ストイック 18
(18)
父が引退してからというもの、それまで以上に、家には多くの人が足を寄せた。
僕も家に居る時は、すすんで来客に顔を出すようにしていた。
もはや僕を脅かす者はいない。僕の前には、遥かな道筋だけがある。
迷いはない。そう信じることができた。
そんな僕の自負に一石を投じたのは、緒方さんの一言だった。
「アキラくんは、進藤がどうしているかは知らないのか?」
それは父を訪ねた緒方さんが帰るとき、僕が玄関まで見送る途中のことだった。
「なぜボクに聞くんですか?知りませんよ」
僕は内面の同様を押し隠しながら、そう答えた。
「いや、キミは彼とは親しそうだったからね。気分を害したのなら、謝るよ」
何故だか、緒方さんの言い方が癪に障った。
「別に、親しくなんかありません…」
「そういや、ゼミの仕事のとき…」
僕が言い終えぬうちに、緒方さんが独り言のように言った。
「え?」
僕が聞き返すと、緒方さんは足を止め、僕を見下ろした。
「いや、仕事で同じホテルに泊まったときに、彼と一局打つ機会があってね。そのときの彼の様子に、気にかかることがあったんだ」
緒方さんは再び歩きはじめ、僕は緒方さんの斜め後ろから、彼の歩調に合わせてついて行った。
「気にかかることって、なんですか?」
平静を装いながら、僕の声はうわずっていたかもしれない…
緒方さんはもう一度僕を振り返った。しばらく悩むように口元に手を寄せて、視線を宙にさまよわせてから、僕を見た。
「どこから話すにせよ、長くなりそうだ。場所を変えよう」
僕は緒方さんに導かれるままに、彼の後を追った。
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