夢の魚 13


(13)
世界の海を巡り、ペンギンをのんびり眺め、館内のレストランで昼食を取り、建物からでたのは3時ごろだった。
デッキテラスで、進籐はおやつタイムだと笑いながら、売店でクレープを頼んだ。
昼食を摂ってさほど経っていないのに、よく入るもんだと僕が目を丸くしていると、進籐は「甘いものは別腹だからな」と、女の子のようなことを言って笑った。
「塔矢は?」
僕は、アイスコーヒーを頼んだ。
先週あたりから、随分秋めいてきたけれど、気持ちよく晴れ渡った空の下、降り注ぐ陽射しはまだどこかに夏の面影を留めている。
年間を通して、もっとも紫外線が強いのは、意外なことに秋なのだ。
海からそよぐのは涼しい秋風だったけど、日向にいるとじわりと汗が浮かんでくる。
僕たちは、白いパラソルの下で、少しの間涼むことにした。
「まだ、時間大丈夫?」
バニラとチョコの香りを乗せて、進籐が尋ねる。
「大丈夫だよ」と軽く頷けば、進籐は目を細めて笑う。
「どこか行きたいところでもあるの?」
「いや、浜辺に行きたいかなって、でももう随分歩いたし……」
「歩いたって、君はあの程度歩いただけで疲れたの?」
からかうと、進籐は花の頭にしわを寄せて、「塔矢がへたばるんじゃないかと、心配してんのに」と、憎まれ口を返してきた。
「失敬だな。僕はこう見えても体力には自信があるんだからね」
「ふーん、どう見えるかは、自覚してんだ?」
進籐はそう言いながら、唇の端を片方だけ引き上げてみせた。それは、悪戯な笑みで、出会った頃の彼を彷彿とさせる。
「含みがあるな」
僕がわざと不機嫌な声を聞かせると、彼は声をあげて楽しそうに笑った。
「大あり。わかってんじゃん」
「まあね、よく言われるよ。スポーツしている姿を想像できないってね。でも、体育の成績は悪くないんだよ」
「意外」
「まったく、君は……」
「でもな、塔矢。人間の想像力には限界ってーもんがあってさ、おまえがドッジボールやサッカーやってるとこ考えてみたけど、なんか変な感じ。跳び箱、飛べるの? って、訊きたくなる」
「跳び箱なんて、コツを掴めば簡単じゃないか。6年の時、7段まで飛べたのは、僕を入れて3人しかいなかったんだからね」



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