夏の終わり 21 - 22
(21)
ふたり、水をかぶったように汗をかいていた。
ふたり、全速力で駆けぬけたあとのように、荒い息をついていた。
進藤が、苦しい息のなかからそっと尋ねる。
「わかる?」
彼の手が、僕の腹を撫で擦っていた。
「さわって」
進藤が投げ出されていた僕の手を取り、腹に置く。手を重ねたまま、また動く。
僕のそこには、薄い肉を突き上げるナニカがあった。
真剣な瞳が、僕の瞳を覗きこんでいる。
僕は小さく頷いた。
わかる。
進藤が僕の中にいる。
理性が戻ってくる。
ぱしっとひとつ瞬きをして、僕は恋人を見つめる。
全身に汗をまとい、自分を抱きしめている男を見つめる。
―――――ヒカル…
喘ぎと一緒に恋人の名前を呼ぶ。
愛しさという熱が全身を満たしていく。
「好きだ」
という言葉は飲み込んだ。
いまは胸がいっぱいで、言葉にできない。その代わりに、僕は自分から、キスを強請った。
進藤の肩に手をかけ、ほんの少し体を起こし、自分から唇を奪いにいった。
そのとき、身体のなかで進藤がぐりっと動いた。
それは、僕の前身を走りぬける甘い疼きを生む。
――――――う…んっ…………
進藤の両手が、僕が浮かした背中の下に入りこみ、その身体を支える。
「おかしくなりそう……」
進藤が体を起こし、僕の立てた足の膝裏にそれぞれ手を入れる。
足を抱え上げられ、僕の背中が畳で擦られる。そのとき、進藤の熱く滾ったものが僕の肉壁を抉るように動いた。
僕の足をしっかり抱え、進藤が動いた。
灼熱の律動に、僕はちいさく身体を震わした。
進藤が長いストロークで、僕を追い上げていく。
汗が散る。
声が上がる。
息が乱れる。
深く押し入るそれに僕はうめいた。
ゆっくりと引いていくそれに、僕は追いすがった。
繋がっているのは身体の一部分でしかないのに、そこから生まれる熱は僕のすべてを満たしていく。
「怖くないよ」
僕は、無意識に呟いていた。
突き上げられて甘く泣き、突き放されてしがみつき、それでも怖くないと、途切れ途切れに呟いていた。
ひとつに溶け合う瞬間、僕たちは深いくちづけを交わしていた。
(22)
「ただいま」
父と母が帰ってきたとき、僕たちは何事もなかったように縁側に近い座敷で、碁盤を挟んでいた。
「あ、良かった。あなた進藤君、まだいらっしゃるわよ」
僕たちは、連れ立って玄関まで迎えに出る。
「お帰りなさい。進藤、今日泊まっていきますから」
「先生、今日もお邪魔します」
進藤が、僕の隣で頭を下げる。
「あなたたち、お夕飯は?」
「あ、まだなんだ。なにかあります?」
「また、夢中になっていたんでしょ。はい」
母の言葉に、鼓動が跳ねた。確かに、僕たちは夢中になっていた。
時がたつのを忘れるほどに。
「実は、進藤君の分も買ってあるの。帰ってたらどうしようと思ったわ」
母が、行き付けの寿司屋の折を掲げて見せた。
「良い日本酒をいただいたんだ。君たちも付き合いなさい」
そう言って居間へと向かう父からは、お酒の匂いがした。
「進藤君、明日一局打とうか?」
「お願いします」
「明日よ、明日。今日は碁の話はなし。ね」
母が朗らかに笑う。
父が苦笑を零し、僕たちは子供を演じる。
そんな、夏の終わりの夜。
鬼灯の花言葉は、――――「偽り」と「欺き」。
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