夏の終わり 15 - 16
(15)
キスを繰り返しながら進藤は悪戦苦闘のなか、僕のシャツのボタンを一つ一つ外してくれた。
重ねる唇からは、どちらのもの特別のできない、熱い吐息が漏れる。
ボタンを外し終えると、進藤は僕の素肌に触れてきた。
その指先が腰骨を掠めた瞬間、僕が感じたものは、たまらない疼きだった。
危険な熱を孕んだ進藤の右手が辿りついたのは、僕の背中。僕のすべてを支えるように進藤の掌が押し当てられる。
その熱に、僕は軽く瞼を閉じ、幽かな吐息を漏らした。
畳の上に僕の体を横たえながら、進藤はオープンシャツとタンクトップを乱暴に脱ぎ捨てていく。
その間ですら、僕のわずかな表情も見逃すまいと言うように、鋭い視線が僕に注がれていた。
全裸になった進藤が、赤ん坊の世話でもするように、僕の腕からシャツの袖を抜いていく。
「自分で……できる」
僕は上擦る声を隠さずそう言った。しかし、進藤は答えようともせずに、僕を生まれたままの姿にしていく。裸の背中に、畳はひんやりと冷たく感じた。
「アキラ」
僕が顔を上げる。
「9月になったら、また会えなくなる」
進藤は全裸だ。恥じらうことなくすべてを曝し、静かに言葉を重ねる。
「会いたいときにいつでも会えるわけじゃない。もしかしたら、これからが苦しいかもしれない」
僕は頷いた。来月から春先まで、本因坊戦のリーグが始まる。
「ヒカル?」
「棋院とかで会えても……ろくに話せないかもしれない。それでも、俺の気持だけは疑わないでくれるか?」
僕はゆっくり身体を起こすと、口を開いた。
「ヒカル……、今更だよ。僕は、君が思うより君のことが好きなんだ。
ただ言葉にするのが怖かった。認めてしまうのが怖かった。
でも、もう自分の気持を偽れない。それぐらい、君のことが好きなんだ」
「俺……、おまえに抱かれたいし、おまえを抱きたいよ」
僕は、いま目の前にで正直に欲望を口にする人間が、なによりも愛しかった。
誰よりも愛しかった。
(16)
「僕も、同じだ」
「アキラ」
進藤が相好を崩す。
進藤はもう躊躇わなかった。
僕の心を試すような質問も、もう必要ない。
彼は男で自分も男なのだ。
それでも、こうして抱きあいたいと思う気持に、嘘はない。
進藤が畳に手をつき、僕に覆い被さる形で膝を進めた。
その膝に、僕はそっと左手を置いた。
「アキラ?」
熱を帯びた黒い瞳が僕を見つめている。
僕の右手が動いた。
「アキラ……?」
進藤の腰が引く。
が、それを逃がすまいと、膝に置いた僕の手に力が篭る。
「アキラは、そんなことしないでいい」
「したい、ヒカルにさわりたい」
僕の右手は、半ば変化を見せる進藤の性器を優しく包み、愛撫の真似事をしていた。
その拙い動きに、進藤の頬が染まる。それに勇気を得て、僕は少し力をこめて、ゆっくりと手を動かした。
進藤の器官が、たちまち張り詰めていく。
不自然な態勢で僕の愛撫を受ける進藤の腕が、がくがくと震えていた。
「ヒカル、感じる?」
精一杯の勇気で僕は尋ねる。
「いい……、感じる」
荒くなる呼吸を隠しもせずに進藤が呟くと、僕はとても嬉しかった。
進藤は、上から覆い被さるようにして僕の唇を奪った。
「ん―――、ク……、う……っ」
僕の抗議の声を、進藤は熱い吐息の中に絡めとると、そのまま抱きしめ、押し倒した。
「一緒に……」
キスの合間に、進藤が囁いた。その意味するところを悟り、僕は頷いた。
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