「ねぇ、なんでいっつもわざわざ着替えて来んの?」
マルローネは待ち合わせ場所で待っていたクライスに開口一番そう尋ねた。
クライスは少しムッとした顔をして
「15分も遅れてきて最初の言葉がそれですか?貴女は遅刻してきて悪いと思っていないんですか?」
マルローネの質問には答えずに逆に問い詰める。
問い詰められたマルローネは『ううっっ』と少し引いて詰まりながらも
「だって天気予報が今日も当たらないんだもん」
と、経過を飛ばした結論を唱える。
他の男なら『は?』と頭の上に?マークを飛ばす所であるが、我らがクライス君は頭を軽く左右に振りながら眼鏡をずり上げるという器用な真似をしながら
「この時期の予報なんて当てにならないものですよ、そんなものを元に着て行く服を選ぼうとするなんて学習能力が足りませんね」
マルローネの言わんとした事を見事に推察して言い放つ。
梅雨がいつまでも明けきらないこの時期、天気は不安定で寒暖の差が激しい。
今日は暑くなると言っていた筈なのに、太陽は姿を見せず肌寒いほどである。
「うううっ・・・あ、あたしの質問にまだ答えてないよ、クライス」
「貴女も遅刻した事についての謝罪がまだですね」
視線を合わせたマルローネとクライスの間に静電気が発生しそうなほどの険悪な空気が流れ、マルローネは絶対に負けるものかと視線を逸らさないようにと意気込んだが
「貴女が遅れたおかげで次の映画まであと5分ですよ、マルローネさん」
クライスが冷ややかな声でそう告げるとマルローネは彼の手を掴んで走り出した。
「急いでよ、クライス!あたしこの映画、楽しみにしてたんだから」
息を切らして空いている席に腰を下ろすと、丁度次回上映の予告編が流れている所だった。
「やったね!ギリギリセーフ!」
マルローネは小さい声でガッツポーズをとって額にかいた汗を拭うとクライスがスッとハンカチを差し出してくる。
「あ、ありがと」
あたしだってハンカチくらい持ってるけど、まっいいか、と思いながら汗を吸い込ませる。
ハンカチにも染み付いているウッドノートのクライスの香り・・・彼は汗臭さとは縁がないみたいだ。
この蒸し暑い時期も涼しげな顔をしているし、いつもしている汗をかくような時ですら汗をかいても嫌な臭いをさせない。
微かに香るコロンの香りは大人の男の人みたいで、最近はデートの時も制服を着て来ないから直さら、年下だって事なんて忘れてしまう・・・もしかしてあたしが卒業したからあたしの前で制服を着るのがイヤなのかな?
映画館のスクリーンが一際広くなって本編の上映が始まった。
ギリギリに入場して来たので席は左手の一番後ろと良くはないが座れただけでも上等なのかもしれない。
何しろこの映画は封切られたばかりだから。
瞳を輝かせてスクリーンに見入るマルローネを少々不機嫌なクライスが黙って見過ごす訳もなかった。
「ちょっと!やめてよ!」
マルローネは小さな声でミニスカートの中に侵入してくるクライスの手を叩いた。
まだ配給会社のロゴマークが出てきたばかりなのに!あたしに映画を見せないつもりなの?
マルローネはクライスを睨みつけた。
「やめる?こんなに準備万端にして来ながら言うセリフとも思えませんね」
クライスはマルローネの耳元で囁きながら彼女の薄い下着をツンツンと引っ張る。
マルローネの白いミニスカートの中には下着と呼ぶのが甚だ妖しいモノがクライスの手の侵入を遮る事無く許している。
デートと言えば女の子が気を使うのは洋服だけではない。マルローネは数少ないチョイスの中から苦労しているのであるが
「映画が終わるまで待ってよ!」
周りを気にしながらマルローネは小さい声で腰だけではなく背中にまで伸びてくるクライスの手を避けるように身を捩りながら訴えた。
「わたしは映画よりも楽しみにしていたモノを優先させたいですね。今日は待たされましたし」
クライスは周りを一切気にせず、左側に座っているマルローネの上半身をぐっと自分に引き寄せて囁き返す。
「謝罪の言葉の代わりに好きにさせて貰いますよ、マリー」
「やっ・・・ん、クライス!」
唇が触れそうなほど顔を寄せられてマルローネは赤面して顔を逸らして体を捩る。
クライスの左手はサマーニットの下を潜ってブラのホックに掛けられる。
彼の右手は既に潤い始めている場所に深く侵攻しているし、自分自身の陥落も時間の問題だと思いながらマルローネは最後の抵抗を試みた。
「この映画見ちゃダメなの?」
上気した頬に潤んだ瞳で見上げられて、クライスは内心一瞬だけ躊躇したが、そんな素振りは微塵も見せずに
「ダメですよ」
とにっこり微笑んで答えた。
『鬼畜!サディスト!』と心の中で罵りながらマルローネはクライスの指の動きにあわせて体をビクビクと震わせた。
クライスは外したブラを取ってマルローネの豊かな胸の重さを推し量るように掌の上で揺らし、もう片方の手は抵抗しなくなったマルローネの足の間を強弱をつけて攻める。
『ん!』
マルローネは唇を噛み締めて声が漏れないように耐えるが、時折スクリーンで起きる爆発のシーンで場内が明るくなる度に自分が大きく足を広げている事やクライスの手の動きが周りの人にばれないかとヒヤヒヤしていた。
クライスってば表情だけは何事もないようにしてるけど、手の動きを見ればモロバレだよ?
涼しい顔をしているクライスの横顔をチラリと覗ったマルローネはこれ以上ここには居られないと思っていた。
だって、これ以上ここに居たらスカートやシートが濡れちゃうよ、きっと!それに・・・
「クライス・・・出ようよ」
擦れる声でマルローネがそっと呟くと
「最後まで見なくていいんですか?」
笑いを含んだような声が返ってくる。
マルローネは「はぁーっ」と熱い溜息を吐いて首を縦に振った。
「仕方ありませんね」
クライスはスッと立ち上がってフラフラになっていたマルローネを支えるように抱きかかえて暗い映写室を出た。
上映中のロビーは人影がなく、足取りがおぼつかないマルローネも注目される事がない。
クライスに抱えられるようにして前も見ずに歩いていたマルローネは、彼があるドアを潜ったのに気づいて顔を上げた。
「何よ、ココ。トイレじゃない?」
それも男性用の。
マルローネはクライスを睨み付けて抗議するが
「家やホテルまで我慢できますか?」
そう言われて睨み付けていたマルローネの顔がまた上気して唇をキュっと噛み締めて首を横に振った。
あまり使われる事のない映画館の男性用トイレの個室は割りとキレイになっている。
しかし、それでもトイレはトイレ。マルローネが躊躇っているとクライスが便座に蓋をしてその上に座った。
「さあ」
促されて彼を跨ぐようにして近付く。
「どうして欲しいかちゃんと言って下さいね」
腰を抱き寄せられて胸元で囁かれると快楽への期待に体が震える。
「・・・ちゃんとイカせてよ・・・」
唾をゴクリと飲み込んでマルローネが擦れた声で答えると
「指で?舌で?それとも?」
マルローネの体に密着しているクライスの顔が笑っているように揺れて尋ね返してくる。
マルローネは言葉で答える代わりにミュールを脱いでクライスの膝の上に立った。
そして彼の顔を跨ぐようにして腰を少し落とす。
大胆なマルローネのおねだりにクライスはニヤリと笑って指で目の前の花弁を掻き分けて花芯を曝け出す。
濃厚な蜜の香りが漂って彼自身をも刺激する。
「あっ・・・あん。そう、もっと!」
腰をクライスの顔に擦り付けるように揺らしながらマルローネはトイレの壁に手をついて喘いでいた。
不安定な膝の上にあった彼女の足はクライスの手によって彼の僅かな足の間に移動させられている。
素足に当たるクライスの高ぶりにマルローネはそっとその膨らんだフォルムを足でなぞる。
微妙なタッチで刺激されたクライスは膨らんだ花芯を舌で押し潰すように強い刺激を与えた。
「やぁん、やん」
マルローネの腰を押さえていたクライスは、力が抜けたようになった彼女の体を自分の顔から下ろした。
「ここで最後までしますか?」
映画か終わるまでまだ時間がありますから、声を抑えれば大丈夫だと思いますがと言うクライスの膝の上に抱きかかえられるようにしていたマルローネは、自分の蜜で濡れている彼の口の周りをペロペロっと舐めてから
「家やホテルまで我慢できるの?」
と腰の下のクライスの硬いモノを撫で上げて答えた。
思わぬ逆襲に遭ったクライスはフッと笑ってから
「そうですね」
と言ってマルローネが自分の腰を跨ぐように立たせて自分自身を解放した。
「ああっ」
腰を落としてクライスを迎え入れたマルローネは満足するような声を上げて、彼に突き上げられるままに動き出した。
ヤだなぁ、こんなトコでしちゃうなんてスル事しか考えてないバカップルみたい。
でも、してる時が一番気持良くて幸せなのかも・・・だっていっつもはクールでシニカルなクライスがこんなに必至になってる顔ってこんな時くらいしか見れないんだもん。
眉間に皺を寄せているクライスの頭をノーブラのサマーニットの上からギュっと抱きしめてマルローネは「あん、ああん、はぁん、クライス・・・あたし・・・」とクライマックスを告げる。
クライスの両手によって支えられ動かされていた腰の動きが一層大きくなってマルローネの奥深くに注ぎ込まれる。
ぐったりと便器に座り込んでいた二人は荒い息を整えると身支度を整え始めた。
「さっ、席に戻るわよ」
立ち上がったマルローネがクライスを促すと
「まだ諦めていなかったんですね、映画を」
苦笑されて胸を張る。
「そうよ!楽しみにしてたんだから!頭の30分位見逃したからって諦められますかって言うのよ!」
「でも、いくらお金を払っているとは言え、私と一緒に居て他の物に熱中するのは感心しませんねぇ、マルローネさん」
眼鏡のレンズを拭きながら呟いたクライスの言葉にマルローネは青くなる。
「また邪魔するつもりなの?」
「邪魔じゃありませんよ、貴女だって楽しんだでしょう?」
フッと笑ったクライスの言葉にマルローネはこの映画がレンタル屋に出回るまでどのくらい掛かるかろうかと考え始めた。
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