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小妖精の唄

◆木霊の日記帳 揺れる想い
蒼い不規則な揺れが寄せては返す 天気の良い 航海日和。
私とタニア君は北風の吹く冷たい海を船で乗り越えようとしていた。
ぎぃぃ  きぃぃ
渾身の力を込めてオールを振り回す度に小船は傾き、抗議を上げるかのように軋む音がする。
最初は船に乗っていたタニア君だがあまりの揺れに船酔いしたらしく、小さな羽根を羽ばたかせて私の周りを飛び回っていた。
岸が遠くに小さく見えるくらいになってから私はおもむろに鈴を鳴らしてみた。
 リィン・・・チリィン・・・

「1人・・・2人、3人くらいはいると思う、多分」
「そっか、んじゃ一番近そうなのはどの方向か分かる?」
「あっち。」
「うぃ、んじゃそっちに行く〜」

てな感じであっさりと目的地が決まった。

「この辺だよねぇ・・・いるかなぁ?」
「呼べばいいだろう。いれば顔くらい出すだろ」
「その案承認。 おーい、誰かいないですか〜?」

んで、待つ事数分。 私たちの前に顔を出してくれたのは・・・。

「エスはいないの?」

ちょっと拗ねたように声をかけてきたそのコは気の強そうな眼差しで私とタニア君を見つめていた。

「あー、うんうん。エス君は前に会ったけど・・・今は何処かにいる。 そっか、エルさんかぁ」
「私の事知ってるの?」
「まぁね、とは言っても名前だけだし、お話は聞いてたけど実際に会うのは始めまして。 私は木霊、んでこっちのコはエターニアことタニア君。よろしくぅ」
「そう・・・よろしく。 そう言えばマスターが何か言ってたかも」
「ま、ろくな事じゃないだろうし、聞かないでおこう。 あ、そだ。マスターさん探してたよ」
「本当?」
「うん、連絡は入れておいたけどちょっと時間かかるみたい」
「迎えに来るの?」

などなど、お喋りを繰り広げる私の袖をタニア君がそっと引っ張った。

「ん・・・。どしたの?」
「なぁ、木霊は仲間を探してるんだろ? なんで連れて行かないんだ?」
「連れて行けないよ、友達の仲間さんだもん」
「何でだ?」
「再会したいんだよ、やっぱり。 それに、不殺解除されたくないしね」
「そうか・・・」

すこし俯いてしまったタニア君。何か、悩んでいるのかな。

「さぁて、んじゃ長期戦になりそうだし、ゴハンにしようか♪」
少し無理をして明るく声をかける。相手を明るくするのにはまず自分から。
「長期戦って、何の?」
「エルさんのマスターさんが迎えに来るまでの護衛・・・邪魔だったら退くけどね」
「・・・好きにしろ。 俺も腹減った」

献立は固形スープに私が釣った名前も知らない魚を放り込んだ鍋風味。それと買い込んだパン。
いい感じに湯気を上げる鍋をかき回した私は近くにいるエルさんを手招きして呼んでみた。

「何か用?」
「うん、良かったらゴハンを一緒にどうかなって。2人より3人のほうが楽しいでしょ」
「アタシのマスターでもないのに?」
「細かいことは気にしない。 どうする、味の方はちょっとだけ保証するよ」

迷うように沈黙したエルさんのお腹からくぅっと可愛い音が聞こえた。

「ぷっ。 無理するなよ」
「なっ、笑ったわねっ。 もうっ、エスみたいに生意気ぃ!」
「はいはいはい、ここでケンカしなーい。ゴハンが美味しくなくなる」

私の一言でとりあえず休戦協定が結ばれたようだ。
タニア君じゃ勝ち目はないんだからケンカ売らないでヨ頼むから(汗)
鍋に放り込んだ魚はぶつ切りだったので身をほぐして二人に取り分けてあげる。彼女らのサイズじゃさすがにかぶりつくのも身をほぐすのも大変そうだったから・・・。
渡された器に泳ぐ魚の身をじぃっと見つめていたタニア君が不安げに口を開いた。

「・・・なぁ木霊ぁ。この魚、食えるのか?」
「いや、知らない。 火ぃ通せば大丈夫でしょ?」
「ちょっと待って! 食べられるかもわかんないのに食べるの!? 信じらんないっ」
「もしかして、俺ら毒見役とか・・・?」
「いやいやいや、そんな気持ちは全然・・・。んじゃ、私が先に食べればいいんだよ・・・ねぇ?」
「当然でしょ?」
「まぁ、俺はそこまで言わないけど・・・」

なし崩し的に私が鍋の毒見役になってしまったようだ。
考えても見ればさっきから味見したりしてるが問題ない。平気そうなのだが、改めてそう言われるとさすがに食欲も失せるというもの。 しかし二人の手前、イヤとはとてもじゃないが言えない。

意を決して魚を口に入れる。 もくもくもく・・・。

「えーっと、普通の魚の味。美味しい・・と思う」
「何それ」
「大丈夫そう・・・なんだな?」

更に不安そうな表情を浮かべる二人だが、おそるおそるスープを口に運び始める。どうだろう、美味しいって言ってくれるのだろうか?
料理する人が一番ワクワクして一番不安になる瞬間。

「うん、まぁまぁだな」
「ホント、意外と食べられるじゃない」
「そ、そう・・・? 良かったぁ」

不評・・・というわけでもない反応にほっと胸をなでおろす。
小一時間後には鍋の中身はすっかりカラになってしまい。まったりしている私たちがいた。
まったりしていると、必然的に昼間の力仕事の疲れが襲ってくるわけで・・・
しかも波が心地よく船を揺らしていたりするわけで・・・

「ぅー、眠い〜」
「木霊は寝てろよ。俺が見張りをする」
「らぅ・・・、エルさんは〜?」
「・・・ちょっと離れた所で寝てる、ちゃんと見える場所だから、平気」
「そか・・・んじゃ。・・・ごめん、タニア君おやすみぃ〜」

正直、眠たくてしょうがなかった私はあっさりと爆睡してしまった。

「・・すたー。 ・・・ろ。 だ・・・、・・・きろー」

・・・。

「・・・木霊起きろっ! よだれたれてるっ!」

げっ、まぢですかっ!?(じゅるるっ

「よし、起きた。 木霊、俺ら流されてるんだけど・・・」

ぁ・・・? そういえばなんだか景色が違うような・・・。
そんでもってタニア君、おでこにケガなんてしてたっけ・・・?

「ゴメン、エルの事・・・守れなかった、俺・・・」

悔しそうに俯くタニア君の声で、大体の事が分かった。
私の寝ている間に、誰かに襲われ。負けたのだ・・・。

「タニアくんが悪いわけでもないよ。頑張ってくれたんでしょ?」
「でも・・・俺・・・」
「Veralnaさんには報告入れておくから。 私からちゃんと謝っておくし、タニア君は気にしないで」
「・・・ごめん」
「いいから、とりあえずケガを直さなきゃね。陸についたら一度、家を建てよう」
「・・・。」
「少し休もう。 私も結構焦ってたし、タニア君に無理させたみたいで・・・。寝てていいよ」

くしゃくしゃになってしまったタニア君の金髪をそっと撫でる。
広げたタオルにくるまって早々と寝息を立てたタニア君を見て、私はこっそり溜息をついた。
タニア君は私のことを思っていてくれるのにね・・・。私は誰か他のコとか、別れたコの事をずっと考えていたり・・・。
今、一緒にいるのはタニア君だけなのだから・・・。彼の事もちゃんと考えてあげるべきなのに。
つらい想いを、させてしまったかな。

マスター失格だ、私は・・・。

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