まもって守護月天!オリジナル小説

「万難地天の恋愛事情」

 

 

第四話 壁が崩れ落ちるとき

 

 

鶴が丘市のとある自然公園、今はちょうど昼過ぎで、人もほとんどいない。

そんな中、一人の少女が白く小さな小鳥に語りかけていた。

キリュウ「・・・・なあ、文殿、これでいいんだよな。」

寂しげな瞳には、まだ、涙の跡が薄っすらと残っていた。

キリュウ「私は万難地天、試練を与える精霊なのだから・・・・人を好きになってはいけ
ない・・・・」

それが、一晩中考え、苦しみ、涙を流した結果、キリュウの出した答えだった。

キリュウ「私は、主殿や那奈殿が幸せになってくれればそれでいい、そのために私は
今、主殿に試練を与えている・・・・」

キリュウ「それが、精霊の宿命だから・・・・」

そう口に出したとき、悲しい顔をしていたシャオと一生懸命に自分の試練を受けてい
る太助の姿がキリュウの脳裏をよぎった。

キリュウ「私は・・・・矛盾してる・・・・のか・・・・」

太助は、シャオを守護月天の宿命から解き放つためキリュウの試練を受けている。実
際、キリュウも太助なら出来ると思っている。だが、頭のどこかで精霊の宿命は逃れ
ることのできないことだと思っている。

キリュウ「私が主殿の目標を否定していたのか・・・・」

キリュウは罪悪感に包まれた。

キリュウ「・・・・どうして・・・・私達精霊には宿命があるのだろう・・・・そんなもの無けれ
ば、シャオ殿もルーアン殿も私もこんなつらい思いしないで済むのに・・・・」

もはや、キリュウには肩の力を抜く余裕はどこにもなかった。いくら考えても答えの
出ない問題に突き当たり、気持ちはどんどん張り詰めていった・・・・

 

 

 

 

一方、秀一は霊能力を使いキリュウの居場所を探していた。

秀一「学校の中の二つの強い霊力はシャオちゃんとルーアン先生、近くの建物の弱い
妖気は低級霊か・・・・ん?ここから離れたとこにシャオちゃん達と同じくらいの霊力・・
・・キリュウちゃんか!」

霊力の感じる方へ秀一は走っていった。

と、そこにどこからともなくなく一人の少女が現れた。

秀一「・・・・君は・・・・」

その少女は秀一をにらみつけるようにじっと見つめていた。

フェイ「・・・・秀一・・・・あなたを・・・・試します。」

秀一「な、何だこのすさまじい霊力は・・・・。ぐっ、うわぁ〜。」

フェイが手のひらを空に向かって上げた。すると、まばゆい光があたり一面を白一色
に染め上げた。

その光が輝きを消したとき、秀一の姿もフェイの姿もその場から消えていた。

 

 

 

 

秀一「(・・・・ここは一体・・・・)」

秀一は体を起こし、あたりを見回した。

フェイ「・・・・気がついたか・・・・」

秀一「君は確か太助の家にいた・・・・フェイちゃん・・・・だっけ?」

フェイ「それはシャオリンが勝手につけた名前だ。」

秀一「それじゃ本名は?」

フェイ「残念だが、今は教えることはできない・・・・」

秀一「それじゃ質問を変えよう・・・・一体何をしたんだ。」

フェイ「・・・・あなたを、過去の世界に連れてきた・・・・」

フェイの言葉に少し驚きはしたが、もはや何が起こっても混乱はしなかった。

秀一「それじゃ、なんで俺をここに連れてきた?」

フェイ「あなたを試すためだ。」

秀一「・・・・ため・・・・す?」

フェイはコクッと頷き、意図を話し始めた。

フェイ「これからあなたに、万難地天の記憶を見せる。その後、あなたに幾つかの質
問をする。その質問に答えられた時、あなたとキリュウの間の壁、すなわち、人間と
精霊を隔てる壁は越えられるだろう・・・・」

フェイの言葉の意味を理解し、秀一は真剣な目つきに変わった。

秀一「・・・・ああ、分かった。」

フェイ「それではキリュウの元に行こう。私につかまれ。」

秀一がフェイの手を握ると目にも止まらぬ速さで、上空に飛び上がった。

 

 

 

 

しばらくすると、集落のようなところについた。

秀一「・・・・ここにキリュウが・・・・」

フェイ「そこにいる。」

フェイが指差した先にキリュウと主らしき男性がいた。どうやら、試練の最中のよう
だ。

キリュウ「万象大乱!」

男性「うわ〜・・・・」

巨大化した植物が男性を襲った・・・・と、そのとき突然一人の女性が男性をかばって植
物にあたってしまった。

男性「な、おまえ。」

女性「あなた・・・・大丈夫?」

どうやら夫婦のようである。

女性「どうして?どうしてこんなことするの?いつもいつも主人を傷つけて・・・・私達
に何の恨みがあるの・・・・」

男性「何度も言おうと思ってたんだが・・・・おまえは迷惑なんだ。出て行ってくれ!」

キリュウは無表情でつぶやいた。

キリュウ「・・・・分かった・・・・出ていく。」

そう言い残しキリュウは短天扇に乗って飛んでいってしまった。

男性「やっといなくなったか。」

女性「まったく、人騒がせだったわね。」

二人のやり取りを聞いてフェイは秀一につぶやいた。

フェイ「人間とはなんと愚かな生き物なんだ・・・・そう思わないか?秀一。」

秀一「・・・・確かに・・・・勝手すぎるよな・・・・」

フェイ「あなたのキリュウに対する想いも所詮あの程度だろう?」

秀一「な、そんなことない!俺は、たとえどんな試練でも受けるさ、それでキリュウ
がずっと側に居てくれるんだったら・・・・」

フェイ「フッ、その言葉、一応覚えておく。・・・・さて、キリュウを追うとしよう。」

二人は飛んでいったキリュウの後を追った。

 

 

 

 

小川のせせらぎが静かに響き、小鳥のさえずりがあたりにこだまする。

そんな中、キリュウは途方にくれていた。

キリュウ「(また同じ・・・・か。私なんて、所詮必要のない精霊なんだ。)」

試練など好んで受けるものなどいない、今まで何度もキリュウは主に虐げられてき
た。今までも・・・・きっとこれまでも・・・・

果たしてキリュウの試練を乗り越えられた者はどのくらい居たのだろうか?

きっとほんの一握りしかいないだろう。たとえ乗り越えたとしてもキリュウに感謝す
るのは彼女がいなくなった後である。

キリュウ「・・・・消えてなくなってしまいたい・・・・」

秀一「・・・・なぁ、フェイちゃん・・・・キリュウのこと慰めてやりたいんだ。・・・・だめか
な・・・・」

好きな人が目の前で落ち込んでいる。誰だって慰めてあげたいと思うはずだ。

フェイ「・・・・だめだ。ここは過去の世界・・・・あなたがもしキリュウに会ってしまった
ら歴史が変わってしまう。」

秀一「頼む、少しでいいから時間をくれないか・・・・」

フェイ「だめだ。」

その後もしつこく頼んだが、フェイは「だめだ。」の一点張りである。それでも頼み
続ける秀一にフェイはふと、問いかけた。

フェイ「それでは、あなたに聞く。あなたはキリュウが好きなのだろう。もしここで
接触して歴史が変わり、出会えなくなったらどうする。今、ここでキリュウを慰めた
ら確かにキリュウは元気になるかもしれない。だが、あなたはキリュウのために自分
が不幸になっても良いというのか?」

秀一「確かにここで会っちまえば現代で出会えないかもしれない・・・・でも、それでキ
リュウが立ち直ってくれるならかまわない。出会えなくても、世界中探してキリュウ
に出会ってみせる!」

秀一の決意にフェイは少し驚いたがフッと笑みを返した。

フェイ「(最初の問いは合格・・・・か。)・・・・分かった、少しだけ時間をやろう」

 

 

 

 

キリュウ「・・・・短天扇に戻ろう・・・・」

キリュウが短天扇を開きかけたとき、ふと、誰かに声をかけられた。

占い師「・・・・そこのお嬢さん・・・・」

それは、占い師の老人に変装した秀一だった。

キリュウ「私のことか?」

秀一「左様、おぬしのような美人を見るのは初めてだ。どうじゃ、ひとつ占って差し
上げよう。」

キリュウは少し顔を赤くして(美人といわれたからだろう)黙っていたが結局ほぼ強
引に占うことになった。

秀一「それでは、占います・・・・あなたは人間じゃないですね。」

キリュウ「な、何故分かる・・・・」

秀一「おぬしがけがれ無き純粋な心を持っているからじゃよ。」

キリュウ「そ、そんなことはいいから続けてくれ・・・・」

秀一「おぬしには、とてもつらい宿命がある。そしてちょうど今、そのつらさに耐え
れずつぶされそうになっている。」

キリュウ「そんなことまで分かるのか!」

キリュウは驚いて声を上げた。

キリュウ「ご老人、教えてくれ、私は、私はどうすれば主殿に嫌われずに済むのだ・・
・・」

キリュウの切実な願いに占い師、もとい秀一は静かに口を開いた・・・・

秀一「あせらなくともよい。」

キリュウ「?」

秀一「おぬしはそのままでよいのだ。変わろうなどと思わなくてよい。」

キリュウ「しかし・・・・」

秀一「おぬしの未来はとても幸福と出ている。いつかは分からんがおぬしを受け入れ
てくれる、必要としてくれる少年に出会うはずじゃ。最初は慣れないことで戸惑うか
もしれぬが、おぬしはそこで幸せになれる。」

キリュウ「本当か、本当に私を必要としてくれる人が・・・・」

秀一「それどころか一目惚れする奴だって・・・・」

キリュウ「一目惚れ?」

秀一「あ、いや、こっちの話。」

そういい残し秀一はそそくさと去っていった。

キリュウ「(・・・・ありがとうご老人、たとえ嘘だとしてもおかげでまた万難地天を続
ける希望が湧いてきた。)」

キリュウはゆっくりと短天扇に戻っていった。

 

 

 

 

秀一「どうだった?俺の演技は。」

フェイ「三流だな・・・・まあ、これ位なら歴史にもそんなに問題はないだろう。」

フェイ「そんなことより最後の質問だ。あなたの未来を・・・・」

そう言った途端、また秀一は眩しい光に包まれ意識が消えていった・・・・

 

 

 

 

秀一「・・・・ここは何処だ・・・・」

秀一が目を覚ますと、ベッドの上だった。カーテンの隙間から日差しが部屋に入って
くる。外を見るとそこは、草木や花が咲き誇り、小川の清きせせらぎが眩しく輝く目
を奪われるような光景が広がっていた。

秀一がボーッとしていると部屋に思わず見とれてしまうほどの美しい女性が入ってき
た。

そしてその女性は秀一に笑いかけてきた。

女性「フフッ、珍しいなあなたが私より寝ているなんて。」

秀一「・・・・あの〜、あなたどなたですか?」

女性「寝ぼけているのか?まったく自分の妻の顔を忘れるとは・・・・」

秀一「あぁ、ごめん、そういえばそうだった・・・・って、妻?!」

秀一は驚きが隠せなかった。まあ無理もないが・・・・

女性「一体どうしたのだ。秀一殿。」

秀一「な、そ、そのしゃべり方は・・・・キリュウか?」

キリュウ「まったく、おかしな秀一殿だな。朝食ができたからもう起きてくれ。」

秀一「なぁ、ホントにキリュウか?」

確かにその口調と赤い髪は変わっていない、しかし背丈もスタイルもそれはもう大人
の体になっていて、見た目は20代前半の女性である。

秀一「もしかして人間になったのか?」

キリュウ「まだ寝ぼけているのか?あなたが精霊だった私を人間にしてくれたのだろ
う。」

秀一は事情を整理しようとするが複雑になるばかりである。

キリュウ「そういえば、今日はシャオ殿が退院する日だから急いで準備をしなくては
・・・・」

秀一「退院?」

キリュウ「無事に子供が生まれたからな・・・・」

秀一「子供って誰と誰の?」

キリュウ「シャオ殿と太助殿に決まっているだろう。私達の子も順調に3ヶ月目だ
ぞ。」

秀一「俺達の子供〜?!」

キリュウ「・・・・あの時の秀一殿は激しくて・・・・私はすごく恥ずかしかったぞ。」

何を思い出したのか、キリュウは顔を赤く染めて俯いてしまった。(これ以上書くと
大変なことになるので強制終了。)

 

 

 

 

とりあえず秀一は朝食をとることにした。

キリュウの手料理はとても美味しかった。本人曰く「少し前にシャオ殿に習った。」
そうだ。料理以外にも家事は一通り習ったらしい。

朝食後、秀一はリビングで一人座って考えていた。

秀一「(すごい幸せな生活だな・・・・だけど・・・・これってなんか違う)」

秀一はいきなり家から飛び出すと、茂みに向かって叫んだ。

秀一「そこに居るんだろ!フェイちゃん、俺を元の世界に帰してくれ!」

すると、その茂みの中からフェイが現れた。

フェイ「よく分かったな、だがこの生活のどこが不満なんだ?あなたの理想の生活で
はないか。」

秀一「俺はまだキリュウを宿命から救ってない、キリュウに伝えたいことも何も言っ
ていない。俺は・・・・俺はキリュウの元に行かなくちゃ行けないんだ!」

フェイは秀一の言葉を聞き秀一を見据えると笑みを浮かべた。

フェイ「(フッ、まさかこんな人間がいたなんてな・・・・)秀一、あなたは合格だ。」

今までよりはるかに眩い光が秀一を包みこみ秀一は再び意識を失った。

 

 

 

 

あとがき

 

 

どもっ、そろそろみなさんにも少しは名前を覚えてもらえたカナ?

ちょ〜さ(秋田出身)です。残すところとうとうあと一話、最後は華麗に終えたいで
すな、ハッハッハッ。

実は私、数年前まで文章書くのが嫌いでした。でも中学校時代にある先生に出会って
書くのが好きになりました。

読んでくださる皆様のほかに今日は、O中学校の社会科教師H・S先生と国語教師I
・N先生にも感謝したいと思います。

それではみなさま再逢!

 


ハルカの勝手コメント

 紀柳さんの子供……うわっ、うわっ、うわ〜〜〜〜!!!

 っとアイヤ〜、失礼致しました。ちょ〜ささんから頂いた「万難地天の恋愛事情」第四話をお届けしました。

 なんつーかもう、「私たちの子ももう三ヶ月目」などと紀柳さんに言われた日にはとりあえず憤死してしまうのですけれど(オイ

 しかしそれでもその世界に残らなかった秀一君は偉いと言うべきなのか…

 まぁハルカなら残りましたけどね!(いっぺん死ね

 ともあれ次回最終回ということで、フェイの役割も徐々に見え始めてきました。

 さて、最終話でどのように完結させるのか…非常に楽しみですね。

 

 次へ

 

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