cold 08


ひとってカラダとココロの二つでやっと一つ!
もちろんココロだけじゃただの”役立たず”で、
だからカラダだけじゃただの”木偶の坊”♪


――――病棟B二階回廊にて

 すぅ、という穏やかな呼吸で、今アリスは目の前で眠りに付いている。それを何度も慎重に確かめて、そっと火村は席を立った。ドアノブを握り、音がしないようゆっくりと回す。……この時ばかりは、この病棟が自動扉でないことを心から呪った。…しかし致し方ない。元々この研究所は、研究するためであって病院ではない。最新の医療器具が備えられている訳がない。

 カチャ、という音に、うん…という反応が返ってきて、一瞬火村はアリスが起きたのかと少し不安になり振り向く。…大丈夫、寝返りをしただけだ。ほ、として体を通し、またゆっくりとドアを閉める。ドアがぴったりと閉じても、ノブをぎりぎりまで握って最後の最後に放す。殆ど無音といってもいいだろう。
 立ち去る時も、ビニルの廊下に足音を響かせないよう、注意を払いながら歩いた。…戦闘中よりも、よほど緊張した。
 チカ、と視界にオレンジの光が射し込む。目を細めて見れば、日がもう沈もうとしている。そんなに長い間、アリスと会話していたのだろうか、自分は。

(……アリスをなだめる方に、時間を掛けすぎてしまったのかもしれない…)

 精神的に不安定になったアリス。…もっと的確に出来たなら体に掛かる負担も少なくなったかも知れないのに。己はただおろおろと、同じ言葉を繰り返しただけだった。朝井女史を呼べばよかったのだろうか。いや、自分が救いたかった…アリスだけは。
『理屈なんかやない…もう、どうしようも…っ』
 泣きじゃくるアリスを、火村は必死になだめた。きり、とくやしさを何処にもぶつけられずに、唇を噛む。
 何もない虚空を睨み付け歩く火村の脳裏に、ピエロの言葉が蘇った。

『彼ハ”ワンダーランド・プロジェクト”の生キ残リなのデス』




第八話 『空知雅也』
 ――――官舎669号室。  ピッという音がすると、黒の画面に、僅かなノイズが混じり、やがてこのPCの販売会社の宣伝デスクトップが現れた。何もせずに、向かい側にあるベットに座り、画面が変わるのを待つ。
 しばらく速報のニュースが流れるが、鬱陶しいとでもいうように、素早く画面が切り替わり、『只今アクセス中です』のテロップが流れた。
 
 火村は割り振られた一室で、端末から『ゼウス』を経由して、アクセスしているのだ。
 そして、再び電子音。
『はい、空知です』
「俺だ…火村英生」
 部屋に備え付けられた液晶のテレビに、一人の端正な男の顔が映っていた。画面上で、品のよい水色のスーツを纏い学者然、とした男が。にこり、と笑い首を微かに傾げる仕草に、頬に少しかかる程度の長さの髪がさらりと揺れる。…縁なしの眼鏡の奥にある、深い英知をたたえる瞳。すっと通った鼻梁。不健康にも思えるほど白い肌。瞼に凝視しなければ分からない程度のパール・ブルーのアイシャドウ。豪奢になりすぎない華麗さを得たまつげに、眉。
 火村がいつもこの男に対する時に感じる違和感。
 それが、今日分かり、真意とは裏腹に唇で笑みを形どってしまう。

『お久しぶりですね、火村さん』
「ああ、そうだな」
 流暢だった標準語が、少しなまった。相手が顔見知りの火村という事もあって、『空知雅也』のアイドルとしての仮面を剥がしたのだろう。
「……元気にやってるようじゃないか」
『ええ、まぁね。サイバー・アイドルなんて、すぐに廃業出来るんじゃないかと僕は思ってたんですが』
 それはない…と火村は思った。彼の顔に皺が幾重にも現れたなら、それも叶うだろうが。
 かつては彼が何故売れたのか分からないと真剣に考えたものだ。しかし、今なら分かる――――…アリスと出会えた今なら。
 アリスは、さながら恒星なのだ。その美しさは何処までも『生きて』いるからこその美。死してしまえば消え失せる、そんな儚げな。

 皆が何故『空知雅也』をほしがるのか、何故画面を通すと、こんなにも『空知雅也』に違和感を感じるのか…彼とは対極に位置する、アリスという青年と出会ったからこそ分かった。

 彼の美しさは、何処までも無機質なのだ。ガラスの箱に閉じこめられたガラス細工。
 永遠に欠ける事のない満月――――彼が放つ光は、人を狂わす。
 これは、又無機質という場所に存在を置く者としては、必然でありながら、最強の才能だった。彼が今でもこのサイバーネットワークの世界に君臨し続けられる一因だ。
 誰も、仮面の世界でリアルなんて求めていない。
 欲しいのは、触れても体温など感じない仮装をしたカリスマ。

「……よく言う。未だにその人気が衰えるような様子なんか、少しもないぞ」

 
 サイバー娯楽業界は、かつての娯楽業界の常識も、そして記録さえも遙かに上まわり、完全にとって変わった。二十一世紀の後半頃にグラフィックを使った少女キャラクターが一斉を風靡し、それを火付け役に様々な人間の手によってアイドル達が生み出されていった。十代を中心に、ネットが普及し始めた年代(ラブ・チルドレン)である、中高年まで幅広く人気を得たが、しかしグラフィックを使ったキャラ達が、全世代を把握する事はかつてなかった。サイバー・アイドルには所詮限界があるのだと、現実をみない空想家だけが満足できる虚実の存在なのだと、思われていた…いや、信じられていた。

 ―――――そう、『空知雅也』が現れるまでは。

 サイバー・アイドル(又はネット芸能人等とも言う)『空知雅也』は、年齢不詳の男性アイドルだ。デビューしてからの、現在までに至る経過を知らぬ者は、おそらくこの日本国内には一人としていないだろう。
 その他を圧倒する美しさで皆を魅了し、様々な声色を奏でられる喉……透明な旋律で紡がれた歌声で、現実世界から空想世界へと誘う―――夢の案内人。
 彼は、無数の数字で形取られた存在ではない。……今までにない、『生身』のアイドルだった。
 彼がデビューしたのは、二十歳とされているが、火村の記憶が正しければ、それは嘘だ。(おそらく情報操作だろう)彼が下界(時として彼が使う言葉で、これは現実世界を指す)から天上界(空想世界)へと飛び立ったのは二十歳後半だ。火村が大学院を卒業し、勤め初めて助手から助教授になるまで時折会っていたのだから、間違いない。

 彼は、特別精力的に活動を行った訳ではなかった。ただ、時折舞い込むCMや、映画などの役を一通りこなした程度だ。ああ、確かタップダンスも、リズムダンスもプロ並にこなしていた気がする。…歌って踊れる…しかし、彼は今までの有名芸能人の、半分ほどの働きすらしていない。だが彼が出演するCMの商品、映画はことごとくメガヒットした。いや、メタレベルまでに及んだ。
 彼のホームページは一日にしてカウンタは万単位を越したし、ゴシップ誌は我先にと彼の素性をすべて暴き立てた。彼が有色人種ではないと信じてやまない欧米人も多く、しばしば謝った情報が流れ、彼の失墜を狙った噂も横行した。…かつてない程の頻繁さで。(しかし本人の口から素性を語っても、人気は衰えなかった)
 『空知雅也』が世界人類に与えた影響は大きかった。彼をデビューさせた事務所も、おそらく予想外だった筈だ。
 
『少し、痩せましたか、火村さん』
「そういうお前こそ、イイ物喰ってる割には、全然変わらないな」
『あはは、画像処理してあるとか、そういうのはないですよ。それに、所得が増えたからって、本人が太らなきゃならないなんて一体誰が決めたんです。火村さんですか?』
「絡むなよ、悪かった、忙しい所に呼び出して。仕事詰まってるのか?」
『小説の方がね。……僕としては、こちらの方を本業にしたかった』

 『空知雅也』がかつて目指した職業が推理小説作家であることも、又その為に切羽詰まった生活の足しになるかとアルバイト気分でデビューした事も、皆が知っている項目の一つである。
 サイバー・アイドルの傍ら、彼は今でも小説を書いている。副業として。『空知雅也』の名は伏せて出版しているのだ。火村にも、そのペンネームを教えてくれるような事はなかった。知らずの内に、もしかしたら読んでいるかもしれない。
「教えて欲しい事がある」
『おや、火村さんが?ですか?』
「この情報過多の時代に、全てを知り得ようとする程馬鹿じゃない」
『………それって嫌みですか』
「違う、分かってる癖にわざわざ揚げ足とるな」
『………すいません』
 万人に与える笑みが、少し変化し、昔の空知雅也の表情が現れた…否、本来の空知雅也が顔を出し始めた。元来彼だって察していたはずだ。旧知の存在が、その目的以外に自分を呼び出す筈がないからだ。
「おそらく『空知雅也』にしか分からない事なんだ―――。」
 ばさり、と上着を脱いで、両手を組み合わせた。そして、ため息と共に言葉を吐き出す。

「教えてくれ、ワンダーランド・プロジェクトとは、一体なんだ?」

 一瞬だけれど、けれど確かに空知の眼差しが当惑に揺れた。…驚き、とも違う。何故今、という色に彩られた、戸惑いの色だ。しかし、表情を装う事に職業柄更に磨きがかかって、彼を見つめていた火村も確信出来ない。…彼が当惑しているのか、否か。

 数秒沈黙が流れると、空知は笑った。火村は見た。アイドル『空知雅也』ではなく、闇社会にすら君臨する…『空知雅也』の―――凄みさえ滲む笑顔を。ぞくり、と背筋に駆けめぐった感覚に、思わず体を抱きしめる。冷房は掛けていない筈なのに、確かに今この空間の空気が数度下がったと思った。
『火村さん。一回通信を切って、もう一度かけ直してくれますか』
「お前のPCに?」
『パスワードは分かりますよね?』
「………変わってないならな」
 にこり。この時初めて、空知はその瞳を閉じずに微笑んだ。もう先程の邪気はない。あどけないと思えるほどに、稚気が溢れている。
『じゃぁ、僕はセキュリティを解除しておきますね』
 返事をする前に、一方的に向こうから通信が途絶えた。…どうやらプライヴェートに話を進めたいようだ。直接個人のもう一つのPCに(今まで火村がアクセスしていたのは、事務用・仕事用の専用PCだ)アクセスしろというのだから。

 空知は、一つの趣味として、情報収集をしている。今の時代にその膨大な量の情報に対応するべく改造された空知のPCは、滅多に会話通信には用いない。…専ら情報処理の仕事に動いているからだ。
 ネットに支配された世界では、信憑性のある情報は、ある時流通通貨よりも価値を持つ事がある。まぁ、空知は純粋に集める事が好きらしいので、情報屋としての活動はしていないが。
 けれど金となる情報を集める以上、ハッカー対策は完璧だ。彼のPCのセキュリティはこれでもかと言うほど堅固で、彼から解除して貰わなければ、パスワードを知っていても無用の長物。空知自身、トップを競うハッカーの一人なのだ。社会的立場上(アイドルという地位を得たため)最近は活動を控えめにしていると豪語しているが、果たしてどこまで本当なのか。

 火村はこの点を、全く信用していない。学生時代は暇だからといって国防総省のホストコンピュータにハックしに行ったぐらいだ。
「………ふぅ……」
 頭をうなだれて、火村はため息を付いた。
 いつもなら、こんなに疲れてなんていない。……いや。空知と対峙してこんなに疲れたのは、今回が初めてだ。もう何年か付き合った友人だ、話をしていて疲れるなんておかしな話だ。

 彼の光に、当てられたか?
 …そうかもしれない。アリスの美しさを愛でた後に、彼の冷たさは心に染みる。
 包み込むような優しさを得られるアリスの側にいると、空知のような存在が疎ましく感じられてしまう。
(……違うな……)
 そうではない。今は、きっとアリス以外の存在なら、誰でも疎ましいのだ。きっと。
 アリス以外、自分の視界に入ることが許せないのだ。
 彼だけでいい…そう思う自分が今ここにいるのだ。

 火村がうつむいていた間に、PCは自動的に空知へアクセスしている。接続が完了したのを見届けると、火村はパスワードを呟く。

「『key of the mirror』」

 きゅるきゅると音がして、再び空知の顔が目の前に現れる。

「……パスワード変えてないのか」
『変えてもいいですけど、知り合いに連絡するのが面倒でしょ』
「……それにここまでこれないもんな、大抵」
『ええ、こさせませんね。パターンは今や二百を越してますし。』
「お前、情報産業の方が向いてるんじゃないのか。……他には警視庁の対策チームに入るとか」
『この仕事を引退したら、考えます』
「お前がいたら、しょっちゅう警視庁のホストが進入されるなんて失態が少なくなるのに」
『そうですね、甘いですよあそこ。二秒で壊れましたからね、壁』
「…………壊すな。もしかしなくても、最近進入しなかったか」
『もしかしなくても、しました。………というか、させたのかな』
 歯に何かが挟まった様な言いぐさに、少し火村が眉をひそめた。
『愛弟子にね、卒業試験として進入を……』
「……なんて師弟だよ、ホントに」
『…………おや、嫌な言い方ですね。ちゃんと火村さんの役に立てるいい子なのに。』
「………なんだって?」
『片桐クン、て人。そこの研究所に入所しませんでした?彼、結構優秀なプログラマで、ハッカーですよ』
「片桐…?知らねぇな」
『そう?ま、そのうち会うでしょう。……で?本題は何でしたっけ?』
 机に肘を乗せて、くす、と笑う空知は、少年の様にわくわくとした表情をしていた。
「ワンダーランド・プロジェクトだよ…」
『そうそう、それでしたね。略して通称WRP。―――今時珍しく研究者達が集った右翼団体ですよ。……少々宗教がかったね』
 火村さん、知らないんですか?悪戯っ子の眼差しで、言う。さっきまでの空知とは全く違う態度なので、このギャップに慣れるのにはまだ少し時間がかかる…いつもだが。

「誰がそんな上っ面の情報聞きたいって言った?……一通りなら俺だった知ってる。そうじゃなくて、……」
『分かってます、ちょっと待ってて下さいね…』
 苦笑して、空知は席を外した。あの笑顔からすると、どうやら火村をからかいたくて言ったようだ。いつもながらコレにもうんざりする。
 横の別のPCでデータを引き出したのか、横を向きながら火村に話しかけた。
『……ええと、この団体の目的は、統一政府による絶対政権反対。…まぁ、他にも小難しい事言ってますが、ようするに『ゼウス』の破壊…ですね。コンピューターに支配される世界を絶対悪として、喧々囂々。結構激しいテロ活動もしてました』
「協力者…いるんだろう?」
『ええ、体の弱い研究者達が戦闘する筈がありませんからね。もちろんいました。今の木々田政権、あるでしょう。正確に追求はされなかったので発表はされませんでしたが、小松官房長官自らこのプロジェクトに協力してたみたいですよ』
「内閣にそんな人間がいたら、色々面倒な事になったんだろ」
『ですから、これは極秘ですね。警視庁がもみ消ししたみたいですけど』
「………ったく、だから市民の信用をことごとくなくしてんだよ……」
『あの当時世界統一政府に睨まれてたら、つまはじきは目に見えてましたからね。食料の殆どを輸入に頼ってる日本が、世界につまはじきになんかになったら、一ヶ月もしないうちに国民の半数は餓死します。倫理的にどうかとは思いますけど、首相の判断は正しいですよ。もしも馬鹿正直に警視庁に捜査なんかさせてたら、愚の骨頂です』
「だからってな、三権分立が崩れたら元もこうもねぇだろ」
『ま。大は小をかねるっていいます。……話が逸れましたね、ええと。ああ、WRPでしたね。……ふんふん』
「………なんだよ」
 意味ありげに頷く空知をみ、火村は苦虫をつぶした様なしかめツラをした。
『ねぇ、火村さん。数十年前のWRPの事なんか探ったりして、一体どうするんです?』
「関係ないだろう。…お前には」
『……情報を提供した身としては、このネタの使い道ぐらい知る権利はあるでしょう?』
「………知り合いが、それに関わってたみたいなんだ」

 一人…生き残ったアリス…。

「なぁ、その団体は取り締まられたんだろう?」
『それがですね…警察に研究員の殆どが逮捕されたのはいいんですけど、』
「……ど?なんだ?」
『………その全員が、自殺しています』
「……………なん、………っ!?」
『……この頃僕らまだ学生でしたけど、こんな情報一っ言も流れませんでした。政府が国民に影響を与えるといってこれも…』

 そう言って唇を閉じる仕草をする。

『……その彼ら全員。死ぬ直前に不思議な事を言ったらしいですね』
「不思議な事?」
『”聖母を崇める者、歪んだ正義に膝まづくがいい!この世界を救うのは…”』
「は?なんだ?」
『…そこまで。後は記録に残ってません。あーあ、誰だよ取り消し線なんか引いた馬鹿は』
「……聖母を崇める者…」
『この言葉に意味があるかどうかは分かりませんけど、どうやら完成していない研究体が、研究所に一体あったみたいです』
「……それ、!!」
『え?これですか?……いや、すぐに回収されて、処分されてます…。ああ、人造人間作ろうとしてたんですね。脳内に『ゼウス』の破壊プログラムを組み込んだ…ね。はぁ…それで、きっと『ゼウス』中心部に送り込んで、破壊するつもりだったのか…。当時としては、かなり凄い研究ですね』

 人造人間の製造は、当時既に禁止されていた。

『……DRっていうナンバーで、全部で8体。うち4体は失敗。残りは…記録にありません』
「処分された研究体のナンバーは?」
『書いてません。つけられてなかったのか…』
「……本当にそう思うか?」
『思いません、これ、ダミーでしょう。製造ナンバーを付けない研究体なんてありえませんから。誰かが隠したんでしょうかね…』

<……俺は、何かの目的の為にずっと、あそこで眠っとった……。あの装置の中にいるとき、俺は何か、ずっと強く願ってたんや……>


 アリスが願っていたのは、『ゼウス』の破壊?
 誰だ…アリスを研究所から連れ出し、ずっと眠らせていたのは。
 政府が立入禁止区域に指定した、あの遊園地の地下を十数体のトイに守らせていたのは?


「……空知、」

 あの禁止区域は政府が買い上げたものだ…しかし、以前のオーナーの記録ぐらいは残っているだろう。それを調べ、(まさかすぐにたどり着くとは思えないが)とりあえず当たってみようと思いいたる。
「もう一つ調べて欲しい事が……」
『……なんです?』
「すまないな……実はな、その……」
 019禁止区域。そう言いかけた火村の唇が、次の瞬間強張った。

『……コンニチワ、『黒の騎士』――――…マタお目にカカレましたネ』

『火っ…―――!!』
 それまで映っていた空知の顔が歪む。空知の声が悔しさで滲んでいたように思えたのは、勘違いではないだろう。鉄壁のセキュリティに守られた思えた会見は、突然の侵入者に妨害された。空知に気づかせずに進入するなど、ただ者ではない。
(……まぁ、ただ者である筈がないか……)
 空知が、すぐにこの研究所のシステムに進入し、この侵入者を一刻も早く排除する事を祈りながら、火村は静かに立ち上がった。煙草を取り出し、口にくわえる。火は付けずに、ただ上下におどけるように動かす。
「……アリスにやられた怪我はどうした?」
『…………復旧デキルよウな怪我ニ見えたのデスカ?『黒の騎士』』
 ふん、と不敵に笑う。
「…いいや。じゃぁ、お前は別人…いや、別物って事か?」
『アナタのデータは、アレを通じて全て回収シマした。恐らくアナタには、負けナイデショウ。―――『ALICE』を目覚めサセ、無様ニモあなた方フタリを逃がシタアレと一緒にシナイでクダサイ』
 くすくす、と喉の奥から漏れた笑い声が、やがて嘲笑に変わるのに、時間は掛からなかった。
「これは失敬。俺にはトイを見る能力が低くてね。見分けが付かないんだ。全く同じ奴に見えるよ。ピエロ」
 目の前に、アリスが破壊したはずのトイ…ピエロがいた。あの時と全く同じ形姿で。
 キルキルと、仕掛け人形が動く音が、火村の部屋じゅうに響き渡る。この不気味沈黙を破ったのは、ピエロだった。
『―――――忠告シマス。『黒の騎士』。今スグ『ALICE』を我らニ返シなサイ』
「取り戻したアリスを、どうするつもりなんだ?」
『……ソレハ、マスターが決めるコトデス。アナタは、ただ、『ALICE』を返しサエすればイイ』
「いやだ、と言ったら?」
 それまで、なんの表情も表さなかったピエロが、初めて「笑った」

『アナタの元に、聖母の祝福が――永遠ナル眠りガ訪れル――ただ、ソレだけのコトデス』





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+Atogaki+
*こんにちわ、真皓です!第8話『空知雅也』をお送りします♪まだ空知さん退場した訳じゃないですよ!もちろん。真皓空知さん大好きなんで、後々も出したい。……それにしても、片桐さん空知さんの弟子発覚!!……真皓だって知らなかった(笑)…片桐さんが空知さんの弟子だったなんて。一体なんの仕事してたの片桐サン…。世界的アイドルとお知り合いになるなんて…(爆笑)
*火村先生と、空知さんは、真皓の世界では友人です。というより悪友。出会い、なれそめは知らん!!(爆笑)そこまでは考えてない。……とりあえず、火村先生のカッコよさがしばらくなかった気がしたので、思わせぶりにして終わり(笑)……ああ、皆ハラハラしてるのかな♪真皓もしてますよ。アリスは寝てるから、がんばれ先生!!研究所を守るんだ!!……でも火村センセアリス以外守らなそう。守ったら火村先生じゃないけど。(じゃぁどうすればいいやねん!!←一人ボケつっこみ)
*適度にオチが付いたところで、失礼します……。真皓……テスト大丈夫なんか……汗。本当に。
2000/7/17 0:04 眠い筈さ……。   真皓拝

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