ストイック 21
(21)
緒方さんの口の端がくっと上がり、驚きの表情は不敵な笑みに変わった。
僕は緒方さんを見据えながらも、目の端で退路を探した。
緒方さんが前へ出たのと、僕が横へ駆け出したのは、ほとんど同時だったと思う。
左手首を掴まれて、僕は逃れそこなった。
振り切ろうと身体を捻らせたところに足を掛けられ、あっけないくらい簡単に、僕は転ばされた。
立ち上がろうとした僕を、緒方さんは跨ぐようにして押さえつけた。
なんとか逃れようと、もがくように手足を動かしているうちに、僕の肘が緒方さんのこめかみを打った。
その拍子に、緒方さんの眼鏡が落ちた。
眼鏡越しではない緒方さんの目を見たのは、それが初めてだった。
色素の薄い、酷薄な瞳に、僕は一瞬気をのまれた。
僕が動きを止めたその一瞬をついて、緒方さんは再び僕にキスをした。
先ほどの触れるだけのキスとはうってかわった、激しいキスだった。いや、僕が知る限り、キスなんていう生易しいものじゃなかった。
割り入ろうとする舌にさせじと歯を噛みしめていると、緒方さんは僕の顎を強く掴み、無理やり口をこじ開けた。
唇を、歯を、舌を、口腔の全てを蹂躙された。時に貪るように、時に焦らすように。
弄られながら、僕はひどく腹を立てていた。
緒方さんの理不尽な仕打ちに。
そして、こんなキスにさえ反応している僕の身体に…
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