ストイック 22
(22)
こんなやり方に屈したら…
(屈したら、どうなる…?)
快楽に流されそうになる身体を、精神力で捻じ伏せた。
左手は押さえられていたので、僕は自由になる右手に渾身の力を込めて、緒方さんの身体を押しのけた。
転がるようにして緒方さんの腕から逃れ、立ち上がろうとしたとき…
膝の下で乾いた音がして、何かが壊れた。
咄嗟に目をやると、それは緒方さんの眼鏡だった。フレームがひしゃげ、レンズが外れてしまっていた。
僕たちは二人して動きをとめ、気まずい、というよりはどこか間の抜けた沈黙が室内に落ちた。
沈黙に耐えかねて、先に口を開いたのは僕の方で、また口をついて出たセリフがひどく間の抜けたものだった。
「…ごめんなさい」
そう言って顔をあげると、緒方さんと目が合った。
緒方さんは何も言わず、やがてこらえきれぬといった風に笑い出した。
喉を鳴らすように笑う緒方さんにつられて、僕も笑った。
何がおかしいのか、さっぱりわからなかったけれど…
笑いの波がひくと、緒方さんは服についた埃をはらいながら立ち上がった。壊れた眼鏡をつまみ、もう片方の手を僕に差し出した。
邪険にしては気持ちを逆撫でしてしまうだろうかとも思い、またなんとなくしらけてしまった雰囲気に、僕は不用意にも安心してしまっていた。
僕は緒方さんの手を借りて立ち上がった。緒方さんはそのまま僕を引き寄せ、あっという間に僕を肩に担ぎ上げてしまった。
「緒方さん!」
「気にするな、眼鏡ならスペアがある」
ふざけているのか真面目なのか、まったくわからない口調でそう言いながら、緒方さんは壊れた眼鏡をゴミ箱に投げ入れた。
僕を担いだまま、緒方さんはリビングの奥にあるドアに手を掛けた。
僕はそのドアの向こうに何があるかなんて知らなかったけれど、簡単に想像はついた。
それは寝室に続くドアであろう、と。
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