ストイック 15


(15)
「お茶でも煎れようか?」
芦原さんの問いかけに、僕はうつむいて、首を横に振った。
「ねえ、アキラ。アキラは、そりゃ碁に関してはひたむきで、傍から見て怖いくらいだけれど…」
芦原さんは僕を覗き込むようにして言った。
「それ以外のことにはまったく執着しないというか…なんて言ったらいいんだろう…」
言葉を選ぶように、芦原さんは少し間をおいた。
「最初からあきらめているようなところがあって、かえって見ていて不安になることがあるんだ。だから、お前が我侭を言ってくれると、ほっとする」
僕は泣きそうになった。
泣き顔を見られるのがいやで、芦原さんの首に抱きついた。
芦原さんが僕の背中に手をまわし、優しく包む。
「よくこんな場所を知ってたね。意外だな」
僕は涙を押しとどめ、芦原さんの耳元でささやいた。
とたん芦原さんは僕の肩を掴んで、身体を引き離した。
「お前、そういうことを言うか?」
至近距離にある芦原さんの顔が、とまどいを隠すためにわざと怒ったふうにゆがむ。
必死にあせりを隠そうとする芦原さんが、愛しくて、哀しくて…


そのまま僕たちは、ソファーの上で身体を重ねた。
芦原さんはいつにもまして優しく、その優しさが、かえって僕を苛んだ。
(心と身体は別々なんだろうか…)
そんなことを、考えた。
いや、別々なはずがない。
もしそうなら、こんなに苦しいはずないもの…



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