真実に微笑を 3 |
最初の店から出た俺達は、結城さんが借りているアパートへ向かった。 すぐ近くだし、気兼ねなくゆっくり飲めるからと結城さんが言ってくれたのだ。俺達は途中のコンビニでアルコールとつまみを補給した。 結城さんの言うとおり、歩いて5分ほどの場所にそのアパートはあった。月単位で賃貸できるタイプで、結城さんのような短期間の出張などに最適なのだろう。入居者もそういったビジネスマンがほとんどなのだそうだ。 ガシャっとカギを開け、結城さんが俺を促す。 「どうぞ。ちょっと散らかってるけど気にするな。」 「おじゃましまーす。っつと。」 些か飲みすぎていたため俺は少しふらつきながら部屋へと上がった。 8畳ほどの1LK。散らかってなどいない綺麗な部屋だった。 「全然散らかってないじゃないですか。俺んちより断然綺麗ですよ!」 「そうか?あんまりモノがないしな。」 なるほど。そういわれれば無駄なものは全く無かった。考えてみれば2ヶ月で帰るんだから当然だよな・・・。 そう、彼はずっと此処にいる人ではないのだ。 俺達は早速2次会を開始した。 店で飲むのとは違い、他の人に気を使うこともないため俺達はぐいぐい飲んでいた。 結城さんもけっこういけるようでほとんど顔に出ない。俺も決して弱いほうではないので、そんな結城さんのペースに合わせていた。 先程の彼の苦しそうな顔が頭から離れない。 離婚して、子供もいて・・・・驚いたのは事実だった。しかし、俺が気にしたのはそんなことじゃなくて・・・・・ 離婚のことで彼は自分のことをずっと責め続けてきたのだろう。ずっと悔やんできたのだろう。 後悔にずっと苛まれていてもなお真摯に生きてきた、そんなひたむきな彼が俺は堪らなくいとおしい。 ふと気がつくと、結城さんは俺を見ていた。 「どうかしました?」 「・・・なあ、お前何か悩みかなんかあるのか?俺でよければ相談に乗るぞ。」 結城さんに神妙な顔で訊かれて俺は困ってしまった。相談に乗るって言われても俺の悩みはあなたがらみなんだけど・・・。 「え・・・えっと。いやぁ。その・・・。」 なんと言っていいものかわからず、しどろもどろに答える。 「お前、最近様子がおかしかったから・・・。ずっと気になってたんだ。」 結城さんは心配そうに顔を歪めた。 「し、心配してくれたんですか!いや〜うれしいなぁ。」 俺は誤魔化すようにわざとふざけた調子で言った。 「あたりまえだろう。研修中とはいえ俺達はパートナーだ。」 「そ、そうですね・・・。」 結城さんは本当に心配してくれている。でもそれはあくまで仕事のパートナーとしてってことだ。彼の感情はそれ以上でもそれ以下でもない。俺は改めて自分の立場を認識させられたようで悲しかった。充分わかっていたつもりだったのに、いざとなるとやはりショックだった。 急に黙り込んでしまった俺を不信に思ったのか結城さんが声をかける。 「どうした?俺にできることなら協力しようと思ったんだが。」 この人はなんて残酷なんだろう?結城さんは全然悪くなんてないのに、ついそう思ってしまう。俺は自分勝手な奴だ。 そういうエゴを打ち消すように俺は自分に言い聞かせる。この人は俺を心配してくれてこう言ってくれているんだ。俺を気遣って言ってくれているんだ。 ・・・でもそれは俺が仕事上のパートナーだから。 俺の中に言い様の無いどす黒い感情が湧きあがった。この人には決して伝わらない。どんなに想っても決して伝わらない。 こんなに想っているのに―――。 膨れ上がった澱んだ感情。絶望と怒りが混じった感情が俺の理性を絡め取ってしまった。 「あなたが相談に乗ってくれるんですか!?あなたが俺を助けてくれるっていうんですか?」 突然声を荒げた俺に結城さんは驚愕を露にした。 「古河?いったい・・・」 「・・・ずっと悩んでいました。あなたはすごすぎる。あなたを尊敬しています。だから俺は必死だった。早く仕事ができるようになって、あなたに認められたかった。あなたにふさわしくなりたかった。でも、うまくいかなくて。簡単じゃないってわかっていたけど、それでも・・・。」 俺は興奮してしまい自分でも何を言っているのかわからない状態だった。 「おい、落ち着け!古河、お前何が言いたい?」 彼の優しげな促すような声に溢れて来る想いを止めることができなかった。 「・・・好きなんです。・・・あなたが好きなんです!」 結城さんは驚きのあまり声を発することができない。 俺達は互いの顔を見たまま動くことができなかった。漸く結城さんが戸惑った声で言った。 「お・・・まえ。」 言ってしまった・・・。とうとう言ってしまった・・・。 お前は自分でこの人を裏切ったんだ。 |
|
Menu | Back | Next |