夏の終わり 16 - 20
(16)
「僕も、同じだ」
「アキラ」
進藤が相好を崩す。
進藤はもう躊躇わなかった。
僕の心を試すような質問も、もう必要ない。
彼は男で自分も男なのだ。
それでも、こうして抱きあいたいと思う気持に、嘘はない。
進藤が畳に手をつき、僕に覆い被さる形で膝を進めた。
その膝に、僕はそっと左手を置いた。
「アキラ?」
熱を帯びた黒い瞳が僕を見つめている。
僕の右手が動いた。
「アキラ……?」
進藤の腰が引く。
が、それを逃がすまいと、膝に置いた僕の手に力が篭る。
「アキラは、そんなことしないでいい」
「したい、ヒカルにさわりたい」
僕の右手は、半ば変化を見せる進藤の性器を優しく包み、愛撫の真似事をしていた。
その拙い動きに、進藤の頬が染まる。それに勇気を得て、僕は少し力をこめて、ゆっくりと手を動かした。
進藤の器官が、たちまち張り詰めていく。
不自然な態勢で僕の愛撫を受ける進藤の腕が、がくがくと震えていた。
「ヒカル、感じる?」
精一杯の勇気で僕は尋ねる。
「いい……、感じる」
荒くなる呼吸を隠しもせずに進藤が呟くと、僕はとても嬉しかった。
進藤は、上から覆い被さるようにして僕の唇を奪った。
「ん―――、ク……、う……っ」
僕の抗議の声を、進藤は熱い吐息の中に絡めとると、そのまま抱きしめ、押し倒した。
「一緒に……」
キスの合間に、進藤が囁いた。その意味するところを悟り、僕は頷いた。
(17)
―――――ぅん…………
無理矢理、進藤の舌が僕の唇を割った。
僕はそれを喜んで迎え入れた。
玩具をなくして淋しがっていた手は、恋人の明るい色の髪に忍び込む。
梳るように指を動かし、愛しいと思う。
思った途端、僕は泣きたくなった。
僕がここにいることを確かめるように滑り降りていく、進藤の手が愛しいと思った。
そう思ったら、もう我慢ができなかった。
なぜ、自分以外の人間をこうまで愛しく思えるのだろう。
消えない熱を残して、進藤の唇が僕の肌の上を滑っていく。その感覚は僕にとって懐かしくも思えれば、まったく始めて知る感覚のようにも思えた。
欠片ほどの罪悪感も、いまの僕にはなかった。あるのは愛しさだけだ。
それをどう伝えれば、進藤にわかってもらえるだろう。
「ヒカル……」
譫言のように恋人の名前を呼ぶ。
繰り返せば繰り返すほど、胸に溢れてくる、泣きたいほどの愛しさ。
それだけで酔ってしまいそうだった。
気がつけば、軽く足を開いていた。その間に進藤の身体があった。
胸に落とされるキスは濡れた音を聞かせる。
進藤の舌が胸の突起を転がすように動いた時、僕の身体の奥に甘い痺れが走った。
―――――あ、………
僕の声の変化に気づいた進藤は、唇で執拗にそこを弄んだ。
軽く甘噛みされたとき、自分でも恥かしくなるような声をあげていた。
「アキラ、可愛い……」
嬉しそうにそう言うと、進藤は僕の唇に音のするキスをくれた。
「僕は、…自分が、こんなにいやらしい人間だとは……思わなかった……」
「もっと、………いやらしくなって…………」
そう言いながら進藤は、固く屹立した自分自身を、僕のペニスに擦りつける。
(18)
―――――あ……っ…
鼻にかかった甘い声が、自然と零れる。
「もっと、聞かせてよ………アキラの…声」
促す進藤の声も、甘く掠れている。
それに応えるように、僕は進藤の身体を強く抱きしめた。
どんなに抱きしめても足りないような気がした。
進藤が下から上へ擦り上げるように腰を動かすと、そのたび僕の身体の奥底で怪しくざわめく感覚があった。
それがなんなのか気がついて、僕は怖くなる。
それを欲しがる自分が怖くなる。
でもそれは、偽りのない気持だった。だから、言葉にする。
「ヒカルが…、欲しい……」
「アキラに言われると、それだけで……おかしくなりそ………」
進藤の言葉の意味もわからないまま、僕は手を伸ばし、いま自分が欲しいものに正直に触れた。
さっきとは違い、手に余るほど猛々しく育ったそれに、指を這わす。
この熱いものが、激しく脈を打つものが、また自分に埋め込まれるのかと思うと、確かに怖かった。
だが、それを求めている自分に嘘はない。
「ヒカル」
催促する。
しかし、進藤はゆっくりと顔を横に振ったあとで言った。
「まだ……、痛いよ」
「痛くてもいいんだ」
「俺はね、おまえが考えているより、ずるいんだ。痛い思いなんてさせねえ。
俺のこと思いだすたびたまらなくなるほど、気持ちよくなって。俺じゃなきゃ感じなくなるほど、夢中になって」
恐ろしいことをさらりと口にして、進藤は身体を離した。
突然離れた肌を追って、軽く身体を起そうとした僕の胸を手で押しやると、進藤はいきなり僕の股間に顔を埋めた。
(19)
――――――あぁっ!
進藤の熱でさんざん擦り上げられていた僕は、それだけで上り詰めてしまいそうだった。それが嫌で、とっさに、進藤の頭を太股で挟んでいた。
進藤の動きが止まる。しかし、ねっとりと僕に絡みつく舌は、間断ない刺激を与えつづける。
――――――あっ、ぁっ…、あ…………
執拗に追い上げられる。
僕は、激しく首を振って、その快感の波に飲み込まれそうになるのを堪えた。
が、その最後の抵抗も、進藤の確実な愛撫にあえなく散る。
進藤の指が、僕の内部を差し入れられたのだ。
白濁が噴き上がる。
「ダメ。ダメ、嫌だ、進藤!」
この数週間、封じこめていた言葉が口をついて出たことにも、僕は気づかない。
進藤がきつく吸い上げると、腰のあたりに気の狂いそうな快感が生まれ、僕はまだ残っていたものも吐き出していた。
「嫌だ、嫌だよ、進藤、でる……」
逃げを打つ僕の足をしっかりと片手で抱きとめたまま、進藤が顔を上げた。
彼の喉が上下に動く様子を、涙と欲情で潤んだ僕の瞳は、すべて映していた。
羞恥に頬が染まる。快感に息が上がる。目の前の男が愛しくて嫌になる。
ペろっと舌先で自分の唇を舐めて見せたあとで、進藤はまた僕のペニスを咥えた。
そして、侵入を果たした指がおもむろに動き出した。
抜き差しで始まったそれは、徐々に複雑な動きに変わっていく。
入り口のあたりで円を描いていたかと思えば、奥を抉るように深く差しこまれ、かと思えば中を広げるような動きを見せる。
その間も、ペニスには熱い刺激が加えられていた。
内部を犯され、性器にはたまらない愛撫を与えられ、放ったばかりだというのに、僕の若い雄は、すぐさま熱り立つ。
「ダメだ、ヒカル、もう…ダメ…………」
口では拒みながらも、身体は更なる頂点を求めて、大きく揺れる。
やめて欲しいのではない。過ぎた快楽が怖いのだ。
飲みこまれてしまう自分が怖いのだ。
(20)
なにも考えられなくなる。
進藤を愛しく思う気持とはまた別に、進藤を欲しがる気持。
それが、あまりに強烈で僕は嫌だと叫ぶ、ダメだと繰り返す。
初めてではない。でも、これは初めて知る悦びだった。
この前、進藤に抱かれたときも、快楽に喘いだ。
でも違う。
今日知るこれは、まったく違うものだった。
「ヒカル、……このままじゃ、おかしくなる………」
快楽の海に叩き落され、僕は咽び泣く。
懇願は、すでに言葉をなしていない。
進藤の耳にそれは、甘い悲鳴にしか聞こえなかった。
「アキラ?」
名前を呼ばれて、僕は訳もわからず、何度も何度も頷いていた。
「可愛い……」
吐息まじりの優しい声。
しかし、その次に与えられたのは、「ズン」という重い衝撃と焼けつくような熱だった。
僕は、一瞬、呼吸を忘れた。
身体の中で、めりめりという音が聞こえたような気がした。
痛みはあった。
約三週間ぶりの挿入に、まだ経験の浅い身体は鈍い痛みを訴える。
それなのに――――――。
その痛みを凌駕する、快感があった。
一番大きな部分がゆっくりと押しこまれた。
まだ慣れていないそこはが、ギリギリ限界まで広げられた時、僕は言葉にできない痛みに正直に顔をしかめた。
だが、その部分を飲みこんでしまえば、あとは楽だった。
ずくっと、肉が軋んだ。
きつい部分を通り過ぎると、進藤のそれは僕の内臓を押し広げつつ、一気に沈みこんでいた。
濡れた肌と肌が、改めて熱を分かち合う。
進藤のペニスは根元まで僕の中に埋め込まれていた。
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