夢の魚 11


(11)
「ここさ、北斗杯のあと、伊角さんタチと来たんだ。
中国の楽平、覚えてる?」
「ああ、あの和谷くんにそっくりな子だね?」
「そう、ディズニーランド行って、次の日ここで魚見てね」
「もしかして……、誘ってくれたとき?」
「覚えてた?」
進藤の表情が輝いた。
「覚えてるよ。君が初めて僕の家に電話くれたんだよね」
「そうだよ、俺緊張したんだぜ。もし塔矢先生が出たらなんて挨拶しようって」
母に呼ばれて電話にでた僕に、進藤は開口一番「携帯の電源いれとけよ」と喚いていたっけ。
普通、挨拶をするものじゃないかな。でも、それが進藤らしいと思うけどね。
「せっかく誘ってくれたのに、あの時は済まなかった」
「なに、誤ってんだよ。大事な対局があったのに、断るのが当たり前だろ。それに、そういうのちゃんと調べなかったこっちが悪いんだし……」
進藤が、すっと正面を向いた。僕もそれに倣う。
「おれさぁ……、そのときここで、このマグロ見てて、俺たちみたいだなって、思ったんだ」
「マグロが?」
「そう……」
ドーナツ状の水槽の中で、たくさんのマグロが鱗を煌かせて、休むことなく回遊している。
「一ヶ所に留まることがないんだ。立ち止まると死んじゃうんだ……」
「僕たちも?」
進藤は子供のようにこくりと頷いた。
「立ち止まると、碁打ちの俺は死んじゃうんだ」
僕はその瞬間、酷く自分が厳粛な空間にいるような気になった。
不思議な感動に、身の内がざわりと騒ぐ。
「あの、雨の日……、あの青い傘の下で、俺は青い魚を見たような気がしたんだ。
それからさ、おまえにも見せたいって思った。最初は一緒にこれなかったからさ、その分って思って。
その後……、このマグロをおまえにも見せたいって」
進藤はそれ以上、言葉にしようとはしなかった。でも、僕にはわかった。
進藤がなにをいいたいか、僕にはわかるような気がした。



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