすごい。 2人に増えた妖精さんに燃える砂とロウの調合をお願いして、俺はフラムの調合を開始する。 まったく、気苦労が耐えない。 クラリスと一緒に居る時間は増えたけど、採取に行っている間は2人っきりになれないし。 とほほ・・・。 5年目5月31日 これで通算5度目になるエアフォルクの塔への旅がようやく終わった。 今ではあそこはすっかりシアとクラリスのトレーニング場と化している。 2人はあそこに通いつめて、かなり強くなってきている。 シアはガーゴイルまで倒せるようになった、あのハタキで。 冒険者達がアレを見たら失業したくなるだろうなぁ。 クラリスも強くなったけど、採取、というか単なる冒険の旅だなアレは、に同行してくれているおかげで研究が忙しくなって工房にあまり来てくれない・・・しくしく。 今日も帰りに誘ったのに、クラリスは慌てて寮に帰ってしまった。 四六時中一緒に居ても・・・出来ないんじゃ、意味がないんだぁ! 5年目6月18日 今日は待ちに待った日食の日だ。 クラリスを誘って近くの森に行く。 日食の日といえど、ドンケルハイトは森に生えていると思うんだ。 メディアの森にはなかったし、ココだと思う。 そして、案の定、あった! これがドンケルハイトかぁ・・・。 長かった、コレを求めて1年以上・・・これでようやく賢者の石の調合に入れる。 何とか卒業試験の終了までに間に合いそうだ。 俺は採取すると工房に戻った。 もちろん、クラリスも連れて。 シアを連れずに彼女だけを連れて行ったのは、もちろん下心があるからに決まっている。 ドンケルハイトを探して採取に行ったのは本当だし、賢者の石の調合にすぐにでも取り掛かりたいけどクラリスとこのまま別れるなんて出来ない。 「これを使って何を作るつもりなんですか?」 クラリスには賢者の石について何も話していない。 「それは出来てからのお楽しみ!」 だって失敗したら恥ずかしいじゃないか。 ドンケルハイトを物珍しそうに見ているクラリスの注意をこちらに向ける。 顔をこちらに向けて、貪るようなキスをする。 この感触、久し振りだ。 クラリスの長い髪に手を差し入れると指がすっと通る。 腰まで伸びた真っ直ぐで癖のない髪、俺とは違う。 指をそのまま下まで滑らせて髪飾りを落とす。 唇を離すとクラリスは少し口を開けて舌を覗かせている。 ちょっとぼんやりとした表情と少し腫れて紅い唇。 扇情的な表情だ。 二階まで我慢できるかな?俺。 クラリスの体に服の上から触れていく。 彼女は今年に入ってからシアに言われたらしくて女物の服を着るようになった。 今までのようなローブとズホンといった男のような格好ではなく、女性の体のラインを出させる服を。 露出は余りない服だが、大きな胸元はそれなりにはっきり分かる。 他の男の目に曝すのは少々不本意だが、いつまでもあんな格好をさせておくわけにもいかないし、 それに最近は一緒に居る事が多いから文句は言っていない。 服の上から彼女の体を弄っていると、零れてくる吐息が艶を帯びてくる。 えーい、ここでいいや。 だって久し振りだもん。 彼女の服を脱がそうと手を掛けると 「マ、マリウスさん!」 と抗議してくるが、無視無視。 背中のホックを外してファスナーを下げる。 女物の服は脱がせるのが簡単だ。 これを下に落としてしまえば後は下着だけだもんな。 俺はマントを床に敷いてその上に彼女を横たわらせる。 クラリスはちょっと非難するような視線を遣すが、抵抗しない。 下着をずらせて胸にしゃぶりつく。 相変わらず柔らかくて感度がいい、だってもう勃ってるし。 クラリスが俺の服を脱がせに掛かる。 ズボンのベルトに手を掛けてきたので腰を少し浮かす。 胸に回していた片手をクラリスの腰にまわす。 ほら、やっぱり濡れてる。 俺に触れられてピクンと体を震わせた彼女は俺のモノを引っ張り出して触りだす。 ああ、この小さくて細い指に触れられると、もう・・・。 俺は彼女の中を掻き回していた指を引き抜いて嘗め回す。 彼女のって、甘い。 俺たちは辛うじて身に着けていたものを全部脱ぎ去って再び体を重ねあう。 両足を持ち上げて、そして彼女の中に・・・ああっイイ! 直ぐにでも放ってしまいそうになるのを懸命に堪える。 「・・・クラリス」 腰のスピードが上がってくる、ああ、もうタメだ! 「マリウス・・・」 クラリスがギュっと締め付けてくる。 がっくりと彼女の上に倒れこむように果てる。 クラリスが背中に腕を回してきて俺の肩に顔を埋める。 忙しない呼吸が彼女のいつものミスティカの香りと汗の匂いを運んでくる。 思わず目の前の柔らかい耳朶に歯を立てる。 呼吸が落ち着いてくるとお互いに目の前にある相手の体に舌を這わせていて、それに手の動きが伴う。 俺たちの腰が再び動き始めたのは間もなくだった。 5年目7月20日 ウソみたいだけど、完成しちゃったよ。 賢者の石。 アカデミーの落ちこぼれと言われたこの俺が。 錬金術師の究極の夢の『賢者の石』を。 夢じゃないだろうか? 思わず頬をつねってみる。 イタイ!夢じゃない! そうだよなぁ、頑張ったもんなぁ俺。 クラリスにも会わず、工房に篭って一ヶ月! やったぁー!!! これをイングリド先生に提出して、卒業試験の成果として見て貰うんだ! 結果はどうなるか、判らないけど。 この石は本当に俺の5年間の成果だよなぁ。 エリキシルを作ったお礼に貰った『精霊のなみだ』と調合に継ぐ調合で完成させた『アロママテリア』と冒険のレベルを上げて挑んで手に入れた『火竜の舌』とあちこちと探し回った『ドンケルハイト』 この全てを精製に精製を重ねて調合した『賢者の石』 これを提出しても卒業出来ないのなら、俺には本当に才能がまるで無かったって事だよな。 俺は多分、最後になるだろうスケッチを始めた。 このアイテムで、ひいふう・・・おっと丁度百枚になる。 俺だけの図鑑の完成だ。 5年目8月15日 卒業試験の結果は来月に発表される。 俺はじっと待っていることが出来なくてシアとクラリスとでまたエアフォルクの塔へ行ってきた。 もう2人にも危なげな所は無い、俺ほどじゃないけど。 みんな成長したんだよなぁ。 最初はどうなる事かと思ったけど。 今日は夏祭りの日だ。 クラリスも誘ったんだけど、来るだろうか。 シアがいつもの様に誘いに来る。 やっぱり来ないのかなぁ。 内心がっくりしていた俺は、笑っているシアの後ろに隠れるようにしているクラリスに気付いた。 いつかのパーティで着たドレスを身に着けている。 俺は嬉しさの余り、会場の広場まで彼女の手を引いて駆け出した。 街中の人たちが集まっている中で、俺とクラリスはダンスを踊った。 クラリスは前に俺が教えたステップをちゃんと覚えていて、2人で人込みを縫うように踊った。 いつもは無愛想なクーゲルのおっさんが俺達にウインクを寄越す、俺も返してやる。 「ええマリウス?その可愛い子誰?ええクラリス?いつのまに、やるじゃん」 ミューが驚いた顔をする。 「よう、マリウス!こ、恋人か?」 ハレッシュも驚いている。 「やぁ、お兄さん!お似合いだよ」 ルーウェンは遠慮なく冷やかしてくる。 知った顔は俺達が2人で仲良くダンスをしているのを見て驚いたり笑ったりしている。 俺は念願の夢が叶って顔が緩みっぱなしだ。 「クラリス、愛してる」 人込みのざわめきに紛れて、彼女の耳元でそっと呟く。 「・・・ええ、わ、私も・・・」 俺は思わず足を止めてしまった。 クラリスは今なんて言った? 「も、もう一回言ってくれ」 クラリスは赤くなった顔を一瞬俯かせたが、俺の顔を真っ直ぐ見て言ってくれた。 「私も、愛してます。マリウス」 にっこりと笑顔を見せて。 「ひゃっほー!」 俺は奇声を上げて、クラリスを高く抱き上げた。 「マ、マリウスさん!」 クラリスは慌てているが構うもんか。 クラリスが俺を愛してるって、愛してるって、愛してるって言った! クラリスが笑った、笑ったんだ!! 俺はクラリスをぎゅっと抱きしめてキスをした。 街中の人がいたって構うもんか。 冷やかしの声と口笛が聞こえてきたけど、そんなものは無視! ただ、クラリスは真っ赤になってすごく怒っていた。 機嫌を直してもらうのに一苦労だった。 だって、ドレスって脱がせにくいんだよ。 5年目8月30日 今日で5年間に渡った試験も終わりだ。 明日は結果発表。 出来るだけの事はやった、悔いはない。 妖精さん達には森に帰ってもらった。 工房もアカデミーに返さなくてはならない。 片付けているとクラリスがやって来た。 「これを」 見覚えのある小さい箱を俺に渡す。 「明日の結果が出たら、私に下さい」 うん、そういう約束だもんな。 「どんな結果であっても・・・待ってますから」 クラリスは少し赤い顔をして言う。 それって、それって・・・どんな結果でも受け取ってくれるって事? 俺たちは工房での最後の夜を2人っきりで過ごした。 もちろん、片付けなんて途中でお仕舞さ。 ************************************************************************ 「来たわね、マリウス」 相変わらずイングリド先生の前では少し脅えてしまう。 コワイ。 「あなたの作った図鑑を見せてもらいました」 先生は俺が書き溜めたスケッチを纏めた物を持っていた。 いつの間に? 「クラリスが持ってきてくれたのよ、いい恋人を持ったわね」 クラリスのヤツー! 俺は恥ずかしさに真っ赤になった。 「それよりあの図鑑、よくあそこまで完成させたわね。感心したわ。結構いい加減なところもあったけどかなり上位の素材まで研究してあったわ」 「それじゃあ、俺は・・・」 「もちろん合格よ。おめでとう、よく頑張りましたね」 やったーぁ! 「それから、あなたはマイスターランクへ進む資格を与えられました。あなたの作った図鑑が校長先生に認められましたからね」 マイスターランク、これでクラリスと一緒に研究が出来る! 俺は先生に案内されてマイスターランクの研究室に行った。 イングリド先生に紹介される。 今日から俺もここの一員になるんだ。 研究室の隅でクラリスが笑っている。 紹介が済んだ俺は彼女の元へ急ぐ。 そして昨日貰った指輪を填めて貰う。 ここでキスしたいところだけど、イングリド先生が恐いので、ぐっと我慢した。 *********************************************************************** 「マリウスさん、どうしたんですか?」 翌日、研究室で顔を合わせたクラリスは俺を見るなり驚いた声を上げた。 「ヘンかなぁ?」 「ヘンじゃありませんが・・・ああ、無事、卒業出来たからですか?」 「違うよ、だってこの髪は12年間も伸ばしていたんだぜ、アカデミーに入るより前から」 俺は今まで伸ばしていた髪を昨日ばっさり切ったのだ。 だって、願いが叶ったんだもんね。 「じゃあ、どんな願いをかけていたんです?」 「・・・笑わないか?」 クラリスが頷いたので、俺は彼女にそっと耳打ちした。 「可愛い嫁さんが貰えるようにって願をかけてたんだ。昨日、指輪を受け取ってくれただろう?」 |
Postscript
2002.7.2 up |