ストイック 16
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碁盤に目を落しながら、僕は彼の存在を背後に感じていた。
高みを目指す棋士ならば、誰もが足を踏み入れる、長い、長い道のり。
彼は今僕が居る場所よりも遥か先を見据えている。
ならば僕は、決して彼を前には行かせまい、と固く心に誓っていた。
もしも僕が芦原さんとあんな関係になっていなければ、僕はその時、そんなにまで意固地になっていなかったかもしれない。もっと、余裕を持って彼の存在を受け止めていたかもしれない。
ただその時、芦原さんの存在がある意味僕を支えていたのも事実で、結局、過ぎ去った事実の前に『もしも』を投じたところで、答えなど出やしないのだ。
僕は全てを受け入れて、強くあろうとしていた。
それなのに…
僕との手合いの日に、彼が現れなかっただけで、僕は揺らいだ。
脱落した者など放っておけばいい、そう思いながらも、足は彼の元へ向かっていた。
そして僕を待っていたのは、絶対的な拒絶だった。
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