若手棋士による塔矢アキラ研究会 11 - 14


(11)
次の段階があるかのようなその男の言葉に驚きと怒りを抱きながらも、
アキラは出来るだけ落ち着いた声で話し掛けた。
「気が…済んだでしょう。…ボクに落ち度が…何か先輩方の気に触った態度でも
あったのなら…謝ります…。」
怒りで速まる鼓動を押さえ、時折悔しさで詰まりながらも強い意志で男に伝える。ギリギリの
譲歩だった。この馬鹿馬鹿しい一件の首謀者であろうこの長髪の男さえ冷静さを取り戻せば、
他のただ追随しているだけの者も右に倣うだろう。5人の面子の中で一番高い段位を持っている
筈である。それを捨てなければならなくなるかもしれない行為を自らするはずがない。
この時だけは、アキラは塔矢という自分の名前に某か男達が感じる事を持って欲しいと思った。
「…そうだったな。」
男が真顔になり、アキラは僅かな望みに期待した。
「済まなかった、ちょっと鼻っ柱を折ってやりたくて、君にひどい事をしてしまった。」
アキラは微かに笑んだ。分かってもらえたと思ったのだ。
「…最初はそうだったんだ。ほんの少し君を困らせてやりたかっただけで…」
男は真顔であったが、理性を取り戻したと言うよりは開き直りに近い無表情さだった。
「…こんなに本気になるつもりはなかったんだ。」
男がアキラの体を床に押し倒した。防音効果の高さを示して居る様な硬くても弾力を
感じさせるフローリングの床の上にアキラの黒髪が広がって散った。
「塔矢元名人の息子が何人もの男の慰み者になったなんて話は、それこそ外に漏らす
訳にはいかないよな…。あくまで、オレ達だけの間の秘密にしておいてやるよ…。」


(12)
アキラの唇が微かに震えていた。唇だけではなく、肩と、そして膝も組み伏せられた
状態でカタカタ震えていた。2人の男がそれぞれアキラの右腕と左腕を長髪の男から
受け取るようにして完全にアキラの上半身を床に縫い付ける。
「お前らもこっちに来い。」
呼ばれて、碁盤のそばにいた男達もアキラの周囲に寄り、美しい気の毒な捕われた者を
複雑な表情で見下ろしている。男達はもはやおそらくこの機会を逃したら一生口に
出来ないであろう高価な果実の蜜を味わう誘惑に支配されつつあった。
5人の男達にこうして裏心の視下に置かれるだけでも激しいストレスを受ける。
アキラは右に顔を向け、唇を結んで男達の視姦に耐えた。
泣叫んででも許しを乞うという行為は念頭にもなかった。
「一つ塔矢くんに質問したい事があるんだけど」
長髪の男はアキラのセーターの端を摘んでひらひらさせながら言葉を続けた。
「塔矢くん、ここにいる連中の名前、全部言えるかい?」
思いも寄らなかった問いかけにアキラは目を見開いた。
「全員の名前がちゃんと言えたら、これ以上は何もしないよ。皆で土下座して
君に非礼を詫びる。」
「ええっ!?」
腕を押さえている1人が不服の声をあげた。
アキラは見開いた目で男達を見回し、小さくため息をついた。よくは分らないが彼等に、
ある種の不満を抱かせる仕打ちを、今までの自分は無意識に与えていたのは確かなのだろう。


(13)
それでも、その事の代償がこれ程までの仕打ちを受ける謂れになるとは思えなかった。
「オレの名前は分るよね。」
長髪の男が訊ねて来た。アキラはその名字を答えた。近くに対局し得る相手として
確認したことがあった。両腕を押さえている2人の名前も言えた。だが、
碁盤のそばに居た者達はそうはいかなかった。普段の検討会でもあまり
積極的に発言しない人達だった。だからといってないがしろにしたつもりはないが、
それ以上の存在にもならなかったのは事実だった。
「2人、答えられなかったな。」
長髪の男はアキラのセーターに手をかけると顔付近まで引き剥がした。その先は
2人の男がアキラの腕からセーターを外した。その間に中のシャツのボタンが外され、
同じように脱がされアキラの上半身には白いランニングのみが残された。
露になったアキラの二の腕の裏側の、肘から脇にかけての華奢で白さの輝くラインに
それだけで男達が息を飲み込む音がしていた。あと数cm布が動けばそこに
存在しているであろうアキラの未発達な乳首の色や形状を想像して、それに直に
触れた時の場面の妄想を掻き立てている様子を隠さなかった。
アキラはまるで悪い夢を見せられているかのように無言で視線を天井あたりに漂わせていた。
「じゃあ、今度は全員の下の名前を言ってもらうよ。」
「フッ」と、アキラは笑った。答える気力はとうに放棄していた。そんな名前など
もう思い浮かべたくもなかった。アキラの意志を見越したように長髪の男の指がアキラの
ズボンのボタンを外し、ジッパーを摘んで容赦なく引き下ろした。


(14)
ズボンはブリーフごと腰からゆっくりと下げられていった。
ほとんど脂肪のかけらもないアキラの腹部に形良く窪んだ臍の、その下の部分へと
男達の視線が虫のように這い回っていく。両の腰骨が現れてから、うっすらと浮かんだ
ラインがその中間地点に流れていく様を見届けられた後に、局部の根元が覗いた。
ごくうっすらと茂った若草がふわりと外の空気に身を起こす。
男達は呼吸をあらくしながら互いに顔を見合わせる。ここまで来たら全員共犯なのだ。
「ご本人は随分静かだな…さすが肝がすわっているぜ。」
アキラは目を閉じていた。引き返せない悪夢が今は出来るだけ早く終わる事を
望むだけだった。
その僅かな後、白いランニングと靴下を残すのみの状態にアキラはされた。
どうせならすべて取り去ればいいものを、あえて多少の布片を残す事で
淫猥さが強められていた。裸体でありながら裸体ではない。その際どさが雄の
興奮をより高める。アキラが本来持っている中性的な色香がよけいに
男達の好奇心を煽っていた。少女の様な美しい顔に少年特有のすらりとした骨格、
大人びた物腰や姿勢と性的にまだ未開発なパーツ。声変わりにさしかかった
ハスキーで掠れた甘さが残る声。
男達はそれぞれにこの後に見られるであろうアキラの痴態を想像して
アキラを見つめる。特に集中的な視線を受けてときおり怯えるように
小さく横たわった局部がピクリと震えた。誰が最初にそれに触れるのか、
男達は牽制というより促しあうように互いの目を見た。



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