羽化 6 - 10


(6)
「…ボクはいつも一人だった。
だからボクを追ってくる足音に苛ついていたのも事実だけど、それが急に消えたら…」
「追われるのは恐かったけど、追ってこないのはもっと困るってか?」
「そうですね。」
苛立ちを隠せないような、複雑な笑みを頬に乗せて、アキラは芦原の言葉を肯定した。
「やれやれ…、まあ、おまえにとっちゃあ初めてできたライバルって奴だからなあ。
なんだか進藤が羨ましいよ。
オレなんか所詮お友達どまりでライバルにもなれなかったからなあ。」
芦原が多少愚痴っぽくこぼすと、アキラは一瞬呆れたように目を見開いた。それからこぼれる
ように笑って、言った。
「何、言ってるんですか、芦原さん?
ボクは…まあ、こんなだから、同年代の友達なんていないし…だからボクにとっては芦原さんは
とっても大事な存在なんだ。その辺をもっとわかって欲しいな。」
アキラはにっこり笑って芦原の目を覗きこんだ。
間近に迫るアキラの目に、芦原は思わずドキリをした。
危ない危ない、と芦原は自分に言い聞かせる。
気をつけろ、いくらキレイな顔をしてるからって、こいつは女じゃないんだぞ。
しかし、それにしても何だか最近のアキラは、何て言うか随分と色気を感じるんだよなあ。
ヤバイよなあ、こんなふうに思っちゃうのって。
もしかしたら、こいつが男で、まだ良かったのかもしれない。もし女の子だったら、とっくに理性が
切れてそうな気がする。いくらなんでも師匠の子供に半端な気持ちで手を出す訳には行かない
もんなァ。


(7)
そんな事を考えている芦原に気付いているのかいないのか、アキラは随分と色の薄くなった
液体をすする。だがさすがに酔いが回りつつあるようで、目がトロンとして、微かに目元が赤く
なっている。あまり顔色には出ないが、目に出るタイプだな、と芦原は思った。
「アキラ、眠いんじゃないかぁ?」
とからかい加減に声をかけると、
「そんな事ありません。まだまだ平気です。」
ムッとしたような声が返ってくる。そんな風に言い張るさまが、まだまだ子供っぽくて可愛い。
アキラはグラスの残りをぐっと呷り、もう一杯飲もうとして、氷が殆ど溶けてしまっているのに
気付いた。
「氷、取ってきますね。」
そう言って立ち上がろうとしたアキラを芦原が、
「いいよ、オレが…」
と、押し止めようとした。
軽く肩を押しただけのつもりだったのにアキラの足元がふらついた。咄嗟に芦原は手を出して
アキラの身体を支えた。覚束ない足元のアキラが芦原の腕に体重を預けたまま芦原を見上げた。
「それみろ、酔ってるじゃない…か…」
見上げるアキラの視線と、見下ろす芦原の視線とが絡み合った。そのままぐいと腕に力を込めて
芦原はアキラの身体を抱き寄せた。呆然としたような表情でアキラが芦原を見ている。潤んだ瞳。
僅かに開かれた形のよい薄い唇。アルコールのせいなのか、紅を塗っている筈もないその唇が
やけに赤く見える。
その色に魅入られたように芦原はそのまま自分の唇をそこに重ねた。


(8)
芦原の下でその唇が逃げるように動く。が、芦原はそれを追い、逃がさぬように頭をしっかりと固定
する。そうしてもうどこにも逃げられなくなった紅い唇を、芦原は夢中になって貪った。先程までア
キラが飲んでいた梅酒の濃厚な甘さと芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。まるで媚薬のようだ。吐息ま
でもが香りをまとって甘い。さらさらと滑る髪を梳きながら、唇を首筋へと滑らしていく。
「あ…しはら…さ…ん、」
耳に届いたハスキーな声に、芦原は自分が抱いているのが誰だったのかを突如思い出し、捕らえ
ていた身体を解放する。
「ア…キラ…」
呆然として腕の中にいる少年を見下ろした芦原に、戸惑っているような、怒っているような目をして
彼が問う。
「どういう…つもり…なんですか…?」
「ごめん、オレ…」
アキラが芦原を見つめたまま、小さく首をふる。
それが先程の行為への抗議なのか、それともその行為の中断への抗議なのか、芦原には区別が
つかない。区別がつかないまま、芦原はアキラを見返した。
突然、アキラがその視線を断ち切るように、芦原の胸元をぐっと掴み、引き寄せて、芦原の唇にもう
一度自分の唇を重ねた。一瞬重なった唇はすぐにはなされ、アキラの目が芦原を睨むように見上げ
ていた。視線は挑むように真っ直ぐに芦原を刺すのに、その手も、唇も、小さく震えている。深い色の
瞳が潤んでいるのはアルコールのためなのかそうでないのか。見詰め合ったままどちらからともなく、
重なり合ってソファの上に倒れこむ。アキラの黒髪が芦原の頬に落ちた。


(9)
二人とも、酔っているんだ…酒のせいだ…。
アキラの体重と体温を感じ、アキラの唇を味わいながら、芦原はそんな言い訳を心に浮かべた。
だが本当はずっと心の底にこうしてアキラを抱きたいと言う願望は眠っていて、アルコールはその
願望を抑え込んでいた理性のたがを緩ませたに過ぎないという事を、芦原の半ば酩酊状態に近
づきつつある脳の片隅に残った理性は知っていた。だが芦原はその理性をアルコールの霧の向
こうへ追いやる。そして自分の上にのしかかっていた少年の身体を逆に自分の下に押さえ込んだ。
潤んだ黒い瞳が自分を見つめている。紅い唇が誘うように僅かに開かれている。
手を伸ばして指先で唇にそっと触れる。その輪郭を確かめるようにそっとなぞりながら視線を白く
細い首筋へ、そしてパジャマの襟元から覗く華奢な鎖骨へと降ろし、それと同時にパジャマの
ボタンを一つずつ外して、胸元をはだけさせた。
少年の身体を、白い薄い胸を、一瞬眉を顰めて、眺める。アキラの目が、それでどうするつもり
なんだ、と問うように、挑戦的に自分を見上げている。その視線に対抗するように芦原はアキラの
ズボンに手をかける。一瞬アキラの視線が怯む。アキラの怯えが芦原の手を後押しして、芦原は
アキラのパジャマのズボンを下着ごと引き下ろした。一気に身体を外気に晒され、アキラは緊張
に下半身をひくりと震わせる。そして唇を噛み締め目を閉じて横を向く。
その初々しい様子に芦原は彼の頬を慈しむように撫でた。そして露わにされた股間に手を伸ばし、
まだ大人になり切れていないアキラの性器を手にした。不思議と違和感も嫌悪感もなかった。
自分の下で少年が息を飲むのを感じる。まるでイタズラ半分に年下の少年にマスターベーション
を教えてやるように、手の中のモノを擦りあげる。少年の息が荒くなる。手の動きに力と熱が加わる。
少年の口から噛み締めるような息が漏れた。


(10)
そして芦原の手によって到達させられてしまったアキラは、うっすらと涙を浮かべて、芦原をなじ
るような表情で睨みつけた。まるで一人だけ先に果ててしまった事が悔しいと言うように。その表
情が可愛いらしいと思って、芦原は宥めるように彼を見る。
すると、突然、アキラが手を伸ばして芦原の胸元を掴んだ。そして目は芦原を睨み付けたまま、
先程自分がされたように、芦原のパジャマのボタンを外そうとする。その指先が震えている。
芦原はその手をそっととり、震える細い指に軽くくちづけした。そして残るボタンを自分で外し、
上着を脱ぎ捨てる。それから少年の身体を僅かに覆っていた、はだけられただけの上着を腕か
ら抜き取り、裸の身体を抱きしめた。抱きしめながら、少年の細い首筋に唇を寄せる。
強く吸い上げてから唇を離すと、白い肌に紅い花が散る。芦原は鮮やかなその色に見惚れた。
滑らかな肌触りを堪能するように手を滑らせながら、いつも目を奪われそうになっていた華奢な
鎖骨に歯をたて、カリッと齧った。



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