羽化 17 - 18


(17)
コーヒーの香りで目が覚めた。
一瞬、ここはどこだったろうと思い、すぐに塔矢家の客間だと思い出した。
慣れない布団と枕のせいだろうか、肩や腰がぎしぎしと痛んだ。だがそれだけでは済まなかった。
「!」
頭を動かそうとして、激しい頭痛に見舞われた。と同時に胸がムカムカする。二日酔いだ。
だがコーヒーの香りに吸い寄せられるように芦原は食卓へ向かう。
「おはようございます、芦原さん。」
パジャマ姿で頭もぼさぼさの芦原を、既に制服に着替えたアキラの涼しい声が迎えた。
「ひどい顔色ですね。二日酔いですか?」
飲んだ量は大して変わらない気がするのに、アキラときたら平然としている。
芦原はなんだか悔しいような情けないような気がして、頭を抱えながら腰をおろした。
「…うん。おまえ、今日学校なのか?」
「ええ。海王は私立ですから、土曜も授業があるんです。
コーヒー、飲みますか?」
多分ひどい顔をしている芦原をいたわるような笑みを浮かべて、アキラはコーヒーカップを差し
出した。その白い指先に、一瞬目が吸い寄せられた。顔を上げてアキラを見ると、紅い唇に目
が止まってしまう。
「どうしたんですか?芦原さん。」
形のよい紅い唇が動き、涼やかな声が振ってくる。芦原は戸惑いを打ち消そうと頭をふった。
途端に猛烈な頭痛が彼を襲った。
「いたたたたた…」
芦原は頭を抱えて唸った。
「なに、してるんですか。芦原さん。大丈夫ですか?」
心配しながらも呆れたような声が聞こえる。よく知っている聞きなれたアキラの声。
どうかしてる。
「二日酔いの薬なんてあったかなあ…」


(18)
頭痛の奥から昨晩のとんでもない夢がよみがえってくる。
アキラの紅い唇。白い首筋に散った紅い花。熱い身体。彼のこぼした涙と甘い泣き声…
何て夢だ。欲求不満にも程がある。
「どうしたんですか?芦原さん。」
頭上からその、夢の中で彼を呼んだのと同じ声が振ってきて、芦原は慌てて夢の記憶を追い
やろうとしながら、叫んだ。
「なんでもない!なんでもない!!」
「…ヘンなの。どうかしたんですか、芦原さん。」
「どうもしない…けど、」
どことなくアキラの動きがぎこちない。
「いや、おまえこそ、おかしくないか…?どこか、怪我でもしてるのか?」
「ああ…。今朝、足元に本があるのに気付かないで踏んづけちゃって、おかげで机の角に腰を
思いっきりぶつけちゃったんです。声が出ないくらい痛かったですよ。」
アキラが屈託なげに笑って、言った。



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