若手棋士による塔矢アキラ研究会 1 - 2


(1)
「塔矢くん、」
手合いが終わって帰ろうとしたアキラが声をかけられて振り向くと、見覚えのある先輩棋士だった。
「最近、研究会の方にあんまり来てくれないよな。」
そう言えば、以前にも彼に誘われて、何度か若手棋士の集まる研究会に行ったことがあった。
だが、最近は碁会所でのヒカルとの検討が楽しかったこともあって、ずっとその研究会には行って
いなかった。
「そうですね…」
アキラは少し考えた。
当分、ヒカルは碁会所には来ないだろう。
北斗杯までの4ヶ月間、ここには来ない、と彼は宣言したのだ。
ヒカルが来ないのならつまらない。
そう思って、自然とアキラの足も碁会所から遠のいた。
久しぶりに、別の研究会に行ってみるのも良いかもしれない。
「いいですよ、今度はいつですか?」
アキラはその男に、そう答えた。


(2)
正直に言えば、週に1〜2回程度のヒカルとの検討会がなくなっただけで、こんなに毎日が味気ないものに
なるとはアキラは思わなかった。常に一緒に居る必要は感じない。別々の場所にいても同じ目標を
見つめているのだから。だけど、そういう理屈とは別に、もう1人の自分が呟く。
(進藤に会いたい。)
盤上の石に熱く輝く視線を注ぎ、むきになって手筋を論じて動く彼の唇を見つめていたい。
「進藤に本気で意地を張らせてしまったのは、まずかったな…」
ヒカルの打つ碁は魅力的だ。ことごとく予想を裏切るやり方で定石に囚われない動きをする。
だが、それが通用するのはあくまで低段者が相手の話だろう。長い間プロをやって来た相手は、嫌と
いう程ヒカルのような若手を相手にして来ているのだ。アキラには危うさが感じられた。
ヒカルは分かっているようでいてまだ分かっていないところがある。
碁会所で温かい目で見つめてくれる年長者達とは違う生き物なのだ。プロの世界に棲む者とは。
それでついこちらも語気が荒くなった。
北斗杯予選でボクとの対戦にある意味面白さを感じてくれていたヒカルに、ついいじわるな言い方を
してしまった。アキラにしてみれば北斗杯など一つのイベントに過ぎない。
若手だけで勝敗を争い国を背負って頂点に立ったとしても、それに何の価値があるというのだろう。
クスッと、笑みがアキラの口から漏れた。
(そんな話、進藤には出来ないな…。)
そんな常にどこか客観的に物事を見据えてしまう自分が嫌いだからこそヒカルにこんなに
惹かれるのかもしれないと思っていた。他の何を失っても、ヒカルは失いたくないと。

「久しぶりだから、ちょっと時間をかけてやろう。」
先輩棋士からそう言われていたので、当日夕食を母親に断ってアキラは検討会に出かけた。
場所はいつもとは違う、アパートというよりマンションに近い建物の一室だった。



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