羽化 1 - 2
(1)
芦原が塔矢家の居間でビールなど飲みながらくつろいでいる所へ、アキラが洗い髪を拭き
ながら現れた。
「どうも失礼しました、芦原さん……、早速やってるんですか?」
「ああ、頂いてるよ。」
先に風呂を使わせてもらって、既に自分もパジャマ姿の芦原は二缶目のビールをぐいっと
呷りながら答えた。
「まあ、わざわざ金曜の夜に泊まりに来て頂いてるんですし、ビールくらい、いくらでも飲んで
下さい。」
そう言いながらアキラは芦原の向かいに腰を下ろした。
「それにしても、お父さんもお母さんも過保護ですよ。そう思いませんか?」
「確かにそうかもなあ。」
「ボクだってもう中三なのに、親が一週間ぐらい留守してたって、平気ですよ。」
「まあ、一泊二泊くらいならともかく、今回はちょっと長そうだからね。おまえがハメ外さないよう
にってお目付け役をおおせつかったってとこかな?」
「ハメを外すって、どんな?」
「例えばこんな事さ。」
テーブルの上のビールの缶の一つを手渡した。
「全然お目付け役になんかなってないじゃないですか。ひどい人選ミスだ。」
アキラが笑いながら缶を受け取る。
風呂上りに、ビールの爽快な味が心地よい。一気に半分くらいをごくごくと飲み干し、
「ふうっ…」
と、軽く息をついた。
(2)
「おいおい、いい飲みっぷりだなあ、アキラ。未成年のくせに。」
「その未成年に今ビールを渡したのは誰ですか?」
「まあまあ、カタイ事言うなって。」
「全く、お父さんのお弟子さんたちと来たら、緒方さんといい芦原さんといい、お父さんの目を
盗んでは悪い事ばっかり教えてくれて。」
「酒ぐらいたいした事ないだろ。塔矢先生の晩酌に付き合ったりはしないのか?」
「さすがにまだ親公認じゃないですよ。その親も明日の夜には帰ってきちゃうし、」
そう言いながらキラッと目を輝かせて芦原を見た。
「折角の貴重な金曜の夜に、彼女の家でなく師匠の息子の面倒なんか見に来た殊勝な芦原
さんのために秘蔵のボトルでもお出ししましょうか。」
「オレなんか口実でおまえが飲みたいだけだろ?それにどうせオレは今は彼女なんかいないし、
付き合ってくれるのはおまえくらいのもんさ。」
ちょっと拗ねたような口調で答えるとアキラがクスクスと笑う。
「応接間に移動しませんか?」
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