ストイック 1
(1)
彼がプロ試験に合格したと聞かされた時でさえ、僕は彼のことを考えようとはしなかった。
いや、気付くまいとしていたのだ。背後から近づいてくる影に。
拭おうとしても拭いきれない、背中に感じる彼の気配に。
それでも彼を振り返ってしまったのは、新初段戦で父が彼を対戦相手に指名したせいだった。
彼を振り返ったとき、彼は僕のすぐ後ろに迫っていた。
それなのに…
彼を見据えた僕の眼を、彼は見ていなかった。
彼の迷いのないまっすぐな眼は、振り返った僕の遥か先、更なる高みだけを見つめていた。
彼の眼には僕は映っていなかった。
それに気付いたとき、僕の心に生じた感情を、僕は認めまいとした。
認めたくなかった。抗いがたいほどに彼を求めていた自分自身を。
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