夢の魚 2
(2)
それ以外はどうなんだろう?
思えば、囲碁を抜きにして進藤と会うのは、これが初めての経験だった。
何度か、進藤の学校まで会いに行ったこともあるけれど、それはやっぱり囲碁がらみの用件だった。
そう思うと、僕は改めて緊張を覚えた。
純粋にプライベートで進藤と会うのはこれが初めてなんだ。
「でも、お友達と出かけるっていうのは良い事だわ。
アキラさんはせっかくのお休みも家で碁盤に向かっているか、研究会に行くぐらいですものね。
たまには高校生らしく、遊びに行くのも大切なことだわ。
お夕食はどうするの?」
「あ、どうするんだろう。後で電話します」
「わかったわ、楽しんでいらっしゃいね」
待ち合わせは飯田橋の改札。
僕は約束の時間より少し早めに到着したのに、進藤はもうきていた。
「よお」
軽く手を上げて笑いかけてくる。
僕は足を速めた。
「待たせたかな?」
「まだ約束の時間にもなってないよ」
朗らかにそう言う進藤は、棋院で見るのとは少し雰囲気が違う。
いつもの張り詰めた空気がない。
穏やか…違う。なんだか、日向でまどろむ猫のような、リラックスした感じだ。
僕は少しだけ懐かしく思った。
初めて会った頃の、彼の姿が思い出される。
同じ6年生じゃないかと、互い戦を申しこんできたときの、あの屈託のない無邪気な進藤をだ。
僕は、彼の素顔を垣間見たようで、余計に嬉しく感じた。
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