羽化 13 - 14
(13)
乱れた髪を梳き、頬をそっと撫でながら半身を起こす。少年の目が縋るように彼を追い、手を伸ば
して芦原の腕に触れる。
けれど芦原は少年をなだめるように微笑みかけ、彼をそこに押しとどめたまま、立ち上がった。
床に落ちていたタオルを拾い上げ、少年の下腹部の、下肢の汚れを丁寧に拭ってやる。けれど彼の
手が少年の敏感な個所に触れると、少年はびくりと反応し、彼の若い性はまた昂ぶりを取り戻そうと
する。芦原はその様に半ば微苦笑しながら、きれいに拭き取った内腿に軽くくちづけした。
そんな僅かな刺激にさえも、少年は身体を震わせ、声を抑えきれない。その声に煽られて、芦原は
唇を放さずに、その脚を押し上げる。拭き取ったばかりの少年のペニスが震えながら涙をこぼしは
じめる。と同時に芦原も自分自身が勢いを取り戻しかけているのを感じる。
下半身への愛撫を手に任せ、芦原はもう一度唇と唇を、そして身体と身体を重ねようとした。
(14)
突如、柱時計が時を告げ始めた。
その音に二人ははっと目を見開いた。
静まり返った家に響く古めかしい音が、もう一度少年に触れようとしていた芦原の身体を引き離す。
時計の音がゆっくりとなり、その一つ一つの音が、芦原から熱と酔いを奪っていき、意識は現実に
引き戻される。そして最後の12番目の音が長く尾を引いて闇の中に吸い込まれていくと、室内は
空虚な静寂に包まれた。
自分を見つめたまま、少年がゆっくりと身を起こすのを、芦原はどこか冷めた頭で見ていた。
乱れて顔に張り付いた黒髪を少年は白い手で払い、頭を軽く振る。黒く濡れた瞳が、問うように、
懇願するように、彼を見つめている。彼のこんな表情を見たことがない。
「ア…キラ…」
一体、何をしていたのだろう。アキラに。
「オレは…」
「芦原…さん……」
芦原が怯んでいる事を感じたように、見つめるアキラの目に力がこもる。
「ボクは………ボクは…、」
けれど言葉を続けられずに、アキラは唇をきつく結んで、うつむいて小さく首を振る。そしてもう一
度顔を上げて芦原を見つめた。真っ直ぐな視線が痛い。けれど目をそらす事ができない。アキラ
の眼差しを受け止めきれずに芦原の視線が揺れるのを感じて、アキラは奥歯を噛み締めながら
ゆっくりと目を閉じた。そして芦原から顔を背けた。その肩が小さく震えているように見えた。揺れ
る黒髪の陰に涙が光ったように見えた。
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