第十二話 ですてにぃ


悲しくなんかないよ
「君がいるから」


 いつもの日課で『点』を点検に来たら、いつもと様子が違ってた―――なんて言うのは、普通じゃないよね?

 ひゅぅ!と風が突き抜けた。青島の横にそっと寄り添う新城は、いつも以上に顔をしかめながら舌打ちする。ふ〜ん、珍しい事もある、と内心思う。彼は滅多にこんな事はしないからだ。本当に変わった。

「趣味が悪い」
「まあまあ、そう怒らないでよ新城さん。どうして貴方が怒るのさ」
「お前は憤りを感じないのか!?こんな真似されて!!」

 ばっ!彼が指し示した先にあるのは、かつて青島が壊滅に追い込んだ者達の…家々。それも完璧に再現されている。殺戮と言っても過言ではなかったあの戦いは、一面が瓦礫になる程のものだった。それにアレは数百年前の事…ここにこんな風に存在するなんてあり得ない。

『ころさないでぇ…』

 びくっ!と大きく青島の肩が震えた。はっと足元を見れば、血を流した少女が、地面から顔をだしている。実体ではなく、透けて見える。
 がしっと細いのに思いがけない力で青島の足首を掴み、引きずり込もうとする。青島はただ目を見開くばかりで、何も出来ない。

「青島ッ!!」

 激しい叱咤の込められた声に、その少女はか細い悲鳴を上げて消えた。拘束していた力もなくなり、ひゅっと体が軽くなった。

「馬鹿者!何ぼおっとしてる!?たかが幻影ごときにッ」
「あれ……俺が、殺した子……」
「なに…―――?」
「何人目かも、覚えてる…そぉう…気が遠くなるような…くらい…殺し…」
「しっかりしろッ!」
「大丈夫だよ、大丈夫。イッたりしてないって」
 手を軽くふり、新城に笑う。新城は納得のいかない顔つきで無言だった。
「しかし…見事にイタズラされたな…」
「うん。新城さんトコもこんな事あった?」
「あぁ…一度だけ、な。過去の事を……」
「そう…。えげつない事するね、吐き気がしてきた」
「私もだ。さっさと犯人を挙げるか?」
「そうだね…さっさとね…―――――え?」

 さっと青島の顔が曇った。それに反応するように、空も曇っていく…太陽が、隠されていく。

「青島……?」
「………なんで?」
「青島?おい?」
「なんであの人の気配があるの!?」

 どうして、ここに室井の気配を感じる!?普通なら問題なく人間でも入れる場所だが、今は違う。過去の現状を質感ともに再現するという、ある種特殊な状態になっている場合、その術者(それを行った者)が招かない限り、入る事など出来ない。入ろうとしても気づけば違う所に来ている、という事になる筈なのに…。
 人間である室井が、この場所に入れる訳がない…―――そう、誰かが…誰かが招かない限り!!

「あの人?待て、ちゃんと説明しろ、青島!」
「室井さんが…だから、あの、人間の男の人が一人、入って来ちゃってるんだ!!わかんない!?」
「……なんだと…?」
「あの人オーラ出さない人なんだッ。でも俺分かるんだよ…!」
 新城は眉をひそめ、くっと目を細めた。青島同様に気配を探っている。
「すまない、私には分からない…。確かに酷く稀薄な気配は一つ感じるが…?」
「それ、それなんだ!!」
 なんで!?と小さく叫びながら、青島は地団駄を踏む。どうして、どうしてここにいるのか!?ここはもう間もなく…確実に戦いの場になるのに!!

「……最悪…なんでだよ……」

 こんな場面に付き合わせない為に、離れたのに。
 怖がられて、離れられる前にと。

「………なんで、俺の名前呼ぶの…?」

 そんな、声で。

「聞こえてるよ……もぅ…!」

 耳を押さえ、震えながら囁く。
 泣きそうな、けれども歓喜にも見て取れる表情をする青島に、新城は少し驚いたが、すぐ言った。

「分かっているだろうが、早く探し出して保護しろ。私は…」

 すっと怜悧な眼差しを地面に向けた。そこから、無数に伸びてくる透明な手のひら。
 新城はすっと手を掲げたかと思うと、細い鞭を持ち振り下ろした!ピシッと乾いた音が当たりに響くと、さっと蠢いたいた手が消えた。爽快すぎる程あっさりと。

「雑魚を、片づけておいてやる」



 俺は走った。ただひたすら。
 飛んでもよかったが、敢えてしなかった。ここで力を振るったら、張られている結界の均衡を危うくするからだ。ここに結界を支える柱…『点』がある限り、むやみに実力行使は出来ない。

(室井さん…―――室井さん室井さん室井さんッ)

 っ、と息を飲んだ。なんで名前を心で囁くたびに、こんなに苦しいんだろう?
 一週間……たったそれだけ。
 無表情の彼が時折見せてくれる『優しさ』が好きだった。
 彼のオーラはとても美しくて、綺麗だった。儚い色合いを醸し出す…その癖ここと据えた時にだされるあの強さ。…何もかもが、すごい人で。
 楽しかった。
 わざと無茶したりもして…心配して欲しくて。

「……い、さん…!」

 近づく、あの懐かしい暖かいオーラ。
 僅かに傾斜している坂道を走りる。息が切れてきた…そうか、まだ解除していなかった。どうしようか、己で封じた己の能力、解放するか?
 けれど反問しているうちに、公園についた。目的地に、着いた。
 目の前に広がるのは大木。生い茂る青い葉…風に揺れてはさわさわと音を奏でる。

 その根元にいるのは、自分と…――おかしな話だ、己は確かにここに…公園の入り口に立っているのに…そこにいるのは自分の姿をした奴と…――私服姿の室井さん。
 いつものスーツではなくて、少し動きやすいようにと思ったのか、カジュアルな服を着こなしていた。白いセーターが、この薄暗い中でとても映えて、目立つ。

「もういいや。分かった…しょうがないな。エレガントじゃないけど、やるしかないや」
 自分の声と、なに?と小さく問い返した室井さんの声が聞こえる。


 釘付けにされたように、俺はじっとその光景を見つめていた。


 今の自分と全く変わらない姿をした男が、立っていた。その男が、息を切らしている俺に向かって指を指す。それにつられて、室井さんがこっちを向いた。
 はっと顔を強張らせる。

「あお……しま……っ!?」
「室井さんッ!!」

 なんでそう叫んだのか分からない。この時言うべきは、彼の名前じゃない。そう、そうじゃない。
 今、早く、言わなくては…―――!
 息を整え、乾いた唇で叫ぼうとした瞬間に、彼が少し微笑んだ。

「――――――っ」

 その笑みに、心が乱れる。
 どうして笑うの?そんな…嬉しそうに。今まで、一度だって見てない、そんな顔。
 苦しくて、なぜだか苦しくて、俺は泣きそうだった。
 にじみかけた視界に、すっと横切った俺と同じ顔の男…―――。

(……あ、いつ…―――!)

 自分と、同じ気配。
 しっくりとなじんで、違和感がない。
 犯人だ、と直感で分かった。『点』の聖なる力に押される事なく、こんなに接近でき、かつこんな風にイタズラ出来る…――――クローン、だ!

「そいつから、離れて…―――――!」

 え?と彼の瞳が問いかけてきていた。その時自分はもう走り出していて、彼を助けようとしたけれど。

「やめろおォ――――――――ッ!!」

 釘付けにされたように、俺はじっとその光景を見つめていた。


 室井さんが、倒れる瞬間を…――――。



back home next


ぐはあああああ!!(再び)進んでねぇぇぇ!!!
……ども、こんばんは、真皓でっす(汗)
進まない…進まない…愚劣な終わり方に変わりない…(涙)
次回はもうちょっと進めてさぁ…そろそろ一部終わりにせんと(遠い目)
しっかし…新城さんカッコいい…(悦)鞭…鞭使いですか(笑)
似合いすぎるわぁ…。
実は新城さんの過去、真下との出会いの設定も考えたのよね(遠い目再び)
書きたいな…でも永遠にこれも終わらなくなるぞ、いい加減(汗)
今月中に終わらせたいな…(ため息)
01/2/19 真皓拝

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル