夏の終わり 13 - 14
(13)
――――――ぎゅぷっ
鬼灯が鳴った。
鬼灯を奪われた僕は、こくりと喉を鳴らし、湧き出す唾液を飲みこんでいた。
「好きだよ」
囁きと共に、進藤の口のなかの僕の鬼灯が、目に入る。
肩をつかむ進藤の手に力がこもる。
僕はその熱とわずかな痛みに、我を忘れて口走る。
「僕も……、好きだ」
言ってしまった。
今日まで躊躇っていた言葉を、遂に口にしてしまった。
後悔はなかった。だが、大切に秘密を、大切な宝物を、曝してしまった事に一抹の寂しさを覚えた。
その寂しさを慰撫するように、進藤がまたくちづけてきた。
鬼灯が
渡される。
もう自分の気持を偽ることができない。
僕たちは、鬼灯を間にはさみ、舌の交歓を続けた。
耳の後ろでごとんという音を聞き、自分が縁側に押し倒されたことを知った。
ひさしは逆光に黒い影となり、その向こうに目に染みるような夏の青空が広がっていた。
「進藤……」
息継ぎの為に唇が離れたとき、僕は囁いた。
「進藤じゃない」
進藤は少しきつい口調で言うと、鬼灯の残骸を勢いよく吐き出してから、冷たく見えるほど真剣な面持ちで、僕に命じた。
「ヒカルって、呼べよ」
(14)
金色の前髪がまた降りてきた。
僕は言われたとおり、彼の名前を呼ぼうとしたが、それは声となる前に、進藤の唇に奪われた。
呼吸を重ね、吐息を交わし、唾液を啜りあう。
進藤は性急な動きで、僕のシャツの裾を引き摺りだし、その隙間から手をさし入れてくる。
わき腹を撫で上げられて、体が震えた。
「ダメ。ここじゃ……しんど……」
「ヒカルだろ?」
彼は少し体を離して、にやりと笑う。
「言って」
「ヒカル……」
「そう、ここじゃダメって、どこなら良いの?」
下腹部に集まっていた血液が、一度に上昇したように、僕の頬や耳が燃えあがる。
「アキラ……」
進藤が耳元で囁き、熱い舌で耳朶を舐る。
「どこならいい?」
僕は、進藤の首に腕を回していた。
もう、認めてしまったんだ。今更逃げられない。
逃げられないなら、正面から迎え入れるしかないじゃないか。
僕は、夏の空に目で別れを告げると、進藤の耳に直接聞かせた。
「僕の部屋」
進藤は、スニーカーを脱ぎ捨てると、僕を軽々と抱きあげた。
まだ、人の目を欺かなくてはいけないけれど、自分の気持には正直でありたい。
「降ろせよ」
進藤の強い視線が僕を捕らえて話さない。
「自分で歩ける」
流されるのではなく、自分の意思で抱かれたい。
声は少し震えていたけれど、気持はちゃんと伝わったみたいだった。
なぜなら、進藤が嬉しそうに笑ってくれたから。
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