きょう2度目の諫早だ。島原鉄道のホームに行って列車に入ると、平日の夕方なので高校生がたくさんいる。
なんとかすわれた。
そして発車。次の駅でさらに乗ってくる。
駅間はかなり短めで、その短い間に車掌さんがやってきてお客にきっぷを売り、次の駅が近づくと車掌室に戻ってドアを開ける。
まあ、ほとんどのお客が高校生、すなわち定期券なのでその分若干楽なのだが、たまに年輩の人がいて、きっぷを買う。たまにしかいないのでけっこうこれで間に合っているようだ。
海が見えてきた。
男子高校生も女子高生も、みんな仲がよさそうにおしゃべりしている。
ふと、新島弥生(にいじまやよい)ちゃんというアイドルのデビュー曲のカップリングの「赤いピアノ弾いた」という歌を思い出した。子供のころのおもちゃのピアノが物置から出てきてあのころ自分は何を考えていたのか思い出せない、というような内容の歌だ。
実際高校生のころは目先の受験のことしか考えていなかったんじゃないかと思う。
たまに放課後トランプやったりマージャンやったりすることはあったが、少なくとも毎日鉄道で通学していたころは、鉄道に乗っているという意識が希薄だったと思う。
実際ぼくが鉄道で遠くに行くようになったのも、通勤に鉄道を使わなくなってからだったし。
そんなことを考えているうちにディーゼル車は進んでいった。
島原に近づくと、お客がだいぶ少なくなった。島原、島鉄本社前、南島原と、多少大きめな駅に停車していく。
そして列車は島原外港に着いた。ここは駅員がいるので周遊乗車券は駅員に渡せばいいらしい。
まずは島原港に行って、三角港行きの出航時刻を確認しておく。
港に付近の案内図があり、九十九ホテルの案内図もあった。さすがにここは平戸と違って歩いて行ける場所だ。
案内図通り国道を南に進む。
あったあった。見えてきた。どうやら崖の上にあるらしい。入り口はどこにあるのだろう。
国道を左に曲がると入り口があったが、どうやら多少上り坂を登る必要があるようだ。
もちろん2〜3時間歩いたきのうの平戸のことを思えばたいしたことはない。
しばらく登ったら九十九ホテルの入り口が見えた。いつものようにチェックインする。
ここは崖に沿って建てられており、建物の入り口から上と下に部屋がのびているらしい。ぼくの部屋は上の方だ。
部屋に行くともちろん海が見える。島原外港の方に面した窓だ。
部屋には和室部分と洋室部分があり、洋室部分にベッドがあって、和室部分にちゃぶだいがある。
ここは部屋に食事を持ってきてもらえる場所である。
和室部分のちゃぶだいで食事となるのである。
給仕の人がやってきてめしの準備をするとどこかに行ってしまう。そりゃいろいろまわっていくのだろう。
平戸にもまして豪華な食事となった。
終わるとかたづけに来る。
食事が終わってしばらく休む。
とりあえず、なんとなく部屋の風呂に入りたくなり、湯を入れて入った。風呂からは島原外港近辺のあかりが見える。
風呂から出てそのまま眠る。あしたは9時の加津佐行きに乗ればいいので余裕がある。
そしてまた、朝が来た。朝食には早い時刻で、また大きい風呂に行くことにした。
風呂からは朝日が見えて、とても景色がいい。駅からちょっと離れているがなかなかいいホテルだと思う。
さて朝食は部屋ではなく食堂だ。ここも朝日が見えて景色の良い場所であり、申し分無い。
やっぱり海が見えるのはいいなあ、と改めて思う。
部屋に戻ってテレビをつける。
ありゃ、やじうまワイドがやっていない。同じ長崎県の平戸ではやっていたのに。
そういえば5年前に福岡に出張に行った時にやじうまワイドでなく、ローカル番組をやっていたことを思い出した。とすると、島原は対岸の大牟田あたりから九州朝日放送の電波を受けて放送しているからやじうまワイドが見られず、平戸は長崎の放送局なのでやじうまワイドをネットしているのかなあ、と考えた。
もうすぐ列車の時間なので荷物をまとめて部屋を出てフロントに向かう。
そしてチェックアウトだ。やっぱりゆっくり休むと気持ちがいい。
今日も歩いて島原外港駅に向かう。加津佐までは一般周遊券コースからはずれるため、加津佐までのきっぷを買う。
ホームに出てあたりをながめてみる。
あ、ねこだ。じ〜っと見つめた。やっぱり逃げてしまう。20ぴきに1ぴきぐらいなでさせてくれるねこがいるものだが、きょうは無理みたいだ。港の近くのねこは人なつっこいことが多いのになあ。
やがて加津佐行きディーゼル車がやってきた。きのう乗った列車はかなり新しめの列車だったが、今度は古い列車だ。おそらく通学客がいるときは新しい車両、いないときは古い車両を使っているのだろう。
列車は島原外港を発車すると高架に上がっていった。
右を見ると赤茶けた大地が見える。
これが火山というものらしい。
沿線の景色に、住宅が土の中に沈んだ風景が見える。
もちろん住宅が沈んだわけではなく、土石流が押し寄せて家を埋めてしまったのだ。
これを見ると改めて、世の中に安住の地はないんだなあ、としみじみ思う。
人間は、住める場所を追い求めて移り住むことを余儀なくされた生き物なんだと思う。
そしてようやく不通だった区間を過ぎ、高架をおりて深江駅に到着する。
なんとも元気そうなおばさんたちがたくさん乗ってきた。
しばらくして彼女たちが降りたと思ったら、また何駅かして別のおばさんたちが乗ってきた。
午前中のお客の最も少ない時間帯に、これだけの人が乗り降りしているのだから、島原鉄道は安泰なのかもしれないなあ、と思う。
ずっと海が見えた状態で列車は終点、加津佐に到着する。
いったん降りる。いちおう集落にはなっているようだ。バスが並行しているらしく、バス停もある。
なにもすることがないので直ちに島原外港行きのきっぷを買ってまた同じ列車に乗る。
結局帰りはずっと海を見て過ごす。松浦鉄道のことを考えると、海がずっと見える路線というのは気持ちが良い。
また島原外港に戻ってきた。港に向かう。
港の建物に入る。まっさきに目に入ったのが、「霧のため島原〜大牟田間は欠航」という案内だ。ありゃ。
幸いなことに三角港行き、熊本新港行きは運行しているらしい。
まずはほっとする。それから次にすることとして、ひょっとしたらここのフェリーは島原外港〜三角港の周遊船車券でそのまま乗れず、所定の券に引き替える必要があるかもしれないので、手近な窓口に行ってみてきいてみた。
「三角港に行きたいのですが」
「外にある小屋に行ってください」
なぜなのかわからないまま建物の外に出て、プレハブ小屋を見つけて、そこに周遊船車券を出すと乗船券と交換された。
これから乗るフェリーの会社は九州商船であるが、他にもフェリーの会社があって、何かの理由で九州商船以外の会社だけ大きな建物にきっぷ売場が置けるのに、九州商船は置けないのかもしれないなあ、と考えた。
そういえば今ある島原の港の建物の南に、建設中の建物がある。近づいてみると島原港と書いてある。
どうやら港は建物を引っ越し中で、経過措置として九州商船はプレハブに入っているらしいということがわかった。
しばらく待つと出航時刻が近づいたので乗船口に向かう。新しい建物に直結した形で乗船口がある。
航空機用のフィンガーのようなかっこうで、通路が甲板までのびている。とても便利である。車はさすがにふつうのフェリーと同様の入り口から入る。
甲板は特別料金を払わないといられない場所で、特別料金を払わない人はただちに階段をおりて下に行く必要があるということだ。めんどうなことが多いものである。
出航時刻だ。とてもさわやかな有明海である。
フィンガーが縮んでいく。
そしてフェリーは港を離れ、三角港に向けて進んで行った。
島原港を出たフェリーは快適に進む。そのうち長崎県側の山が全く見えなくなる。
熊本県側の陸地も見えず、有明海を進んでいるはずなのに広い海を進んでいるみたいである。
太陽もまぶしく、とても大牟田近辺が霧とは思えない。お客も少なく、甲板で海をながめていたがやがて飽きてしまい船室に戻る。
ようやく行く手に熊本県側の陸地が見えてきた。なんだか大きな橋が見える。おとといきのうと通った平戸大橋ほど大きくはないが、かなりの大きさだ。
どうやらこのフェリーは橋の下をくぐるらしい。
あの橋は、三角(みすみ)と天草(あまくさ)の島々を結んでいる橋のようだ。あの橋のおかげで天草諸島は九州本土と陸続きになっているということだ。とは言ってもいまだにフェリーはあるようだ。
そしてフェリーは橋の下を通る。フェリーが通れるように橋は海面からかなりの高さの所を通っている。左手は九州本土、右手は天草の最初の島である。
天草は鉄道がないので今のところ行く予定はないが、鉄道に乗り終えたらいつか行ってみたいな、と思った。今日は山鹿泊まりだ。
フェリーは大きく左に曲がった。
なんだか円錐の形をした変な建物が見える。どうやらあれが三角港の建物のようだ。フェリーは円錐の建物へと向かっていき、桟橋に接岸した。
島原と同様に、三角も飛行場のフィンガーのような伸びる通路が伸びてきた。でも島原のような高い場所の甲板ではなく、低い位置の所に来た。
ぼくたち徒歩客はその通路を進んでいった。この港は港のすぐそばにJRの駅があるようだ。
島原外港から乗って来たフェリーは、無事三角(みすみ)港に到着した。
フェリーに渡された歩行者用の通路は、なんだかよくわからないけど不思議な円すいの形の建物に通じていた。
建物の中は、別に不思議なものがあるわけではなく、ふつうの港にあるような乗船券売場とか売店とかがあるだけだった。
特に用事もないし、すぐ近くに三角線の三角駅があるので次の熊本行き列車の時刻を確認してみることにした。
駅前にはタクシーが停まっており、ぼくに話しかけてきた。
「今日どこ泊まるの?」
「山鹿。」
「山鹿か。天草行かないか?」
この駅にいるタクシーは、みんな天草行きのお客をあてにしているのだろう。
とりあえずタクシーは無視して駅へと進む。
1時間ほど時間がある。
駅前にはコンビニがあり、食堂もある。まずは食堂の方に入ってみようと思った。
「ナポリ」という食堂があったので入ってみた。
ナポリなのでナポリタンを頼んでみた。出てきたのは山盛りのスパゲッティだ。やっぱりカロリー消費の多い海の男向けで、山盛りなのだろう。昼食を食べていないのでありがたくいただいた。
店を出るところあいのいい時刻になった。コンビニでお菓子や飲み物を買い、駅に行って一般周遊券の「三角→熊本」の周遊乗車券を見せて改札を入った。まだディーゼルカーは入線していない。三角行きのディーゼルカーがそのまま熊本行きになるようだ。
やがてディーゼルカーがやってきたので乗り込んだ。
午後の熊本行きはけっこうお客がいる。年輩の女性と高校生風の女性が多い。
ディーゼル車は各駅に停車する。どの駅からも数人お客が乗り込んでくる。
景色は半島を進む路線の割には山の中を走ったりする。また海が見えてくる。今までフェリーに乗っていたにもかかわらず、列車から見る海っていいなあと思う。
そのうち海が遠くなり、鹿児島本線のレールが見えてきて宇土に着いた。そのまま鹿児島本線を進んで熊本だ。
ディーゼル車を降り、階段を渡って一般周遊券の「三角→熊本」の周遊乗車券を渡して改札を出た。
さて、これから九州産業交通バス(略して産交バス)に乗って、山鹿温泉に行かなければならない。
さてどこにバス停があるのだろう。
駅前の右側に九州産業交通バスのバスターミナルらしい建物がある。
まずはバスターミナルの前の停留所の案内を見て山鹿温泉行きを探す。ない。
次にバスターミナルの中の案内を見てまた探す。ない。
結局係の女性に聞いて、通りを渡ったところにあるバス停が山鹿温泉行きだと教えてもらった。
教えてもらった場所に行くとあった。発車時刻を確認すると、それほど待たなくても山鹿温泉行きが来るようだ。
やっとやってきたので乗り込んだ。さあ、出発だ。今日はあまり交通機関に乗らず、ゆっくりした1日だったなあ、と思った。
熊本駅の南東にあるバス停を出発した九州産交バスは、去年10月に乗った市電に沿って進んでいき、辛島町の近くの交通ターミナルに入っていった。
ここで何人か乗ってくる。熊本駅前から乗ってきた人よりも多かった。お客が20人くらいになったところで交通ターミナルを出発し、ここからは市電通りをはずれて北へ進んでいく。夕方は車が多い。
内陸に向けての道路のため、谷間を進んでいくのかと思ったが、ずっと熊本市と同じ平野を進んでいく。
地図では福岡から鹿児島に進む国道は熊本市の北ではJR鹿児島本線をはずれて内陸を通っており、どうやら今その国道を通っているようだ。しばらく景色をながめる。
平日の夕方なので女子高生らしい集団がいる。わっ!あの子スカートで足開いてすわっている!このままじゃスカートの中をまともにのぞいてしまいそうだったけど寸前で目をそらした。
そのまま山鹿の市街に入っていく。お客はどんどん降りていき2、3人になった。
「山鹿温泉」という名前だったが、なんのことはなく、山奥でもない普通の平野の奥の都市だった。
鉄道があってもおかしくなさそうな規模の都市で、全国にはこういう鉄道に恵まれない都市がたくさんあるようだ。
宿の人が言った「温泉プラザ」という停留所に来たが、終点まで行こうと思い、終点まで行った。
周遊船車券を渡してバスを降りる。九州産交のバスターミナルのようだ。さて、JRバスのターミナルはどこにあるのだろう。
見渡せば、九州産交のバス停のそばにJRバスの停留所もあった。とりあえず温泉プラザに戻ることにする。
やはり九州産交のバス停のそばにJRバスのバス停がある。ちゃんと瀬高行きだ。
いろいろ考えたが、九州産交バスとJRバスのバスターミナルは別々にあって、熊本に行くバスも瀬高に行くバスも温泉プラザを通るのだろうという結論に達した。さて、山鹿ホテルを探そう。
バス停のそばにホテルはあった。チェックインし、部屋に通される。
けっこう広い部屋で、どうやらきのう泊まった島原の九十九(つくも)ホテルと同じように、ふとんを敷く場所と食事する場所があるようだ。
そして食事のしたくをするので風呂に入ってくださいと言われた。仕方がないので風呂に行く。
風呂はけっこう広い場所だった。今回の旅は平戸も島原もここも温泉で、とにかく温泉には恵まれた旅だった。
部屋に戻ると食事である。宿代が高いだけあって豪華な食事である。まずは自分でごはんを盛る。
なんだか変な茶碗だと思ったが、湯飲み茶碗に間違えてごはんを盛ってしまったようだ。
めんどうなのでそのまま食べる。九州はうまいものが豊富である。3日間宿の食事はいい食事だったなあと思う。
窓の外を見るといつのまにか雨が降っている。テレビをつけると今日福岡空港を発着する航空機はのきなみ欠航だと言っている。
もし今日が帰る日ならめんどうなことになっていたようだ。
雨は降っているがあしたの天気はどうなるだろうかと思いながら眠ることにした。おやすみなさい。