断点-3 2
(2)
公開対局やら指導碁やらのイベントも随分慣れてきたけど、やっぱり疲れる。
プロって手合いだけじゃなくてこういうイベントも多いんだって、最近やっと実感してきた。
でもオレはやっぱ敬語とか得意じゃないし、オジサン達相手にも、ついついフツーの喋り方をしてしまっ
たりして、棋院の人には失礼だとか言われて怒られるし、和谷には馬鹿にされるし、でも、お客さんだっ
て喜んでるんだからいいじゃねーか、と言ったら、ちっとは塔矢を見習え、なんて言われてしまった。
塔矢はこういう場にも慣れてるみたいで、いつもみたいに涼しい顔で多面打ちの指導碁をこなしていた。
そう言えば囲碁サロンでも指導碁とかしてたし、大人相手の指導とかも慣れてるんだろうな。
塔矢の指導碁は人気らしい。なんてったって「塔矢アキラ」は既に囲碁界のブランドみたいなもんだし。
強さはもちろんだけど、あのルックスも随分ものをいってるんだろうな。髪も眼も真っ黒で、すごく色白だから、
白と黒の碁石みたいだな、とかオレは思ってた。
そんなところまで塔矢は「若き日本囲碁界の象徴」そのものって感じだ。
こうやって塔矢を見ていると、忘れてしまいそうになる。
あんな事があったなんて、信じられないと思う。
他の誰に言ったって信じないと思う。
でも、あんな風に愛想よく、お人形みたいにキレイな、でもお人形みたいに冷たい笑顔をばら撒いてる
塔矢を見てたら、何だか無性に腹が立ってきた。
この大嘘つき。
いつもそうやって皆を騙くらかしてたんだよな
何が囲碁界の貴公子サマだ。
清廉潔白、汚いことなんか何も知りません、みたいな顔をして。
オレにあんなコトしたくせに。
|